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中国経済の行方と日本企業の勝機|ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員・大西康雄  第1話

取材・文/大橋史彦、編集/ロボティア、FOUND編集部

2018年の訪日中国人観光客数は、838万100人でした(日本政府観光局(JNTO)の発表)。いっときと比べれば“爆買い”が縮小し、消費額が落ちているものの、前年比13.9%増というこの数字、これだけ多くの中国人が訪れれば経済効果は小さくないはずです。

にもかからず日本では、米中貿易摩擦に対する懸念から、中国の景気減速を強調したり先行きを不安視する報道が目立ちます。

また、中国の2018年の実質国内総生産(GDP)の伸び率は6.6%でした。

しかし、これに対しても、日本や欧米のメディアは「28年ぶりの低水準」と報道しています。

確かに中国のGDPは近年、低下傾向で推移しています。でも、よくよく見てみると、2017年の6.8%から0.2ポイント低下しただけだったりします。

▶︎ 中国の2018年の実質国内総生産(GDP)の伸び率

2017年 6.8%
2017年 6.6%

▶︎ 日本の2018年GDP速報値

2018年 0.7%(実質)

それに対して、日本の2018年GDPの1次速報値は実質で0.7%、2次速報値は0.8%です。

今、実際のところ、中国経済の実力はどうなっているのでしょうか?

日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所・新領域研究センターの上席主任調査研究員・大西康雄氏にお話しを伺いました。

▶︎ 話を聞いた人

大西康雄(おおにし・やすお)上席主任調査研究員
早稲田大学政治経済学部卒業後、アジア経済研究所(現ジェトロ・アジア経済研究所)に入所し、地域研究センター長、ジェトロ上海センター(現上海事務所)所長などを歴任。編著に『習近平「新時代」の中国』(アジ研選書)などがある。

高すぎる中国のGDP成長率

大西氏がアジア研究所に入所したのは1977年。ちょうど中国国内を疲弊させた文化大革命が終結し、改革開放政策へ舵を切ろうという頃です。

以来、大西氏は中国を専門とする研究者として、中国の劇的な変化を注視し続けてきました。しかもこれまでに3回、中国に駐在した経験をお持ちです。

大西氏:
「1980年代、1990年代、2000年代とほぼ10年毎に駐在し、激動する中国を目の当たりにしました。2008年から2011年まではジェトロ上海センター(現上海事務所)の所長を務め、北京五輪と上海万博という二大イベントの開催時に中国にいられたのはいい経験でした」

その後も大西氏は、毎年、出張で中国を訪れています。机上の研究だけでなく、現地で変化を見続けてきた大西氏は、現在の中国経済をどう捉えているのでしょうか。

大西氏:
2018年のGDP成長率6.6%は全然低水準ではなく、むしろ高いくらいです。中国の経済規模は日本の3倍近くで、それが6.6%伸びるということは、とてつもない数字です

確かに金額にすると7兆9555億元(約132兆円)も増加しているので、ものすごい成長です。しかし、高すぎるとはいったどういうことなのでしょうか。

大西氏:
「中国は、国家目標を達成するために成長率目標を高水準に設定しています。直近では、2020年の一人当たりGDPを2010年比の倍にする中国版“所得倍増計画”があります。

これを達成するためには、毎年6.5%前後の成長率を維持しなければならない計算で、それに縛られているのです。

それに中国は依然として海外投資を受け入れることで成長している部分が大きいので、株価と同じでGDP成長率が低下すると、海外からの中国経済への信認が下がってしまうのです」

国家目標と信認のために無理やり成長率を引き上げているけですが、GDPの数値が高いことは「中国にとってあまりいいことではない」と大西氏は強調します。

大西氏:
今は大きく成長する段階ではありません。本来であれば、構造改革を加速させなければならない時期です」

構造改革とは、簡単に言うと市場や社会のシステムを合理化し、経済効率を向上させることです。

▶︎ 構造改革
・「市場」や「社会システム」の合理化
・経済効率の向上

しかし、それをできない元凶は、国有企業にあります。国有企業は政府の傘の下で守られているので、たとえ多額の赤字を抱えていても簡単に銀行から融資を受けられます。

いわゆる「ゾンビ企業」です。割りを食うのが民間の中小企業であり、経済効率が向上しない要因だと大西氏は指摘します。

大西氏:
中国は製造業がGDPに占める割合が依然として高い国経済効率を向上させるためには、サプライチェーンの川上まで遡って生産を近代化する必要があります。

サプライチェーンの川上での生産近代化
        ↓
「中国=製造業の国」が経済効率向上

ところが、民間企業は融資を受けられないために設備を入れ替えることができず、近代化が遅れています。これまでGDPは順調に推移しているので、もっと成長率を下げて、構造改革を進めるべきです。

ところが米中貿易摩擦が起きてしまったために進めづらくなり、中国政府も頭を悩ませています」

ファーウェイ問題が「逆デジタルデバイド」を起こす!?

