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フィンテックとは何か? #1|驚くべき本質をイメージから理解する

文/ 甲斐真一郎 

※ 本連載は、SankeiBizに掲載されたもの(2019年1月29日付 )を転載した記事です。

「フィンテックって、何だろう?」。雑誌やニュースの記事を見てもよくわからないという人の声を、僕もときどき耳にします。多くの人は、どうしてフィンテックというものを理解できていないのか? 僕には、そこに「手触り感」というものが欠けているのではないか、と感じられます。

そこでこの新連載の第1回は、「そもそもフィンテックとは何なのか?」について、フィンテックというものの本質を手触り感を意識しながら、イメージしやすい言葉でその全体像を描いてみたいと思います。

フィンテックは技術の力で金融をより身近で便利なものにしていくこと

 フィンテックというものを教科書的に説明すると、「“金融”と“技術”とを組み合わせることで生み出された革新的なサービス」ということになると思います。
 でも、もっと噛み砕いて言うのなら、「生活者、消費者にとって、“金融”というものが“技術の力”で“身近で便利なもの”となったサービス」と言えるのではないかと思います。

 その具体的なサービスの例として、「決済」×「スマホ」で「モバイル決済」だったり、「資金調達」×「クラウド」で「クラウドファンディング」だったり、「資産管理」×「人工知能」で「家計簿アプリ」だったり、「投資」×「人工知能」で「ロボアドバイザー」などが挙げられます。

 つまり、フィンテックが社会に落とし込まれたことで、多種多様な金融サービスを生活者に届けられるようになったのです。

フィンテックでの本質的変化は、「細分化」「多様化」「個人化」

これまでの既存の金融サービスの多くは、その特徴として、「縦割り」で「上から下に降りるもの」だったのではないかと思います。でも、時代の流れ、需要の方は、圧倒的に「個」に向かい始めてしまった。僕が経営するFOLIOも含めて、様々なフィンテックの分野でスタートアップが活躍しているのは、スタートアップは機動力を持って個々のユーザーニーズに対応したサービスを作り出せるからなのだと思います。

 絵としてイメージしてもらいたいのは、「中心に金融機関があって、その周りをたくさんの個人が囲んでいる図」と「中心にひとりの個人がいて、その周りをたくさんの金融サービスが囲んでいる図」です。国やある土地に根差した金融システムの中心機関を「中央銀行」と呼ぶ言葉がそれを象徴しているように、かつての多くの金融機関には「中心」という意識があったように思います。

金融以外の世界では当たり前のサービス間の競争が出てきた

フィンテックというものが出現したことで、必然的に金融サービスが変化することになった。これまでの金融機関が育んで来た「顧客目線」とは異なる次元でよりリアルな、市場のニーズを迅速に反映した「顧客目線」というものが出て来た。フィンテックを駆使し設計され改善を重ねられた顧客中心主義のサービスが登場すると、従来のサービスも変化を迫られる。そこにはサービス間での競争が生まれることになるわけです。


金融以外の世界では当たり前だった価格競争だとか、UI UXなどデザイン的な使い勝手の競い合いというものが生じる。つまり、既存の金融機関も、かなり違った角度から「顧客目線」を考え直さなければならない状況が出てきたといえるのではないでしょうか。

テクノロジードリブンのファイナンス

 「顧客目線」ということで言えば、アマゾンは「全てにおいて顧客ファースト」と言っているし、グーグルに至っては、「全世界の情報を整理する」とか言ってしまっている。こうした発想は、シリコンバレーならではの発想なのではないかと思います。彼らは、テクノロジーを軸に顧客優先を探求することで、大きなビジネスを生み出してしまった。

 当初、フィンテックが囁かれ始めた頃、従来の考え方に固執した一部の金融業界の人たちは、「これからはシリコンバレーがやって来るぞ!」と戦々恐々としていた、という話も耳にしました。確かに、その後の米国では、フィンテックの動きを牽引したのは、アマゾンやアップルだったり、日本ではLINE、メルカリだったりといったテクノロジー企業だったので、あながち的外れな予想ではなかった。

