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GNT企業に期待されていることは? |新潟県立大学教授 細谷祐二 中編

前回、我が国においては、新しいモノを作っても企業がなかなか採用してくれず慎重になるという、日本独特の体質についてお聞きしました。

今回はその続きからお話をおうかがいしたいと思います。

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細谷 祐二(ほそや ゆうじ)
新潟県立大学国際産業経済研究センター教授
1981年東京大学経済学部卒業、通商産業省入省。1987年米国イェール大学大学院国際開発経済プログラム修了(MA in Economics)。2018年4月から現職。
2008年から10年間、経産省地域政策研究官を務め、日本のものづくりニッチトップ型企業の体系的調査研究に従事。調査結果をまとめ、2014年3月に白桃書房から「グローバル・ニッチトップ企業論」、2017年7月ちくま新書として「地域の力を引き出す企業」を上梓。
優れたものづくり中小企業への関心は、1999年近畿通産局の産業企画部長としてものづくり中小企業集積として有名な東大阪地域に足繁く通うことを皮切りに、その後全国に及び、訪問中小企業数は300社を超える。

慎重な日本企業

―― 前回、「日本企業はいいモノでも新しい試みは採用しない傾向がある」というお話をうかがいました。どうしてそんなことが起きるんでしょうか?

細谷:
「良いと評価したら即断即決してくれるのが外国企業、特に米国企業のやり方です。日本企業は逆で、ものすごく保守的です」

――危ない橋は渡らないということでしょうか。

細谷:
「それだけではありません。

たとえば、製造機械は、製造ラインの中で使うものです。新しい機械を導入したためにラインが止まってしまったらたいへんなのです。

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担当者一人ではリスクを負えません。よほどその製品を見込んでも、直属の上司や工場長などに、購入したい製品の優秀性を何度も説明し、説得しなければいけないわけです。

そのリスクを考えたら、即断即決なんて無理だというわけです

大企業スピンオフ型ニッチトップ企業が有利

――ただ、それで仕方がないとあきらめてしまうと、提案型のGNT企業は生まれません。

細谷:
「その通りです。そのケースで一番うまくいくのは、大企業スピンオフ型のニッチトップ企業、つまり大手メーカーで研鑽を積んできた技術者が独立するケースです。

しかし、実はこれも『社内ベンチャー』のように積極的に設立されたところは少なく、たいていはリストラが原因です」

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――偶然の産物ということですか?

細谷:
「たとえば、東京・八王子に、半導体製造に欠かせない『電子ビーム描画装置』のニッチトップ企業であるエリオニクスがあります。1975年に、日本電子をリストラされた人たちが中心になって設立した企業です。

母体となった日本電子は上場企業ですが、前述の『100選』にも選ばれたGNT企業でもあります。

技術力は高いのですが、何度か経営難に見舞われ、そのたびに事業整理やリストラを行いました。

主要製品の電子顕微鏡には、透過型と走査型があるのですが、経営難の際に、両方を製造するのがむずかしくなり、透過型一本に絞ることになりました。

その時、走査型に関わっていた技術者たちが日本電子を出て、エリオクスを立ち上げたのです」

――部署が丸ごと新しい会社になったのですね?

細谷:
「というかその部署の主要メンバーが一緒に独立したそうです。

研究や製品開発する力があるだけでなく、協力企業や部品メーカーとのつながりが生かせます。だから独立後、事業はすぐ軌道に乗ったそうです。

このようなパターンの場合、技術者たちには自信もニーズもあったにもかかわらず、会社側の都合でストップがかけられていた企画が再出発することが往々にしてあります。

それらは最初から、成功の見通しがある程度ついている。また、ビジネスの方法や技術、生産手段、信用がすでにある。よって、成功する確率が高いのです」

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――失敗しやすいのは?

細谷:
「先ほど述べたように、自分たちだけの発想で『こんなものを作ったら売れるのではないだろうか』と起業する場合です。

まず相手にしてもらえません。試してもくれないし、全然買ってもらえない、ということになります」

日本のGNT企業の実像

――日本のGNT企業の現状を教えてください。

細谷:
「『100選』で選んだ100社は氷山の一角にすぎません。

日本には『ニッチ型』企業だけでも数千社が存在します。6000社があるとして、6分の1の1000社ほどが『グローバル』であると考えていいでしょう。

しかし、上場できるほどの売上をもつ企業は少ないんです」

――それはなぜですか?

細谷:
「ニッチだからです。需要が少ない。製品1台の単価は高くても数量が出ません。だから売上も低いのです。

私が知っている中で最も生産量が少ない企業は、富山県・小矢部市にある小矢部精機です。

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自動車ボディの特殊レーザー溶接システムを製造していますが、1台が2~3億円。これが年間10台売れるので年間売上高は20~30億円です。

グローバルでも年間10台の需要しかないわけですから、日本だけではとても商売になりません。

小矢谷部精機は極端な例ですが、日本のGNT企業の売上をすべて合わせてもおそらく10兆円程度でしょう」

――上場などは考えにくい?

