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これからのアニメ業界はどうなるか? |アニメ評論家・藤津亮太 第3回

日本のアニメ産業について、第一次アニメブームから、現在の第四次アニメブームまでの変遷を中心にお届けしてきたこの連載も、いよいよ今日が最終回です。

日本におけるアニメ産業は、これからどうなっていくのでしょうか?

今後のアニメ業界について、アニメ評論家の藤津亮太さんにお話をうかがいました。最終回です。

藤津亮太(ふじつ・りょうた)
アニメ評論家。’68年生まれ。新聞記者、週刊誌編集を経て、2000年よりフリー。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆中。著書に『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』(河出書房新社)などがある。朝日カルチャーセンターでは毎月第三土曜に講座「アニメを読む」を実施している。東京工芸大学非常勤講師。

テレビ局の意識の変化

――『涼宮ハルヒの憂鬱』以降のヒット作を教えてください。

藤津亮太氏(以下、藤津):
「代表するのは、『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年、毎日放送等)でしょう。地上波ですが、以前なら2クールが必要な内容を、1クールに詰め込んで中身の濃い作品に仕上げたという点が非常に特徴的でした」

――昔のアニメは放映期間が長かった記憶があります。2クール(半年)でも短く感じたものです。

藤津:
「今の若いアニメファンは2クールだと長く感じるようです。1クールが当たり前になると、作品の視聴スタイルも変わります。

たとえば1クール(12~13話)分であれば、録りだめして一気に鑑賞することもできる。2000年代半ばに普及したハードディスクレコーダーもこの動きに拍車をかけました。そして、これらが視聴者の意識に変化を及ぼします」

――変化? どのような?

藤津:
「録画して見る、一気に見るという習慣が可能になったことで、テレビ番組を観ているという意識が薄らいだんです。

この流れが次の大きな変化となった、2015年のサブスクリプション・サービス(Netflixやアマゾンに代表される、ストリーミング映像の利用権を期間限定で購入する方式)本格化への呼び水となりました。

ちなみに2000年代後半の日本のアニメは、リーマンショックの前後から弱含みとなりますが、その後、2010年代前半には再び勢いづき、2015、16年頃には、最盛期だった2005年頃と同程度の製作本数にまで回復しました。

その後も微増を続けています。現在では過去最大本数の作品になっています」

――全然、実感がありません。なぜでしょう?

藤津:
「TOKYO MXなどUHF局の深夜に放映されているからだと思います。番組表を確かめてみてください。30分刻みでアニメ作品が並んでいて驚くはずです。

一方、テレビ東京を除くと、全日帯と呼ばれる18時台、19時台の放映が少なくなっています。

夜19時台は『ドラえもん』(現在の第2作第2期は2005年、テレビ朝日系)と『クレヨンしんちゃん』(1992年、テレビ朝日系)、夕方の時間帯も含めても『名探偵コナン』(1996年、日本テレビ系)くらいではないでしょうか。

なぜこのような状況になったかというと、テレビ局の意識が変わったからです。

一般向けのアニメ作品は、もはや編成部が仕切り、視聴率に一喜一憂するという従来の形はなくなりました。

製作委員会が深夜の放映枠を購入し、そこで自分たちの番組を販売するということになったのです。

テレビ局は、映像事業部などといわれる外部制作の映像に出資する部署が、製作委員会の一員としてコミットする形になります。

つまり、深夜アニメは視聴率が第一の基準でなくなっているのです」

アニメ作品の製作本数は増えている

――それにしてもアニメをめぐる状況というのは、ものすごく変わったわけですね。

藤津:
「今の40代の人たちが、家族で夕飯を食べながら『タッチ』(1985年、フジテレビ系)や『美味しんぼ』(1988年、日本テレビ系)を観ていた時代とはまるで違います。

これは作風などとも関係ありません。たとえばコミック原作で実写映画にもなった『ちはやふる』(2011年、日本テレビ等)などは、昔であればゴールデンタイムに放映してもおかしくない題材です。

しかし、あの作品も深夜アニメ枠でした。今はそうでないとアニメの企画が成立しない時代なのです。」

――ビジネスの側面を教えてください。以前はパッケージを販売していました。ところが今はサブスクリプションが主流になった。以前より売上が落ちたのではないですか?

