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どうなる?日本の鉄道ビジネス|鉄道コンサルタント至道薫 後編

鉄道業界に精通している至道薫さんに、鉄道業界のビジネスや業界の最前線について迫る連載も今回で最終回です。

本日は、日本における鉄道業界の未来についてお聞きしたいと思います。

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至道薫(しどう・かおる)
鉄道業界に約30年間勤務し、技術系の仕事から駅業務を経て本社にて営業系や経営企画を担当。その後独立し、現在は日本で唯一の鉄道コンサルタントとして活動。仕事範囲は広く、鉄道業界への転職、就職サポートや、各種講演活動や鉄道ニュースコメンテーター、鉄道業界へ売り込みをしたい企業などへのアドバイスをしている。公式ブログ

交通系ICカードに秘められた鉄道業界の未来

――サービスといえば、IT技術はどう利用されているのでしょう?

予約を含めたすべてのシステムを鉄道全体で統一する、なんていう話はないんでしょうか? そうすればずいぶん便利になると思いますが?

至道:
「ICカードの使える自動改札機はずいぶん普及してきました。しかし初期投資も維持費もかかるので、中小の鉄道会社がなかなか追いついてきません」

――どうせICカードを使うんですから、利用者のビッグデータをうまく利用するしくみを作ればいいんじゃないでしょうか?

至道:
「そのあたりが、鉄道会社はマーケティングが下手だ、と言われる理由かもしれません」

――してないんですか?

至道:
「はい。JR東日本は一度、ビッグデータを利用したいという話をしたことがあるんです。

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しかし世間から猛反発を食らって提案をひっこめた。だからだいぶ慎重になっています」

――社会全体の意識が進んでいないのもあるんですね。

至道:
「ICカードで面白い話があります。2001年に導入された初代Suica(JR東日本の発行する交通系ICカード)は『1Kカード』と呼ばれるものでした(1Kとは搭載されているICチップの記憶容量)。

2003年から導入され、現在でも使われている2代目Suica(ペンギンのキャラクターが印刷されているもの)は『2Kカード』です。

1Kの時は1000円単位でしかチャージできませんでしたが、2Kカードは10円単位で可能です。

また、自動改札機だけでなく店舗や自動販売機でも使えるようになりました。記憶容量が増えたからです。

そして近い将来、Suicaには『4Kカード』が登場します。もしかすると『8Kカード』になるかもしれない。そうなると、紙の切符が全廃できるようになります」

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――逆に現行の2Kカードではなぜ全廃できないですか?

至道:
「記憶容量が小さいからです。たとえば、新幹線指定席のデータ量は2Kカードには入りません。

しかし4K、8Kとなれば、電車だけでなく、買物、宿泊といったデータを記憶しておくことができます。そうすると紙の切符が不要になる」

――予約システムも一元化する可能性があるんですね。

至道:
「そうです。ただし、紙の切符を全廃する一番のメリットは、自動改札機にあるんです」

――どういうことですか?

至道:
「紙の切符を扱える自動改札機の1台当たりの保守費用は、月3万円です。

一方、ICカード専用の自動改札機は月3000円しかかかりません。10分の1です。これが一番大きい。

さらに紙を全廃すれば券売機も不要になりますね。これだけでも交通系ICカードの進化が、鉄道会社にとっていかに大事かがわかると思います」

――4K・8Kカードのリリースはいつ頃なんですか?

至道:
「近々だろうと思います。これがあるので、JR東日本は『変革2027』という経営ビジョンを立てて、『鉄道を起点としたサービス提供』から転換して『ヒトを起点とした新たな価値の創造』に挑戦すると言い出しました。

ただし、具体的に何をやるかは発表されていません。

ビッグデータの利用など、これまで弱いと言われていたマーケティングにも新たな展開があるかもしれません」

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旅客輸送だけでない鉄道輸送の明るい未来

――このICカード、また最近話題のリニア新幹線などテクノロジーの発達は鉄道会社に大きな影響を及ぼしています。

鉄道はこれからどんな道を歩んでゆくのでしょう?

至道:
「テクノロジーによって人々の移動時間が短縮されるのは、いいことだと思います。

東海道新幹線や国内航空路線がなかったら、日本経済はここまで発達していなかったわけですから。

たとえば、瀬戸大橋ができたからトラックの運転手が休憩をとれなくなったとか、金沢新幹線が開通したから泊まりの出張が日帰りになってしまったとか、という話はありますが、メリットのほうが格段に大きい。

では、リニア新幹線が開通した場合、東京名古屋間は45分程度と言われています。するとどこが恩恵を受けるのか。名古屋周辺の都市です。ヒトや物流の拠点がそこに生まれるからです」

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――今、物流とおっしゃいましたが、JR貨物(日本貨物鉄道)は将来どうなのでしょうか?

至道:
「ぼくは明るいと思います。鉄道業界の中でも上位の伸び率を示すのではないでしょうか。

JRグループの中で旅客輸送は地域ごとに分けられています。ところが貨物は1社独占です。

その弊害として分割民営化から30年間進化せず、ずっと赤字が続いていました。

しかし2013年、日本郵船や日本貨物航空の経営に携わった石田忠正氏が会長に就任すると、社内の意識改革を図ると同時に営業マンを増員。2017年には単体黒字化を達成しました」

――どんなふうに黒字化したんですか?

至道:
「貨物車の荷台に佐川急便のトラックが載っているのを見たことがありませんか?

長距離ならコストは安いし、定時運行率も高い。そして大量輸送ができます。

さらにはCO2など環境負荷が削減、交通渋滞の緩和、ドライバー不足の解消などが期待できる。

これらのメリットから、トラック輸送から鉄道輸送に切り替えようという動きが起きています。これを『モーダルシフト』(modal sift)と言います」

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――鉄道輸送にも大きな変革の波が押し寄せているんですね。

至道:
「ここからは私の勝手な希望ですが、現在、北海道新幹線は新函館北斗駅と東京駅を4時間強で走っています。

4時間を切れないのは青函トンネルを通過する際に、並走する貨物列車の安全のために速度を下げなければいけないから。貨物列車は邪魔者なんですね。

だったら、いっそ貨物列車はトンネルを通らず、青函連絡船を復活させて、それに貨物列車を載せればいいと思うんです。

北海道の農産物はじゃがいもなど一刻一秒を争うものはありませんから、これで十分対応できる。そうなれば、港をもつ地域の経済も活性化するはずです。

さらに勝手な希望をもうひとつ。リニア新幹線が開通すれば、東海道新幹線の本数が減るはずです。その減った分を、貨物専用の新幹線『貨物新幹線』に当てたらどうでしょうか?

車輛は現在の700系などを改造して使えばいいと思います。どうでしょう? 人口減少によって、ヒトの移動は減っています。しかしモノの移動は増えているんです。鉄道輸送の可能性は広がるはずです」

――鉄道事業の基礎からロジスティクスの可能性まで、興味深い話ばかりでした。本日はありがとうございました。(おわり)

日本の鉄道業界のリアル|鉄道コンサルタント至道薫 前編
日本の鉄道業界に必要なこと|鉄道コンサルタント至道薫 中編
どうなる?日本の鉄道ビジネス|鉄道コンサルタント至道薫 後編

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