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中国経済の行方と日本企業の勝機|ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員・大西康雄 第2話

米国と中国での貿易摩擦などはあるものの、中国経済は未だに勢い、存在感が高いというお話を大西康雄氏(ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員)から聞くことができました。

第2話では、その中国経済の中身について、内側の事情にスポットライトを当てて紹介することにしましょう。

「中立的で」が取れて「穏健」が強調される金融政策

「中国経済がクールダウンしている」という指摘が当たっているかどうかはさておいて、2018年は中国で流行語のように言われている言葉があります。"消費降級(不況に備えて生活レベルを落とすムーブメント)"という言葉です。この言葉が示すのは、節約志向が強まっている中国国内に暮らす中国人の一部の消費動向です。

この言葉に対応するかのように、現在の中国政府は消費落ち込みへのてこ入れとしていくつかの景気対策を講じています。が、そのなかで重要なのは「金融政策」と「減税」だと大西氏は指摘します。

大西氏:
「金融政策については、1月に預金準備率を2段階で合計1%引き下げました。抜本的な効果は期待できませんが、2019年の金融政策は、昨年12月の経済工作会議で『緩和気味』ということに決まっています。

言葉遊びのような表現ですが、それまで『中立的で穏健な金融政策』だったのが、『中立的で』が取れて『穏健』が強調されるようになりました。その意味するところは『もう少し緩和する』ということで、金融政策で景気を支えたいという意図が示されています」

この金融緩和は今後さらに続きそうです。

しかし重要なのは、これでお金が回るのが、国のお金で決して優良とは呼べない国営企業=ゾンビ企業ではなく、本当に資金を必要としている企業におカネが回るという点だと言います。

企業と個人合わせて1兆3000億元(約21兆円)の減税

では、もう一つの柱である「減税」についてはどうでしょうか。この減税額が、中国ならではのスケール、巨額なのです。

大西氏:
「減税はこれまであまり行われてきませんでしたが、去年から今年にかけて、企業と個人合わせて1兆3000億元(約21兆円)の減税を実施しています。

公共投資で景気を維持する手法が限界に達している。そんな中での減税には効果が期待されています。1月には、減税幅も増やされています。

金融政策が続けられるのに加えて、この減税は、今後も続けるはずです」

米中貿易戦争に景気減速、産業構造の問題などマイナスの話題も少なくありません。

しかし、いくつかの景気対策も講じられていることから、中国市場は依然として有望でなのではないか、と大西氏は見立てています。

それに加えて見逃せないのが、人口の増加だと大西氏は指摘します。

約3億人もの人々が暮らす、先進国並みの中国36都市

大西氏:
一人当たりGDPが1万米ドル(約111万円)を超えると先進国並みになる、中国について言われていることです。

しかし現在でも、中国にはGDP1万米ドルを超える都市が沿岸部を中心に36都市もあり、そこではなんと約3億人もの人々が暮らしているのです。

そして、農村部から都市部に大勢の人々が流入していますから、そこにはさらに新たな需要が創出されるわけです」

中国は、こうした都市部が消費を引っ張る構造になっているというわけです。しかし、想像以上に多くの都市が、高いGDPの地域、先進国並みの地域となっているようです。

しかも急速にそこへ人口が流れていっている。これが中国経済を強くしないわけはなさそうです。

外資企業がビジネスをしやすい環境

そして、先進国並みの都市の増加、人口増加が意味するのは、それだけ中国の若者の消費意欲が高まっているということにもなってきます。

そこへきて中国が着目しているのが、外資系企業だと大西氏は指摘します。

「中国政府は貿易摩擦の間にさまざまな自由化を進め、外資企業がビジネスをしやすい環境を整えはじめている」というのです。

その恩恵なのか、増えているのが海外からの「直接投資」なのだそうです。

大西氏:
「関税を引き下げたり、知的財産権の保護を強化したり、進出企業の手続きを簡略化したりと、中国は地道に自由化や国際化を進めています。

中国でも経済の論理は生きていて、習近平国家主席が行っている時代錯誤の政治手法とは全く違う方針で動いています。

その努力の甲斐もあってか、2018年の海外からの直接投資(FDI)実行額は1349億7000万米ドル(約15兆円)と過去最高額にのぼりました

わたしたちの国、日本からのFDIも前年比13.6%増の38億1000万米ドル(約4200億円)と高い水準で、中国市場へと向かっている。

まだまだ中国という市場への強い意欲を持っている日本企業は多いのです。

ジェトロが行った「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」でも、中国で今後事業を拡大したいと答えた企業は、半数近くにまでのぼっています。

様々な分野の産業が中国市場を目指すなか、特に意欲的なのが化学・医薬、卸売・小売業、輸送機械器具だそうですが、その他にも日本が最も得意としてきた産業が、中国への投資に積極的だと大西さんは説明します。

有望な関連企業

それが、自動車関連の企業です。

大西氏:
「中国では、2018年は28年ぶりに自動車販売台数が前年割れしてしまいました。しかし、それは市場が飽和状態だったのと、自動車取得税に対する優遇政策が終了したことが要因となっていました。

しかし、数字を見てみると、前年割れといっても、販売台数は2800万台以上に上っています。相変わらず世界一の市場です。

ですから部品メーカーも含め、自動車業界は各社が中国での事業拡大に意欲的です。

それから注目したいのは小売業です。

無印良品やユニクロのような先端的な企業も好調ですし、従来型の業態では、イオンの調達や配送システムが中国での展開を有利に進めていて、優位性を誇っています

日本の小売業は厳しい競争の中で効率化のノウハウを長きにわたり積み上げてきたので、「中国市場に入って行く余地はまだまだある」と大西氏は言います。

つまり、これまで中国に進出していない企業にも可能性はある、というわけです。中国で事業を展開するにあたっては、日中関係が好転しているのもポジティブな要素です。

大西氏:
「私が上海に駐在していた2010年9月に尖閣諸島海域で中国の漁船衝突事件が起き、それから日中関係が悪化し長期化しました。

急に中国の要人に会えなくなったことを覚えています。それがここ1年ほどですっかり好転しました。

中国は一党独裁国家なので、トップが握手を交わせばすぐに状況が変わります。習近平国家主席の来日も計画されていますし、これから両国関係はもっとよくなるはずですね」

中国が日本に接近してきているのは、米中貿易摩擦に苦慮しているという事情もあるでしょう。しかし、日本企業にとっては、これは大きなチャンスなのかもしれません。

中国に関しては、その巨大さから恐怖心もあってか、様々な情報が流れてきます。しかし、中国の時代が今後も続くことは間違いなさそう。

日本は、日本ならではの強みや個性を活かし切って、この状況で有利に駒を進めたいものです。もしかしたら、これから対中投資ブームが起きる可能性だって少なくない。

中国経済について、日本人は、ビジネスマンのみならず普通の生活者も、もっともっとアンテナを高めていかなければいけない。大西さんのお話から、そんなことを感じた人も少なくないのではないでしょうか?

大西さん、中国の現在のお話をわかりやすく話してくださり、どうもありがとうございました。

おわり

・中国経済の行方と日本企業の勝機|ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員・大西康雄 第1話
・中国経済の行方と日本企業の勝機|ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員・大西康雄 第2話

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