藤津:
「そうでもありません。配信の売上は増えていますが、依然としてパッケージのほうが多いようです。

とはいえ、サブスクリプションを含め、配信業者への販売は堅調に伸びています。

それは、国内だけでなく、従来から引き合いの多い北米や、最近では中国の配信業者が、日本のアニメ作品を購入してくれています。

近年、アニメ作品の製作本数が増えているのは、こうした海外での売上が増えた影響が大きいと思います」

――すでに新しいビジネスモデルが生まれていたんですね。

藤津:
「新しいというより、従来のビジネスモデルが状況に合わせて変化しているというほうが正しいと思います。

配信の普及は、アニメが海外のファンに届くまでのタイムラグを縮めることにつながっています。

以前は輸出をする際に、言語など先方の事情に合わせた版を作り直していました。

そのため、コンテンツ数が限られ、さらに日本で放映されてから海外版が販売されるまでタイムラグが大きかった。

またそれが、貴重な市場を海賊盤に荒らされる原因のひとつになっていたのです。配信によってその状況は変わりつつあります。

ただ一方で楽観ばかりもしていられません。

例えば中国政府は以前、TV放送される外国製アニメに総量規制を設けました。

こうした規制が昨年、ネットにまで広がりました。作品を審査する制度が生まれ、全話が完結しないと、その審査も受けられないという仕組みになったのです。

それまでは日本国内の放送と連動して1話ごとに配信していましたが、それが事実上不可能になったわけです。

中国国内のアニメ産業を育成するためと思われますが、日本のアニメ業界にとっては『中国ショック』といっていい状況です」

これからのアニメの行方

――そうしたことを踏まえ、今後、日本のアニメ業界はどうなるとお考えですか?

藤津:
「パッケージの販売から配信への転換はどうやらスムーズにいきそうで、先が見えた感じはあります、

ただビデオメーカーを中心に、どういう体制でアニメを作っていくのかが一番いいかは、もう少し模索が続くと思います。

ただ配信が主流になるといっても、パッケージ商品が完全に廃れることはないと思います。なぜなら配信には弱点もあるからです」

――それは何ですか?

藤津:
「テレビであれば放送時間に見た人の反応が、リアルタイムでSNSなどネット上などに現れます。

だから、『いま見られているんだ』ということが、作り手にもわかりました。

ところが、好きな時に好きなように作品が観られる配信では、テレビのように目立った形で反響が見えてこない。

またサブスクリプション・サービス企業の中には、その作品がどれぐらい見られているかを作り手に開示しないところもある。

つまり、作品がファンに届いたという実感を、作り手が得にくい状態なのです」

――見えない相手に戦うような感じですね。どうして情報を開示しないのでしょう?

藤津:
「さまざまな理由が考えられますが、彼らにとって視聴率に類することは事業の本質ではないからではないでしょうか。

彼らは世界中にユーザーをもち、膨大な量のデータを流しています。

よって、ひとつの作品で勝負するのではなく、多くの作品をカタログのように並べ、ユーザーを飽きさせないようにすることがまず第一で、その中からヒット作が出てくればいいと考えているのでしょう。

しかし、それでは作り手があまりにやりがいが感じにくいと思います。

今後配信作品が増えれば、この問題は目立ってくるでしょうから、映画館での上映や地上波放送などとうまく組み合わせて、作品の存在感を出したり、作り手が手応えを感じられる環境を作っていく必要があると思います」

――最後に映画の話を聞かせてください。

藤津:
「日本のアニメ映画には、この数年のうちに大きな波が訪れています。

なぜなら、『君の名は。』(2016年公開、新海誠監督)が、日本映画史上歴代2位の興行収入となるほどの、空前のヒットとなったからです。

ヒット作が生まれると、業界全体が活性化し、新しい企画も通りやすくなります。

実際にポスト『君の名は。』の状況を見越して、翌2017年ごろから製作を始めた作品が、本年から来年は相次いで公開されています。

しかもテレビアニメの映画版ではなく、オリジナルや小説等の原作のアニメ映画化といった、作家性の強い意欲作がほとんどです。

たとえば、前出の新海誠監督は、7月に『天気の子』(東宝)を公開しました。『この世界の片隅に』(2016年、東京テアトル)が異例のヒットとなった片渕須直監督は、前作に新たな30分のシーンを加えた『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を12月に公開する予定です。

テレビアニメ『クレヨンしんちゃん』やその劇場版で名を馳せ、『嵐を呼ぶアッパレ! 戦国大合戦』(2002年、東宝)では、文化庁メディア文化祭アニメーション部門で大賞を受賞した原恵一監督は、4月に『バースデー・ワンダーランド』(ワーナー・ブラザース映画)を公開しました。

また、『夜明け告げるルーの歌』(2017年、東宝)で内外の賞を獲得した湯浅政明監督は、6月に『きみと、波にのれたら』(東宝)を公開しました。

その他にも、『ソードアート・オンライン』(2017年、アニプレックス)の伊藤智彦監督が9月に『ハロー・ワールド』(東宝)を公開予定です。

この中からヒット作が生まれれば、日本のアニメシーンはさらに盛り上がることになるでしょう。

よって、この1~2年に公開される劇場アニメ映画は、日本のアニメ業界の今後、そして若手クリエイターたちの未来にとっても、重要な位置を占めることになると思います」

――これらは、どんなタイプの作品に仕上がっているんですか?

藤津:
「みなさんが知っている日本の劇場アニメ作品は、ジブリの宮崎駿さんや細田守さん、新海誠さんくらいだと思います。

しかし、日本のアニメはもっと幅が広く、深いんだということが、体感できる意欲作ばかりだと思います。これを機会に多くのアニメ作品にたくさんの人が関心を持ってもらえると、アニメ評論家としても嬉しい限りです」

――『君の名は。』の映像の美しさには驚いた覚えがあります。あの作品をきっかけに、日本のアニメ作品はさらに進化しているんですね。

また劇場に足を運びたいですし、深夜アニメもぜひチェックしてみたいと思います。本日はありがとうございました。

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取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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