では、輸出入についてはどうなっているのでしょう?

2018年12月の貿易収支を見ると、その数字は、輸出・輸入とも、減っています。

中国海関総署(税関)の発表によると、次の通りです。

▶︎ 2018年12月の貿易収支

輸出| 4%減 2212億米ドル(約24兆円)
輸入| 8%減 1641億米ドル(約18兆円)


急降下しました。これは米中貿易摩擦による影響でしょうか。

大西氏:
「2018年通年で見ると、貿易収支は順調に推移していますが、それは、米中貿易摩擦が激化する前に貿易取引をしておきたいという心理が働いたからだと思われます。

12月はその反動で下がったかもしれないので、米中貿易摩擦の影響かどうかを判断するのは難しいのです。

でも、12月の輸出額は、対米だけでなく日本や欧州連合(EU)など他地域も減少しているので、それだけが原因ではないかもしれません。

貿易は国内需要の反映なので、国内需要が減少し、中国経済がクールダウンしている現れとも考えられます」

確かに貿易摩擦に関しては、トランプ大統領が通商協議の延長を示唆したことから、楽観的な見方も広がりました。

貿易収支の減少は、一時的なものなのかもしれません。

米中の対立で注目したいファーウェイ問題

製品の排除や孟晩舟(もう ばんしゅう)・副会長兼最高財務責任者(CFO)の逮捕といった華為技術(ファーウェイ)を巡る問題もあります。こちらの方は、なかなか解決の糸口が見えなかったりもします。

米国とファーウェイの間で、今いったい何が起きているのでしょう?

大西氏:
「報道されているように、ファーウェイを巡る米中の対立は、次世代高速通信規格『5G』における主導権争いです。

米国は、関税に関してはある程度のところで手を打とうと考えているでしょうが、技術分野に関しては妥協しないはずです。

一方、ファーウェイもこれまで米クアルコムに頼っていた半導体のチップを自前で開発できるところまできているので、折れないはずなのです」

大西さんによれば、両者の対立は長期化すると言います。

そうなると、世界もそれに巻き込まれ、日本や欧州でもファーウェイ製品排除の動きが広がっていくことになるそうです。英国は後に方針転換をして受け入れを表明しましたが、今見て取れるのは、旧西側諸国と東側諸国が対立する構造です。

さて、この5Gの主導権争いの行方は、どこに向かっていくのか? この分野における中国の実力は、どの程度のことと見積もっておくべきなのでしょう? ここは中国経済を占う上では、大切なポイントとなってきそうです。

大西氏:
5G技術については、中国が米国を凌いでいる可能性が高い。米国よりも先に実用化に成功することも考えうるのです。

そうなると、米国側についた国々は遅れた技術を高額で使用することになります。それに対して、途上国側は中国の最先端技術を安価で導入することができるようになってしまう。

つまり、米国側では、“逆デジタルデバイド(情報格差)”が起きる可能性が懸念されているのです

発展途上国の方が最先端の技術を持っていて、米国のような先進国の方が古い技術を使っているという具合です。

今回の争いは、両国のギリギリのせめぎ合いの中で起きているのです」

ちなみにファーウェイは、過去、デジタル・デバイドについて深い認識を示す発表を行っています。

インターネット接続環境が普及し、スマートフォンがより入手しやすくなったことで、デジタル・デバイドは解消の方向に向かっています。しかし、デジタル技術を持つ者と持たざる者の格差は一層深まり、解消が困難な世界的課題となっています。

(出典:『ファーウェイ、デジタル・デバイドがもたらすビジネス・チャンスに関する研究報告書を公表』2015年11月10日)

米中対立の問題を含め、中国経済は減退していると伝えられながらも、対外的には、しっかりとそのプレゼンスを世界へと示しつづけています。

では、中国国内での経済事情は、どのように展開しているのか? 第2回では、その内情について語っていただくことにしましょう。

つづき

・中国経済の行方と日本企業の勝機|ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員・大西康雄 第1話
・中国経済の行方と日本企業の勝機|ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員・大西康雄 第2話

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