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中国人「爆買い」を支えたもの |消費生活ジャーナリスト岩田昭男 第1話

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

――最近、日本では「キャッシュレス化推進」の号令一下、さまざまなキャッシュレスの方法が登場してきました。

Suicaなどの交通系ICカードや「○○ペイ」と呼ばれているQRコード決済です。

それぞれが便利さやお得さをうたっていますが、一般の人間には、どれがどれだかわかりません。

今回、クレジットカード研究をはじめ、様々なキャッシュレス決済について研究を続けている、消費生活ジャーナリストの岩田昭男さんにお話をうかがってきました。

岩田昭男(いわた・あきお)
消費生活ジャーナリスト。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修士課程修了後、月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。NPO 法人「ICカードとカード教育を考える会」の理事長としてカード教育にも力を注ぐ。著書に「Suica一人勝ちの秘密」(中経出版)「信用力格差社会」(東洋経済新報社)「O2Oの衝撃」(CCCメディアハウス)など。ホームページ「上級カード道場」主催。

日本のキャッスレスは今後どうなる?

まずは、そもそも「キャッシュレスとは何か?」について教えてください。

岩田昭男氏(以下、岩田):
「実はぼくがずっと活動していた分野も『キャッシュレス』でした。

クレジットカードや電子マネーなどです。

ただし、ぼくがはっきりと『キャッシュレス』と向き合うことになったのは、ようやく昨年(2018年)になってからです。

編集者が突然やってきて、本の執筆を依頼されたのです(『キャッシュレスで得する! お金の新常識』青春新書インテリジェンス)。

――「キャッシュレス」の動きはずいぶん以前から始まっていたと?

岩田:
「はい。日本では『キャッシュレス』という言葉があまり流布していなかっただけです。

ぼくは、1980年の半ばからクレジットカードの研究を始めていました。その頃の米国は、クレジットカードの普及が爆発的に進んだ時代です。

ぼくは、VISAインターナショナルの本社でレクチャーを受けたり、アメリカン・エキスプレスを訪ねたりしました。

そして、『現金を使わない、キャッシュレスな社会』についての感覚を肌身に沁み込ませたというわけです。

日本では2001年にSuicaが登場したあたりでしょうか。首都圏でSuicaによるキャッシュレスが猛烈に進んだ。

もっとも、現在でも『キャッシュレス』について、まだ誰もはっきりとはわかっていないというのが実感です」

なぜ中国でキャッシュレスが普及したか?


――日本では歴史が長いわりに理解が広がっていません。一方、他のアジアの国々ではキャッシュレスがアッという間に普及しました。

岩田:
「2006年くらいに、中国の人たちがぼくを訪ねてきました。

『岩田さんはカードの本をいっぱい書いているけれど、実は自分たちも研究している』というのです。

彼らは中国銀聯(ぎんれい)でした。


その後、中国に招かれて、幹部相手にレクチャーした。そして彼らは、VISAインターナショナルに指導と協力をあおぎ、『銀聯カード』が誕生しました。今では利用高がVISAを抜いて世界一です。

しかし銀聯カードは『デビットカード』(預金口座に紐づけられた即時決済用カード)です。

中国には、日本の『全国銀行個人信用情報センター』のような、信用ネットワークがなかった。先進国より2周遅れだったのです。

だから、クレジットではなくデビットを採用したんです」

――「爆買い」が話題になりだした頃は、銀聯カードのマークをよく目にしました。

岩田:
「その後、ぱたっと話を聞かなくなりました。
その代わり、中国ではアリペイ(中国・アリババ・グループのQR・バーコード決済サービス)が台頭してきた」

――なぜ、そんなことが起きたのですか?

岩田:
「スマートフォンの普及です。
カードを持てない(信用を担保できない)大衆がみんな、スマートフォンで決済を始めたんです。

それが瞬く間に広がって、今や中国は世界一のキャッシュレス大国になった、というわけです。


先ほども述べたように、世界の金融においては、中国は二番手、三番手です。逆にそれが功を奏したんですね。

しくみを構築する当初から、最新の軽くて安い、メディアやツールを使えたからです。

一方、金融で一番手の米国は動きが遅かった。それはクレジットカードを中心にしくみを組み立てていたからです。

信用情報やセキュリティがしっかりしている反面、システムが重く、簡単には変更できない。だから新しい方式の普及も遅かったんです」

キャッシュレスの1位は今でもクレジットカード


――今、キャッシュレスの方式が乱立しています。ちょっと整理していただけますか?

岩田:
「大きく分けて以下です。

・クレジットカード(事後決済カード)
・デビットカード(即時決済カード)
・プリペイドカード(事前決済カード)
・電子マネー(狭義。ICチップを埋め込んだカードやスマートフォンなどを決済手段に使う方法)
・QRコード決済


ポイントカードは、たしかに買い物はできるけれど、ポイント自体はお金ではないので外す場合がほとんどです。

仮想通貨もキャッスレス方式に含まない場合が多いです」

――割合の多いのは?

岩田:
「クレジットカードです。おそらく90%くらいです。

次が電子マネー、デビットカード、プリペイドカード、QRコード決済が続きます。
なんだかんだ言ってもクレジットカードはまだ強いですね」

「信用」や「セキュリティ」という基盤の上に成立していたクレジットカード。

しかしスマートフォン(スマホ)の普及でそれらが要らない「スマホ決済」で、中国においてキャッシュレスが爆発的に広まった。

日本も昨今は政府がキャッシュレスの推進に力を入れているようですが、なかなか普及しません。

それはなぜでしょうか? 次回に続きます。
(つづく)

中国人「爆買い」を支えたもの |消費生活ジャーナリスト岩田昭男 第1話
「現金主義」からどう抜け出すか?|消費生活ジャーナリスト 岩田昭男 第2話
どこでも使えるキャッシュレス時代は来る?|消費生活ジャーナリスト 岩田昭男 第3話


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