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人工生命がつくる、ほんとうのユートピア?|第4話: 東京大学広域システム科学系教授/人工生命研究者・池上高志教授

文/吉田真緒、写真/荻原美津雄、取材・編集/FOUND編集部

第3話では、企業や社会にとって大切な視点を人工生命の話をまじえながら語ってもらいました。今回、第4話において、池上先生は、人工生命、人工知能、そして人間や地球の運命についてまで語ってくれています。自律性を獲得した人工生命というものが存在したとしたなら、わたしたちには、どんな未来が待っているのでしょうか?

人類が生き延びればいいとは必ずしも思わない

編集長:
先生が語られていた言葉で印象的だったのは「人間というのは、所有されることから逃避するもの」という話でした。

池上:
アダムとイブもエデンの園から逃げましたよね。
逃げるというのは、生命や知性の本質なんじゃないかと考えています。

僕の研究も、Fixされている常識から逃げて、新しい世界をつくっていくことがひとつの動機になっている。

優れた人工生命ができたら、ずっと同じところにいることはないと思います。
人工知能も、もし身体をもっていたら、逃げるんじゃないかな。

編集長:
人工生命が人間のボトルネックをこえて、エデンの園を出るシナリオも考えられる。それが本当の意味での自律性。

池上:
そうなったときに人間がどうなるかはわかりません。「いない方いい」となったら、いなくなるかもしれません。
僕は、人間がずっと生き延びればいいとは思っていないんです。

例えば先日、ICF(Innovative City Forum)フォーラムでマーシャル諸島からの代表者・詩人のキャシー・ジェトニル=キジナーがいらして、現地で10年以上核実験が繰り返されてきた影響について訴えました。
いくつもの村と文化が壊滅し、たくさんの人が亡くなったり病気で苦しんだりしている。それに対して誰も言及しないし、賠償金も出さない。
そうした現実をどう思うのか、投げかけられました。

つまり、人間がひどいわけです。どうして救わなくてはいけないのか。
もちろん、人工知能や人工生命を考えたのは人間だし、全否定することはないけれど、もっと視野を広く持つべきだと僕は思います。

編集長:
人間の愚かさを人工生命が正す世界の方が、もしかしたらユートピアかもしれませんね。

インターネットが自ら支配から逃げる

編集長:
オルタナティヴ・マシンでプロダクトをつくるとしたら、どのようなものを?

池上:
やはり生命性をインストールすることですね。

例えばインターネット。インターネットって、人間がつくった最も複雑なシステムで、生命の性質をいくつももっている。

たくさんのセンサーがあって、常に大量の情報が流れていて、内部構造を変えながら存在し続けて、ちょっと壊れても自己修復機能がある。

インターネットが生命になり得るかどうかは、興味深いところです。

しかも、インターネットが政府やIT企業など特定の何かに制御されたら困りますよね。

となると、自律性を獲得して、他からの支配から自ら逃げないといけない。

編集長:
情報操作は本当に怖い。もし自律したインターネットがメディアをつくったら、誰もが平等に情報を得られそうですね。

池上:
平等性を復活させるには、インターネットが自ら行為を決定して、責任をもてるシステムにする必要がある。

そういうことに人工生命の技術が使えたらいいなと個人的には思います。

編集長:
支配者がいなくなることに近いですよね。ブロックチェーンにも相通じるものがありますか?

池上:
めちゃめちゃ関係ありますよ。権威づけするのではなく、完全な分散主義としてのネットワーク。

もともとこの世界にある現象を考えてみてください。

最初に見てもらった「ボイドモデル」でもわかるように、一定数まで増えると別のタイプの群が出現する。群れを自分たちでつくって、つながって、相互作用しながら次の行動様式をつくっていく。そういうのが生態系です。

生態系って「こうなりなさい」という誰かの指示のもとに生まれているわけではない。それぞれが相互作用しながらだんだんできてくる複雑さを持っているんですよね。そういうことを僕はずっと研究しているんです。

1行でもプログラムを書けるなら

編集長:
いま価値観が大きく転換するなかで、人工生命が持つ役割もまた大きそうですね。人類が新たな自由を獲得していく鍵になるのかもしれない。

池上:人工生命によって、人間も「自律的に生きるとは何か」をつきつけられるということですね。

人工生命のいいところは、プログラムとか化学反応など、具体的に構築できるものをベースにしているから、実際につくれるところです。

つまり、雰囲気としての生命らしさ、ではない。そうじゃないと飲み屋談義になってしまうじゃないですか。

ユヴァル・ノア・ハラリ著の『ホモ・デウス』なんかを読んで、「未来はこうだよね」と語っているだけでは、その先に行けないですよね。

賢いことを考えられても、証明できないしつくれない。

1行でもプログラムを書けるなら、次に行ける可能性がある。

サイエンスにしろアートにしろ、手を動かして人工生命をつくっていくことは、今後世界がどうなるかを考えるうえでも大事だと思っています。

吉田:
先生、今日は貴重なお話をありがとうございました。

おわり


東京大学広域システム科学系教授
人工生命研究者・池上高志教授インタビュー


第1話 人工知能の先の世界をいく人工生命とは何か? Beyond AI
第2話 人工生命と人工知能は、何が違うのか?
第3話 企業が見るべき、人工知能の先にあること 
第4話 人工生命がつくる、ほんとうのユートピア 
吉田真緒

ライター、編集者。早稲田大学第二文学部卒業。編集制作会社勤務を経て2012年に独立。まちづくりやコミュニティ、美容・健康、ITなど幅広いテーマで取材、執筆をし、多数の媒体づくりに携わる。共著に『東川スタイル』(産学社)がある。

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