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ジェネリック医薬品を正しく知る|日本ジェネリック製薬協会 田中俊幸 前編

日本ではようやく定着してきた感のある「ジェネリック医薬品」。

みなさんも薬局やお医者さんで耳にしたことがあるかと思います。

でも果たして、何人の方が本当のジェネリック医薬品について知っているでしょうか? 誤解したり勘違いしている人も多いかもしれません。

今回、そんなジェネリック医薬品について、長きに渡り業界でジェネリック医薬品と向き合っている専門家にお話をうかがってきました。

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田中俊幸(たなか・としゆき)
日本ジェネリック製薬協会 政策委員会 実務委員長
慶應義塾大学商学部卒業後、銀行勤務を経て、平成22年4月に東和薬品株式会社へ入社。平成25年に日本ジェネリック製薬協会 総務委員長に就任、その後、渉外統括部長を経て、現職に至る。

ジェネリックが安いのは、開発コストが低いから


――「ジェネリック医薬品」という言葉が登場して、もうだいぶ経ちます。なんとなくわかっているつもりですが、本当のところはよくわかりません。改めて教えてください。

田中俊幸氏(以下、田中):
「おっしゃる通り、さまざまな調査によると、『ジェネリック医薬品』という言葉は、すでに9割以上の方がご存じのようです。

でも、言葉は知っていても中身が正確に浸透しているかは怪しいです」

――「ジェネリック医薬品」という言葉が使われはじめたのは、いつ頃のことになるのでしょう?

田中:
「色々調べてみましたが、残念ながら定かではありませんが、1997年頃ではないかと思います。

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公的な文書で『後発医薬品』(=『ジェネリック』)という名称が使われた例としては、1993年の厚生省の報告書があり、その後2002年以降は結構使われるようになっています。

そして現在、日本で発売されている医薬品は約1万6000品目ありますが、そのうちジェネリック医薬品は約9600~9700品目です」

――安いというのは知っています。でも、なぜ安いのでしょう? 期限切れの薬だから、ですか?

田中:
「そういうあやふやな誤解がありますね。

まず、ジェネリック医薬品を語る前に、医薬品全般についてご説明しましょう。『医薬品』には、大きく分けますと『医療用医薬品』と『一般用医薬品』の2つがあります。

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『医療用医薬品』の多くは医師等による処方箋がなければ入手出来ません。一方、薬局やドラッグストアで処方箋なしに買うことができるものが『一般用医薬品』(大衆薬、OTC医薬品〈Over The Counter Drug〉とも呼ばれます)です。

ジェネリック医薬品は前者の『医療用医薬品』です。ジェネリック医薬品以外は『新薬』となります。まずは新薬について説明しましょう」

――新薬とは、ゼロから作った薬ということですね?

田中:
「そうです。新薬の開発の方法には、『創薬スクリーニング』と『疾患のメカニズムからの創薬』があります。

前者は様々な化合物から薬理作用のある化合物を探し出す方法で、例えば自然界にあるもの――たとえば、森に棲むバクテリア等――を採取して、これの産生する物質が薬になるかどうかを研究するものです。

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一方後者は、ヒトの疾患の原因となる特定の生体内の物質を、例えば阻害するような化合物を見つけ出して薬とする方法です。

これらの方法によって薬の候補となる化合物等を見つけたら、各種動物で安全性試験などが行われます。これを『非臨床試験』と言います。

非臨床試験により安全性などが確認された後に、ヒトでの試験が開始されます。これを『臨床試験』と言います。

こうした試験により有効性・安全性などが確認され、国に新薬としての承認申請が行われ、厳密な審査を経て承認されたものが、ようやく新薬として世に出ることができます。

この過程に、数百億から千数百億円の費用と15~20年の長い時間が必要となります」

――たいへんなコストと時間です。ジェネリック医薬品は、この研究開発費がいらないというわけですね?

田中:
「基本的には、その通りです。新薬の開発においては、早い段階で候補化合物の物質特許を取得します。その特許期間は概ね20~25年です。

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特許には4種類ありますが、主となるのはこの『物質特許』と呼ばれるもの、薬の『有効成分』に関する特許です。

先ほど述べた莫大な費用は、この部分の研究開発にかかるものです。このため特許制度により保護されることになります。

ジェネリック医薬品は、この特許期間が終わり公共物となった有効成分を使うので、価格を抑えることが出来ます。

但し最近のジェネリック医薬品には臨床試験を必要とするものもあり、研究開発費は上昇傾向となっています

また、日本では新薬については製造販売後8~10年間、臨床での使用実態下の特に安全性に係る情報収集等が新薬メーカーに義務付けられています。

この期間は『再審査期間』と言われますが、ジェネリック医薬品の承認、発売は、新薬の特許期間と再審査期間の終了後になっています」

添加剤の工夫はジェネリック医薬品メーカーの生命線

――有効成分は新薬メーカーが作ったものを利用するわけですね?

田中:
「ただし誤解してほしくないのは、ジェネリック医薬品は何も工夫していないわけではないということです。有効成分は同じですが、『添加剤』を変えている場合があるのです」

――添加剤とはなんですか?