細谷:
「そうですね。ただ日本の場合、新興市場なら売上が20〜30億円でも上場できるので、上場企業の数が多いのが特徴です。企業数は米国の半分ですが、上場企業はそれを上回っています。

前述した2012年のアンケート調査では、GNT企業663社の売上高平均は23.5億円、雇用人数が97人でした。先ほど紹介した小矢部精機がそのくらいです。

上場しようと思えばできるかもしれません。しかし上場を目指すGNT企業は、極めてまれです。

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実際に上場をした企業もありますが、上場した途端、社長さんは株価が気になって社業が疎かになり、結局上場を廃止したというケースもあります。

廃止した途端、社長さんは楽しんで仕事ができるようになったそうです」

――これが日本のGNT企業の実像なんですね。

地方を牽引する企業としての期待


細谷:
「しかしGNT企業に期待されているのは、規模の大小ではありません。経済産業省などは、GNT企業というより、もう少し広がりのある企業をターゲットにして政策を立案しています」

――「広がりのある企業」というと?

細谷:
「たとえば一昨年(2017年)、地域の力を引き出す企業を『地域未来牽引企業』と認定し支援していこうという事業が始まり、約2000社が認定を受けました」

――それがGNT企業とどんな関係があるのでしょう?

細谷:
「GNT企業は、今後の地域や経済を支える重要なプレーヤーになるだろうということです。

『地域未来牽引企業』として他にどういうものがあるかといいますと、たとえば地域商社です。地域の物産を集め、他の地域や世界に販売する。

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地域商社で有名なのは沖縄です。ずっと地域商社がすべてを仕切ってきました。

返還前は日本本土に『輸出』しなければならず、手続が煩雑なので、商社が重要な役割を担っていたからです。

しかしながら、役割としては中途半端です。沖縄では薬草の栽培が盛んですが、沖縄の地方商社は、それを本土へ売るだけなのです。

石垣島では仔牛を生産していますが、それもそのまま松阪や但馬、神戸といった有名産地に売られてしまう。

石垣島で牛を飼育していることは、あま知られていないでしょう?

これでは沖縄はあまり潤いません。地域を活性化しようと考えたら、商品の付加価値を増やさなければいけないんです。

地域商社がすべきことは、まず付加価値を高めるコーディネーションです。

次に今まで売れなかったところに向けて売っていくことです。これをすべきです。

銀座などの東京中心部に、多くの都道府県のアンテナショップがありますよね。あれはみんな、自治体の直営です。

逆にいえば、地方の民間企業は脆弱だという証しなのです」

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――地方には「商売をする力」のようなものが足りない?

細谷:
「今はどの地方へ行っても、東京に本社のあるユニクロやAOKIといったフランチャイズ店舗ばかりです。

フランチャイズは確かに雇用を生み出します。しかし人件費を除く付加価値のほとんどは本社のある東京が吸い上げてしまう。

東京でコマーシャルをし、マーケティングを行う。東京があるからこそ地域で売れるので、当たり前なんですが。

今、地方の店舗というのは販売する機能しか持っていません。沖縄の従来型の商社と同じく、創造的な付加価値を生み出していないのです。

その結果、地方の商店街はシャッター街になってしまった。

しかし、規模にかかわらず、その地域に本社のある企業が増えれば、その地方の付加価値は高まるはずです」

――そのひとつとしてGNT企業があるというわけですね?

細谷:
「先ほど述べたように、GNT企業は規模が大きくありません。しかし支社ではないので、自分たちの意思で物事を決定することができます。

しかもファブレス型企業(※ファブレス=fabless:工場を持たずに製造業として活動する企業のこと)が多い。協力企業には当然、地元の中小企業を選ぶでしょう。

つまり、GNT企業が世界中から仕事を取ってきて、その地域で製造し、輸出することができるわけです。

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最近、世界的な建機メーカーのコマツが、本社を小松市に移すという話がありました(※現在、本社機能の一部を石川県小松市に移転している)。

工場を誘致するよりも、本社がやってきたほうがいいんです」

今回のお話を聞いて、地方の過疎化を止めるのに、GNT企業の活躍が一助となるのでは?と、光明が見えた気がするのですが、果たして日本のGNT企業の今後はどうなるのでしょうか?

次回につづきます。
(つづく)

グローバル・ニッチ・トップ企業とは? |新潟県立大学教授 細谷祐二 前編
GNT企業に期待されていることは? |新潟県立大学教授 細谷祐二 中編
GNT企業が日本を豊かにする!? |新潟県立大学教授 細谷祐二 後編

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