 では、どうして金融サイドからフィンテックが生まれにくいのか?と振り返って考えてみると、それはフィンテックの本質が、「ファイナンス+テクノロジー」ではなく「テクノロジー+ファイナンス」だったからではないかと思うのです。まずはテクノロジーありきで、テクノロジードリブンでなければ、フィンテックは進化しにくい性質を備えている。

 そして、ひとたび進化したフィンテックは、ファイナンスの側にもうまく活用される。現在、ウォール街で取り入れられているテクノロジーは、彼らなりの従来のファイナンスの専門性を活かしたフィンテックとなっているわけです。でもそのベースにあるのは、あくまでも「テクノロジー」ではないかと思うのです。

フィンテックは資本家から個人へ

  今となっては、マス相手にマネタイズで成功した代表例として語られるフェイスブックやグーグルも、世の中に出てきた当初は、「みんなのことを分かったところでどうやってお金を取るの?」「検索できたからといって、それがどうやってお金になるの?」と、多くの人が彼らのやっていることがビジネスになるとは考えていなかった。従来的に考えれば、お金はお金のあるところに集まり、お金がお金を増やす。つまり、資本は資本家のところへとどんどん流れていく。これが当たり前だった。 

 だけどインターネット、スマートフォン、フィンテックというものが登場したことで、明らかに全世界のお金の流れが変わってきている。ここからさらに、フィンテックが進化していき、多種多様な金融サービスが生み出されることで、「金融」というものがドンドンと民主化されようとしている。

人体の静脈、動脈と毛細血管でイメージするフィンテック

 人の身体を例に取ると、身体には、主流としての静脈と動脈という太い血管があって、そこに毛細血管が流れている。動脈と静脈は血液を体に送ることはできても、毛細血管がなければ血液を隅々まで届けることはできない。これまでの金融を太い血管、静脈、動脈にたとえると、身体のおおよそのところにお金という血液を流すことはできた。でも、毛細血管に血液を流すことはできなかった。リーチできなかったんです。ところが、フィンテックが登場したことで、お金が行き渡るインフラが整ってきたわけです。その土台となっているのが、インターネットとモバイルです。

 インターネットとモバイルというインフラを土台に、爆発的に普及したフィンテックサービスがあります。それは、中国で普及した決済サービスのアリペイです。アリペイも、中国中の個人に利用されるようになったサービスです。フィンテックが目指す先には、基本的に個人がいる。アリペイは、元々、アリババが個人へのリーチをおさえていて、そこにフィナンシャルサービスを乗っけたおかげで、大流行から普及することになったわけです。

 リーチが取れる技術とファイナンス。これらが整うと、そもそもそこに流れるべきお金が行き渡る。だから、LINE上で金融をやるというのも全く同じ原理で、既にリーチを持ってる土台の上に金融サービスをのせることで、あまねくお金が行き渡っていくわけです。そうすると、お金は個に向かい、個が強くなる。

フィンテックの源流2007年、iPhone 3G

 個が強い今の時代のキッカケをつくったエポックメイキングな製品が、2007年に発売されたi Phone3Gです。フィンテックのベースにあるすごく大きな要素の1つは、間違いなくスマートフォンなんです。スマホ登場以前は、個人に対して何かを提供したくてもリーチ自体ができなかった。でも、高性能なパソコンが相当数の個人に配られたことで、インフラが整った。

 前述の例で言えば、今まで滞留していたお金が、スマホという毛細血管ができたことで、それらを通して隅々まで血流が行き渡ることになったわけです。良い、高性能のサービスを作って、アプリという形で提供すれば、これまでは届けられなかった顧客にサービスをリーチすることができるようになった。ユーザーの目線から考えてみると、これまでは無縁だった、利用することのなかった金融サービスに簡単にアクセスできるようになったのです。

 フィンテックとは何か? フィンテックは、未だ道半ば、発展途上の概念ながら、それは、「個」へと向かう技術革新であり、サービスの提供であり、お金という血液を「個」に流せるようになったツールなのではないか。僕は、そう考えているのです。


甲斐真一郎

/ 株式会社FOLIO 代表取締役CEO。京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。2015年11月にバークレイズ証券を退職し、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。国内株を取り扱う独立系証券会社としては、10年ぶりの新規参入を果たす。リリースされている次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。
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