田中:
「通常、医療用医薬品の有効成分は、10㎎とか多くても1g程度の分量です。これを錠剤にしたり、患者さんが取扱い易く、また飲みやすくするために使用されるのが添加剤です。

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昔、『糖衣錠』と呼ばれている薬がありましたね。これは有効成分を白糖で表面を包み、有効成分の苦味や匂いを包み込んでいるものです。

添加剤は『包む』だけではありません。たとえば、米国などでは薬の粒がとても大きい。

ヒトが服用するのに、入浴剤くらいの大きさがあったりするものもあります。そこでこれを日本人に合ったサイズに調整する。

ジェネリック医薬品メーカーは、こうした工夫をします。これを『製剤工夫』といいます」

――サイズを小さくしたら、有効成分が少なくなるのでは?

田中:
「いえ。薬の有効成分というのは、『点』に近いほど小さいものです。

そんなに小さいと、薬を服用するに辺り、つまめなかったり、他の薬との違いがわかり辛くなったりして、取り扱いが難しくなります。

だから、どの薬も添加剤で包んで、扱いやすくしている。添加剤にはそのような役目もあります」

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――薬全体が有効成分だと思っていました。

田中:
「そう思い込んでいる方が多いと思います。

もちろん、この添加剤は、基本的に人体への影響はありません。『基本的に』と述べたのは、まれに添加物成分でアレルギーを起こす人がおられるからです。

ただ、これはジェネリック医薬品に限ったことではありません。アレルギーをお持ちの方は、新薬、ジェネリック医薬品を問わず、添加剤の中でアレルギーを起こすものがあるかもしれません。

つまり、添加剤と体質との関係は、新薬もジェネリック医薬品も同じだということです」

――他に添加剤を使う理由は?

田中:
「薬の有効成分そのものだと、苦いものが多くなります。そのままでは、とても飲めません。

昔は粉剤の薬が多く、そのためオブラートで包んで飲んだりしていましたね。

現在、オブラートをほとんど見ないのは、製剤技術が向上して、多くの薬は、この添加剤により錠剤化されており、また苦味をマスクすることによって飲みやすくしているからです。

また『口腔内崩壊錠』というのがあるのをご存知ですか?」

――むずかしい単語ですね? それはなんですか?

田中:
「『水なしで溶ける』薬のことです。

口腔内崩壊錠は、たくさんの薬を飲む高齢者や、災害などで避難している際にも服薬が欠かせない患者さんから、強い要望があります。しかし製造がむずかしいのです。

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というのは、口の中ですぐに砕ける一方で、工場から出荷して、薬局そして患者さんの手元に届くまでに、砕けてしまわないようにするからです。硬さの微妙な調整が必要なのです」

――他にはどんな製剤工夫がなされているのでしょうか?

田中:
「たとえば、日本の薬というのはほとんどが白です。

米国などでは赤、青、緑とさまざまな色が施されていますが、日本人はそういった色をきらう傾向があるのです。しかし白ばかりでは間違いやすい。

そこで、飲み間違い防止のために、薬の名前を印字します。これもジェネリック医薬品の大きな工夫のひとつです。

このように、ジェネリック医薬品のメーカーは『製剤工夫』でしのぎを削っているわけです」

――ジェネリック医薬品も、研究開発を行っているのですね。

田中:
「主に臨床で使用されやすい製剤の開発、先発医薬品と治療学的な同等性を確認するための生物学的同等性試験の実施などの研究開発のため、平均で約3~4年の歳月と約1億円のコストを費やしています。

ただし最近は、この『製剤工夫』も高度化し、1億円程度の開発コストでは済まない事例もあります。

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たとえばインフルエンザ治療薬に代表される吸入粉末剤です。こうした吸入粉末剤は、ジェネリック医薬品でも臨床試験が求められます。そのために開発コストがかかるというわけです。

それ以外でも、ジェネリック医薬品同士の競争に打ち勝つため、さまざまな『製剤工夫』が研究されているため、コストは年々上がっています」

――逆になぜ、新薬メーカーは製剤工夫をしないのでしょうか?

田中:
「先ほど述べたように、新薬メーカーは有効成分の開発に莫大なコストをかけます。その投資分を早く回収しなければなりません。

新薬メーカーが製剤工夫をしていない訳ではありませんが、新薬という性格上、早期に医療現場に提供するとの観点から、限られた製剤工夫に留まるのではないかと思われます。

逆にジェネリック医薬品は、この『添加剤の工夫』が生命線です」

ジェネリック医薬品のことを取材している中で、そもそも薬剤を作る製剤の過程において、ユーザーの為に色々な工夫があることを知りました。

どんな商品にも企業努力が大切なのは、薬の世界も同じなのですね。次回に続きます。

ジェネリック医薬品を正しく知る|日本ジェネリック製薬協会 田中俊幸 前編
ジェネリック医薬品の可能性とは?|日本ジェネリック製薬協会 田中俊幸 中編
ジェネリック医薬品の将来を語る|日本ジェネリック製薬協会 田中俊幸 後編

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