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お互いを尊重しあうことに、価値が置かれています|GIRLS’ TREND 研究所・稲垣涼子 後編

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

トレンドが広まる最大のツールはSNS、という意見に異論を挟む人はいないと思うぐらい、流行とSNSは大きく結びついています。

果たして、トレンドを追いかけているプロは、どういう部分に目をつけているのでしょうか?

最終回の今回も、GIRLS’ TREND 研究所の稲垣所長にお話をうかがいました。

稲垣涼子(いながき・りょうこ)
フリュー株式会社「GIRLS'TREND 研究所」所長。大阪教育大学大学院教育学研究科数理情報コース修士課程修了。フリューにて、プリントシール機の商品企画に約13年携わり、「姫と小悪魔」(2006)、「美人ープレミアムー」(2007)、「Lumi」(2009)などのヒット商品を多数企画する。その後、企画部部長を経て、現在は「GIRLS'TREND 研究所」所長として女子高生・女子大生の動向について研究を続け、フリーマガジン『GIRLS’TREND』編集長も務めている。

『変わっていくことを楽しむ』のが、ガールズ文化の特長


――稲垣さんご自身も、ガールズトレンド分析のために大量の情報を集めていると思います。どんな方法をとっているのでしょう?

稲垣涼子(以下、稲垣):
「インスタのハッシュタグ(#)検索などは日課です。もはや仕事のためなのか趣味なのかも曖昧なくらいですね。

女の子たちを知りたいと思ったら、彼女たちに関するハッシュタグを入力して、その書き込みを読みまくることをお勧めします。

たとえば私なら『#ガールズトレンド』とか『#LJK』(LJKはLast Joshi Kouseiの略)とかを見ています。最近だと『#アオハル』ウォッチが楽しいです。」

――ハッシュタグ(#)の時代なんですね。

稲垣:
「彼女たちは、PCよりスマホだし、検索エンジンで検索をかけるよりも、SNSが主な情報入手先です。

また利用するSNSにも流行があります。2018年には、女子高生の使うSNSの中心が、Twitterからインスタへ明確に移ったと考えています。

Twitterは文字中心、インスタは画像中心で、現在は画像のほうが重視されているからです」

――2018年にインスタというのは、大人たちの流行より遅れているように感じます。

稲垣:
スマートフォンなどのツールや有料アプリに関する流行は、社会人よりも遅いようです。

親御さんが費用を負担するケースが多いでしょうし、買ってもらえる機種も低価格帯だったりしますので、女の子たちが使える環境が整うまでに時間がかかるのではないかと考えています。

逆にたとえば動画アプリのTikTokは、女の子たちの感覚ではもう一通り流行しきった印象を受けます。

動画は見るのも作るのも、時間を要します。忙しい大人たちは飛びつきにくいので、これについては逆に女の子たちから流行が始まったと言えます。

このように社会人と学生世代とでは、同じアプリでも流行り方が異なります」

――ネットの情報をチェックする時、どういう点に着目しますか?

稲垣:
「まずは『いいね』の数。次にコメント欄を覗いて、みんながどんな反応をしているかをチェックしています。

人気のコンテンツや書き込みだけでなく、『イケてない』と思われているものも確認します。

そういう感覚を共有するのは、商品の開発上とても重要だと思うからです」

――イケてる、イケてないのトリガーは何ですか?

稲垣:
「ものによって違うので説明が難しいですが、例えば、一般的に浸透してみんながやっていることの後追いはまちがいなく『ダサい』と評価されます。

テレビ番組で取り上げられて、大人の話題にのぼるようになったら、もう遅い。その変化のスピードは、最近さらに加速していると感じます。

だからこの分野では、市場調査をして、開発にとりかかり、商品が完成した頃には、もう流行遅れということも多いと思います。

継続したマーケティングが重要なんです」

――たしか20年ほど前のタピオカ第一次ブームの時、海外にタピオカを作る工場を建てたら、すぐにブームが去って大変だった、なんていうことがありました。

稲垣:
「女の子たちの流行は、本当に回転が早いと思います。でも、それが特長でもあると思うんです。

彼女たちは『変わっていくことを楽しむ』んですね。だから先取りしている人たちが尊敬され、後追いばかりしていると残念な人に分類される。

また変化を楽しむ傾向は女の子に顕著だと思います。一部を除いて、男の子はどちらかというと、あまり変化を好まないように感じます」

人に合わせるより「キャラ立ち」を大事にする

――先取りしても、まちがった方向はダメなんですよね?

稲垣:
「いいえ。一般的にはまちがった方向に感じたとしても、それがポリシーに基づいた行動であれば、イケている人だと評価されます。

たとえば、タレントの池田美優(みちょぱ)さんのギャルファッションは、現在の流行ど真ん中かというと、少し違うと思います。

ですが、彼女はポリシーをもって極めている。だからギャルではない人も含め、多くのガールズから支持を得ています。

『自分の好きなものを、信念を持って貫いていてかっこいい』という感じです。

今の女の子たちは、あまり他人を否定しないと感じています」

――それは意外です。

徳田あず美氏(広報。以下、徳田):
「20年前は、ギャルになりたい!と思っていなくても、厚底サンダルを履いて、ギャルっぽい格好をしていました。それ以外を許さないような雰囲気も今よりあった気がします」

稲垣:
「当時の女子高生がソックスを三つ折りにして、ブラウスを長いスカートにインしていたら、『ちょっとあの子、ダサくない?』と言われていたはずです」

――やはり多様化がキーワードのようです。この現象は、たとえばアイドルのグループ化とも関係があるのでしょうか?

