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これからの物流業界を読み解く|ローランド・ベルガー 小野塚征志 後編

物流業界の今と未来について、専門家にお話を聞いてきた連載も今回で最後になります。

ネットショッピングが日常生活に当たり前となった昨今、これからの物流業界は、買う人も運ぶ人にとっても、便利で安心で未来ある業界となるのでしょうか?

今回もロジスティクス業界に詳しい、小野塚さんにお話をうかがいます。

小野塚征志(おのづか・まさし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て、2007年にローランド・ベルガーに参画。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等をはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。著書に「ロジスティクス4.0」(日本経済新聞出版社)

ロジスティクス4.0のバラ色の未来

――前回のお話からすると、ロジスティクス4.0には、バラ色の未来が待っているわけですね。

小野塚:
「いえ。やはり、物事には両面があります。バラ色の未来もあれば、こわい話もあります」

――それはぜひお聞きしたいです。まずはバラ色の未来から。

小野塚:
「隊列走行やドローン、ロボットによる配達の実現で『省人化』が進み、また『標準化』でトラックの台数や倉庫を減らせることができれば、まず送料が下がるでしょう。

そうなると、人々の通販を利用する頻度がますます増えます。とても便利な世の中がやってくるというわけです。

さらに、一般の人にはあまり意識されていなかった部分でも大きなことが起きます。

実は、物流業界の顧客(私たちは通常、荷物を受ける側を物流業界の顧客と考えがちですが、本当は荷物を預ける側が物流業界にとっての顧客です)にとって『ロジスティクス4.0』の最大のメリットは『価格の見える化』なんです」

――「価格の見える化」ですか?送料は決まっているはずです。どういう意味でしょうか?

小野塚:
「これまで物流業界はほとんどが手作業で行われていました。

ロジスティクス3.0の際に、『管理・処理のシステム化』改革が起きましたが、それでも他業界に比べると『どんぶり勘定』だったんです。

なぜかと言うと、利用したトラックに荷物が何個載せられていたか、その荷物が倉庫に何日保管されていたか、などによって費用が変わってしまうからです。

荷物1個当たりの値段を算出するはきわめてむずかしい。

実は、日本の物流業界では、ヤマト運輸と佐川急便、日本郵政以外は定価がありません。経験と勘で見積価格をはじき出していたんです」

――意外なお話です。

小野塚:
「しかしロボットなどのIT技術を導入すれば、すべてがデジタル情報として集約できます。その段階で『価格の見える化』が起きるというわけです。

見込み額ではなく、定価で物流システムを使うことができる。ここがユーザーの大きなメリットになります」

ロジスティクス4.0の、真の勝者は?

――さまざまなメリットを享受できるわけですね。で、こわい話というのは?

小野塚:
「自動運転トラックが完成した時、日本の運送会社はどうなるでしょうか?ということです。

現在、日本の運送会社の数は6万社と言われています。大多数は数十人規模。これらは大手物流会社からの下請、孫請の仕事で成り立っています。

ロジスティクス4.0は、彼らの仕事を奪ってしまう可能性があるのです」

――どういうことになるのでしょう?

小野塚:
「私がトラックメーカーなら、自動運転トラックは販売するのではなくレンタルするでしょう。

なぜなら、自動運転車の場合、事故を起こした時にメーカーも責任を問われる可能性があるからです。

そのリスクを抑えるために、メーカーは、トラックを定期的にメンテナンスしたい。それにはレンタルのほうがやりやすいのです。

このようにしてトラックメーカーは、トラックの販売からレンタルをするビジネスモデルに生まれ変わります。自動運転トラックなので、運転手付きのトラックを貸すのと同じですね。

一方、大手物流会社は、従来から自社で必要以上にトラックを持たず、実際の輸送業務を下請、孫請に発注していました。

しかし自動運転トラックが登場すると、中小の運送会社ではなく、トラックメーカーから自動運転トラックを借りるはずです。するとどうなるか?

6万社もの企業が、物流市場から退場せざるをえなくなるのです。

一方、省人化や標準化へ積極的に投資できる企業はさらに大きくなる。ここで大きく明暗が分かれるでしょう」

――6万社にはどんな選択肢があるのでしょうか?

小野塚:
「トラックメーカーが、レンタル業を開始するのではないかと述べたように、ロボットメーカーが倉庫ロボットをレンタルする事業を始めるかもしれません。

もし優秀なソフトメーカーが、平均積載率を飛躍的に向上させるマッチングアプリを開発したら、物流会社はみんな飛びつくはずです。

しかもマッチングアプリなどは10社も20社も必要ありません。スマートフォンと同じで数社で十分です。

このように、ロジスティクス4.0は物流業界だけでなく、隣接するさまざまな業界から、大きなビジネスチャンスだと捉えられています。

6万社がこの大きな波を乗り越えるには、『オープン・プラットホーム』を構築し、協働するしか手はないと思います」

寡占化は正しい道なのか?

――物流がいくつかの大手企業に集中する可能性があるというわけですね。その場合、競争原理が働かないおそれはないのでしょうか?

小野塚:
「たしかにその懸念はあると思います。しかし視野を広く保つべき時かもしれません。

というのは、先ほど述べたように、日本には運送会社だけで6万社もあるということです。もう少しまとまって効率的な仕組みを作ったほうがいいのは明らかです。

また、日本だけを考えるとしたら、巨大企業数社で市場を占めるのはよくないかもしれません。

しかし物流業界には、潜在的なライバルとしてアマゾン社があります。

仮に『アマゾン社対6万社』の戦いが起きたとしたら、6万社はアマゾン社にとって『飛んで火にいる夏の虫』です。これも明らかに国益を損なう。

その点を見過ごすことはできないと思います。

だから、国内を数グループにまとめたり、中小の会社でも成長できるような『オープン・プラットホーム』を作る必要があるのです。

まずは6万社が共通の伝票を使えるようにしようとか、すべての伝票を読み取ることができるセンサーを開発しようとか、同じ規格のタグを付けて、情報の共有化を図ろうとか、こういった取組みからでも始めなければなりません。

現在、日本の物流業界は、売上1000億円以上の企業が30社以上もあるという群雄割拠の時代です。

互いをライバル視し、バラバラの戦略をとっている。唯一、次の段階へ移ることができたのは宅配分野だけです。独占化、寡占化に対する危惧は先の話です。

そうであるからこそ、『ロジスティクス4.0』は大きな可能性を秘めていると言っていいかもしれません」

――日本のロジスティクスが今、大きな曲がり角に差し掛かっており、そこには大きなビジネスチャンスが存在するということがよくわかりました。

本日はありがとうございました。
(おわり)

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取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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