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長寿企業の明確なミッションとは?|グロービス経営大学院 経営研究科 田久保 善彦・中編

全回は、長寿企業の「意外な」企業努力についてお伺いしました。

今回は長寿企業の経営について、さらに掘り下げて聞いてみたいと思います。

今回もグロービス経営大学院の田久保先生にお話を聞きます

田久保 善彦
グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長
慶應義塾大学理工学部卒業、修士(工学)、博士(学術)、スイスIMD PEDコース修了。三菱総合研究所にて研究、コンサルティング業務に従事。現在グロービス経営大学院の経営に携わる傍ら、リーダーシップ系科目の教鞭を執る。経済同友会幹事、ベンチャー企業社外取締役、顧問等も務める。著書に『志を育てる』、『これからのマネジャーの教科書』(東洋経済新報社)等。

長寿企業にあり、消えていった企業になかったもの

――前回、岡谷鋼機の経営面における『徹底度合い』についてうかがいました。本当に細かいことの積み重ねなんですね。

田久保善彦氏(以下、田久保):
「しかしここで、ひとつ疑問が浮かぶはずです。

前回述べたように、長寿企業は、外部の株主などの干渉をできるだけ排除し、経営者が大きな権力を握っています。

それなのになぜ、清く正しい経営をすることができるのか、という疑問です」

――たしかにそうです。で、先生の結論は?

田久保:
「それは、『神様の存在』です」

――神様?本気ですか?(笑)

田久保:
「本気です(笑)。神様とは、要するに『抗えない何か』です。

実際に『My神社』を祀っている長寿企業も多いんです。たとえば、『ヒゲタ醬油』(創業1616年)は、醤油醸造の神様『高倍(たかべ)神社』を祀っています。

長野の鋳物メーカー『ヤマトインテック』(創業1584年)も、本社脇に鋳物の神様を祀った神社があります」

――オカルトのようにも聞こえます。でも「守らなければいけないことを意識する」と考えれば納得がいきます。

田久保:
「その通りです。日本ではよく『お天道様が見ている』という言い方をしますね。

長寿企業の経営者は、『誰かに見守られている』『誰かに、ちゃんとやれよ、と言われている』としか解釈できないようなご発言が多いんです。

実は米国の企業も似ている側面があります。米国の大企業の経営者は、敬虔なキリスト教徒である比率が高いんです。

米国はそもそも、清教徒(ピューリタン)の作った国ですよね。

『まじめに働き、ぜいたくを慎み、投資を行い、施しをしよう。なぜなら神が見ているから』

というわけです。

もちろんいろいろな企業がありますから、必ずしもすべてこれに当てはまるわけではありませんが」

長寿企業の目的は「継続」

――ドライな経営者はだめということですか?

田久保:
「そうではありません。価値観の問題です。価値観ですから、多様であってかまいません。

たとえば、起業してIPOしてまとまったお金を手に入れることが目標、でもいいんです。しかし長寿企業には別の価値観があるということです」

――長寿企業が重きを置く価値とは、なんでしょうか?

田久保:
「それは『継続』です。極端に言うと、彼らは100年で1%成長すればよいと考えています。

つまり『事業の持続可能性』を、徹底的に追求しているんです。

しかし考えてみてください。

江戸時代やそれ以前から、営々とバトンをつなげてきた商売を、自分で終わりにしてもいいと考える人間がいるでしょうか?

身の毛もよだつ恐怖だと思います。

だから、『継続』に価値を置き、自分を律し、神と向き合うのです」

――それでも、現代は身を持ち崩す誘惑にあふれています。

田久保:
「だから長寿企業の経営者はみな、自分自身に対してガバナンスが利くように、商工会議所の会頭や、地域の集まりの会長といった名誉職を積極的に引き受けます。

公的な仕事をすれば、悪いことができなくなるでしょう?名誉のためではないんです」

――そうした特徴から何が見出せますか?たとえば投資に生かすことができる点はありますか?

田久保:
「成長ではなく継続を目的にしている点に注目してはどうでしょうか。

もし、成長著しい分野の企業と長寿企業とのどちらに投資するか迷った場合、短期間でお金を増やしたいなら前者を選び、孫に資産を残したいなら後者の長寿企業を選んだほうがいいということです。

先ほども述べたように、どちらかが正解不正解という問題なのではありません」

長寿企業成立の黄金パターンはあるのか?

――長寿企業の特徴が少しずつわかってきました。

ところで長寿企業となるには何かパターンのようなものがあるのでしょうか? 創業者が立派だったとか、かならず中興の祖が現れるとか。

田久保:
「偉大な創業者や商売を立て直した中興の祖は、たしかに多くの長寿企業に存在しています。

しかし、それより興味深いのは、長寿企業が、それほど『血』にこだわっていないことです」

――それは意外です。

田久保:
「『血』より『家』です。跡継ぎの男子を授からずに困っているという話を見聞きしたり、小説やドラマを見たことはないでしょうか?

しかし内実を聞いてみると、自分たちの血筋以外から婿養子をとっていたり、次男に継がせている場合などもあります」

――それもこれも「継続のため」なんですね。

田久保:
「そうです。数百年も続く企業ですから、長男が家を継ぐことを『しきたり』にしていた時期もあったかもしれません。

しかし、多くの長寿企業は『血』ではなく『家』を守っています。

『継続』というミッションが明確であり、そのためにはたいへん現実的に動く。変化も厭わない。これが長寿企業の本当の姿です」

長寿企業と聞くと、偏った「伝統と格式」にこだわった会社が多いのかと思いきや、合理的な考え方をしている企業が多いことに気づきました。

最終回の次回は、長寿企業のアイデンティティについて迫りたいと思います。
(つづく)

長寿企業経営の秘密とは?|グロービス経営大学院 経営研究科 田久保 善彦・前編
長寿企業の明確なミッションとは?|グロービス経営大学院 経営研究科 田久保 善彦・中編
長寿企業はビジョナリーカンパニー である|グロービス経営大学院 経営研究科 田久保 善彦・後編

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