稲垣:
「マーケティングの結果かはわかりませんが、グループ化しても同じ制服で統一するのではなく、グループとしての統一感のもとでメンバーごとに違うデザインにしたり、キャラ立ちさせたりするのは、この傾向と無関係ではないでしょう。

いろいろな個性の子がいれば、ファンは好みの子を選びやすくなる。

逆に言うと、以前の安室奈美恵さんみたいに、一人で多くの人を惹きつけることがむずかしくなったのだろうと思います」

――逆に個性化で困ることってないでしょうか?

徳田:
「私たちはギャルやアムラーの世代です。当時は圧倒的な流行のもと、周囲に合わせていればよかった。

そういった意味では何も考えずに済んだので、流行に乗るのは楽と言えば楽でした。

でも今は自分のスタイルやポリシーを持っていなきゃいけない。自由なところが羨ましいと思う一方で、たいへんだなとも思います」

稲垣:
「自分らしさが求められるのは大変ですよね。一般人でもキャラ立ちしないと、という風潮があるように思います。

大人から見たら、若い女の子はみんな同じに見えると思います。

でも、彼女たちなりに個性を出そうと一生懸命なんです。20歳前後になって、ようやく本当に好きなもの、興味のあることがわかる。

でもこれは、昔も今も同じではないでしょうか?」

ワルは古い。まじめないい子がヒエラルキーの頂点

――ではどんな男の子がモテるのでしょうか?たとえば「スクールカースト」で上位に来る男子はどんなタイプなんですか?

稲垣:
「これも驚くと思いますが、支持率が高いのは『まじめな、いい子』です。

昔はちょっとワルが人気だったでしょう?でも今は、グレてる人はダサい。

部活動をがんばっている子、生徒会でみんなを率いている子、体育祭や文化祭を盛り上げる子などが人気者です。とてもいい時代になったと思います」

徳田:
「服装の流行にもそれが反映されています。以前は腰パンで、ワルっぽく歩いている人がカッコいいとされていました。

でも今は、身なりがちゃんとしていて清潔感のある人が、かっこいいとされる」

稲垣:
「きつい香水をつけているオラオラ系ではなく、さりげなく香る柔軟剤男子のほうが支持されています」

――別世界の話のようです。でも、たしかにいい時代になりましたね。いつ頃から変わったんでしょう?

稲垣:
「正統派が受け入れられ始めたのは、AKBなどのアイドルがブームになった2011年頃からだと思います。

女の子たちは茶髪から黒髪、清楚系へし好が移り、それに伴って黒髪で色が白くてさっぱりした、「塩顔」の男の子たちがウケるようになったようです」

新しい時代の新しい女の子像

――さて、年号が変わりました。新しい時代のガールズトレンドはどうなっていくと予想しますか?

稲垣:
「何度か述べたように流行には波があります。その法則から考えると、多様化から一極集中へ揺り戻しがやはり起こる気もします。

もちろん、来年すぐに起こるとは考えていません。

先ほど述べたように、お互いを尊重し、まじめないい人が評価されるという今の状況が変わることを、女の子たちはそう簡単には受け入れないでしょう。

だけど10年後にどうなっているかはわかりません。小さな揺り戻しが何度も起きて、古い価値観が復活するかもしれない。

大人の側から見れば、一極集中のほうがわかりやすいし、モノが売りやすい。

だから、そちらに寄せようとするでしょう。その大人たちの思惑に、女の子たちが乗ってくるかどうか、だと思います」

――大きなイベントがあると、世の中の雰囲気ががらっと変わったりします。元号が変わる頃、変化の予兆のようなものは感じていましたか?

稲垣:
「あまり感じませんでした。でも年号が替わることを楽しむ雰囲気はありました。

たとえば、普通の出来事も『#平成最後』とハッシュタグを付けてSNSに投稿すれば、イベントに変ったりしていましたね。

2018年の文化祭や体育祭、ハロウィンなどはこの『#平成最後』を付けた写真や動画がたくさん出回りました。

彼女たちは年号が替わることも、イベントのひとつとして捉えていたと思います。

こんなふうに考えていくと、表面上さまざまに変化していますが、ガールズトレンドの根本は昔も今も変わらないというのが、正直な感想です。

ただ、時代によって『どこに向かうのか』『何で実現するのか』が異なるだけなんです」

――新しい時代に、女の子たちはどちらへ向かっていくのか。これからも注視していきたいと思います。

本日はありがとうございました。
(おわり)

「自分らしさ」が認められる時代|GIRLS’ TREND 研究所・稲垣涼子 前編
「カリスマ一極集中」の時代ではない|GIRLS’ TREND 研究所・稲垣涼子 中編
お互いを尊重しあうことに、価値が置かれています|GIRLS’ TREND 研究所・稲垣涼子 後編

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