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5G、IoT、AIが自然にまぐわう世界?| IoT技術コンサルタント・伊本 貴士 第2話

(第1話の記事はこちら
5Gの通信環境が整う世界では、「通信速度が速くなり」「超・低遅延」「最大接続数の増加」が実現すると言われています。平たく言えば、今とは比にならないくらい、通信がサクサクになる!というわけです。

そこで注目を集めているのが、伊本さんが専門としているIoTとの連携・連動です。どんな世界が現実になってくるのでしょうか?

伊本 貴士(いもと・たかし)
IoT・AI・ブロックチェーンなどさまざまな最新技術に関する技術戦略立案や調査を行うメディアスケッチの代表取締役。IoT・人工知能などの最新情報を中心とした情報提供、またその知識を広めるため自治体のアドバイザー、大学・日経ビジネススクールなどの講師を務める。全国各地で講演活動を行うほか、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」、テレビ朝日「サンデーLive!!」などに出演。著書に「問題を解いて実力をチェック IoTの教科書」「IoTの全てを網羅した決定版 IoTの問題集」(ともに日経BP社)など。

データの分析と活用がIoTの強み

――5GとIoTのつながりが強いというのが面白いと思ったのですが、たとえばeスポーツなどのエンターテインメント、あるいは自動運転車など、一般人にとってもIoTが5Gでなければならない理由があるということですね。

伊本:
「そうですね。たとえば、自動車の情報をリアルタイムに企業に送って、カーシェアリングに使われるのではないかとよく言われています。

駐車場に車が置いてあって、スマートフォンのスマートキーを使って鍵を開けて、他人の車でも誰にも断らず勝手に乗ることができる。

乗っている間にどこを走った、どこを曲がったというデータも取れるので、帰ってきたら使った分だけ料金を支払うというサービスが可能です。

また、乗車時のデータで安全運転をしているか判断し、保険料に換算するという取り組みを始めている保険会社もあります」

――すごい! 便利ではありますが、監視社会的なものも少し感じますね。

伊本:
「いろんな情報がリアルタイムに企業と個人でやり取りできるようになるので、見方によっては監視されていると感じる人もいると思います。

一方で期待しているのは、老人の徘徊とか、子どもの見守り。

すでにGPSを使えば位置情報の把握はできますが、5Gは情報通信量が増えるので、リアルタイムで見守りつつ、子どもが危険な場所に行こうとしたらアラートが鳴る、という付加価値を付けることもできるようになります。

5Gになることで、IoTは通信に関してフリーになる部分が増えるのではないか、いつでもどこでも何にでもつながる、まさにIoTという形になるのではないかという期待があるんです」

――なるほど。今、IoTは実際の生活の中にはそれほど入って来ていないと思うのですが、普及の進捗度というのはどれほどのものなんでしょうか?

伊本:
「業界によってばらつきがありますが、その中でも農業は進んでいますね」

――農業ですか?ちょっと意外です。

伊本:
「意外でしょう?農業のような第一次産業はITを使わないイメージがありますし、実際使っていませんでした。

IoTというのはデータを大量に集めて利用するというところに価値があるので、実は今まで人間が勘でやっていたところにこそ非常に効果が出るんです。

これまで、一体どういう環境でイチゴを育てれば甘くおいしくなるのかというのは、農家の『経験』と『勘』。

そこにIoTを取り入れてデータに基づいて栽培したら、とてもいいイチゴができるようになったということで、どんどん広がっていきました」

――ドローンを飛ばして田畑のデータを取得するというのはよく聞きますが、他にIoTを生かした農業というのは、どんなものがありますか?

伊本:
「精密農業というんですけど、たとえばビニールハウス内で気温湿度を管理して、『どういう状態にしておけば病気にならずにおいしいイチゴが育つか』ということをデータとして分析するんです。

産業の成功事例として一番有名なのは、山口県の旭酒造の『獺祭(だっさい)』という日本酒です」

――有名なお酒ですね。

伊本:
「お酒の造り手である杜氏さんに頼らずに、コンピューター管理し、データに基づいたお酒を造っています。

だから品質が安定するんです。もっと高品質にするためにいろいろな研究をしているし、海外ですごく人気があるので、海外の人の口に合う日本酒を作っていこうとしています。

『こういう作り方をすればこの味になる』というポイントがデータで分かっているので、日本人向け、海外の人向けと味をカスタマイズすることができるんです。

リアルタイムでモノや工場の状況を把握するために、センシングしたデータを無線で送る、というのがIoTの第1段階。

そこ、集めたデータをソフトウェアで分析し、その分析結果によってモノや機械を動かす、これが第2段階。

最終的にはその判別・判定・分析というのを、人間がソフトウェアを使って行うのではなく、AIにやらせようというのが第3段階。

この“見える化・制御・分析の自動化”が「loTプロジェクトの三段階」呼ばれています」

5GとIoTが日本人の価値観を変える

――そうだったんですね、「IoT」という言葉に引っ張られて、物体がインターネットにつながって、動いて、人間の役に立つ、というようなものだと思っていました。

伊本:
「モノがインターネットにつながるというのは、非常に狭義の意味でのIoTですね。例えば、電子レンジがネットにつながって『レシピをダウンロードできます』だけじゃおもしろくないでしょう。

そうではなくて、その人が『いつ使うのか』、『どういう料理を電子レンジに入れているのか』ということをセンシングで把握、分析して、AIが自動的に『今ピザを焼こうとしていますね、ピザだったらこういう温度がいいですよ』と自動調整してくれるというところまで行ってほしい。

そこに新しい価値が生まれるので。他の例で言うと、Google傘下のNest(ネスト)という企業は空調を制御する機械を造っていて、人工知能を使って勝手に部屋を快適な温度に設定してくれます。

スマートスピーカーのように『温度を下げて』と声で命令する手間すらないんです」

――なるほど、IoTとAIは密接につながるんですね。

伊本:
「はい。このように、IoTやAIが普及してくると、人間は何もしなくなると思います。VR映像があれば外に出なくても海外旅行に行った気になれますし、満員電車に乗って出勤する必要もなくなります。

家で仕事をして、VRゴーグルを付けるとオフィスの様子が映し出され、隣を見ると他の社員が座っている。

普通に出勤するのと何ら変わらないわけです。IoTによって今まで別々に動いていた『物理世界』と『サイバー世界』が融合されるので、物理的な場所がどうとか、そういうことに価値を見出さなくなってくる。

5GやIoTによっていろんなことができるようになると、恐らくいろいろなものの価値観が変わります。それを見直すことによって、物事のあり方を再定義しないと、日本は世界に取り残されてしまうと思います」

――5G、IoT、AI、といったものがリアリティを持って行く中で、日本の企業は、どう立ち向かい、どう変化していくべきなのでしょうか?

伊本:
「まず、変わる気があるのかどうか? 危機感は持ってほしいですね。『今のまま変わらなくても大丈夫』と思っている企業は何もできないと思います。

日本にも『何とかこの現状を打破したい』と考えて、積極的にIoTに取り組んでいる企業はたくさんあります。

自社の既得権益だけじゃなく、精神論を捨てて、合理性を育んでいく。それがIoTの世界なんです」

5GやIoTがもたらす未来は可能性に溢れていますが、そのチャンスをうまく生かすためには、一度日本の企業として自分たちを見つめ直していく必要がありそうです。

本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

取材・文/河鐘基(ロボティア)、写真/荻原美津雄、取材・編集/鈴木隆文(FOUND編集部)

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