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フィンテックとは何か? #2|米国発の多彩なフィンテックのプレーヤー、日本独自のプレーヤー

文/ 甲斐真一郎 

※ 本連載は、SankeiBizに掲載されたもの(2019年2月12日付 )を転載した記事です。

フィンテックとひと言で言っても…?

「フィンテック」と一言で言ってもその守備範囲は幅広くあります。多種多様なプレイヤーが競い合っている。「フィンテックをどう理解するか?」は、ビジネスマンにとっては重要なことになっていくのでしょう。生活者として便利さを楽しむという観点からも、ビジネスの次代を見極めるという観点からも、フィンテックが僕たちの未来にもたらすものは多いはずですから。

ただし、フィンテックのプレイヤーを紹介すると言っても、その範囲が広すぎるため、ここではその一部、触りの紹介になってしまうと思います。それぞれのサービスはまた回を追って紹介させてもらいますので、ここではひとまず全体像を掴んでもらうつもりで書いてみます。

最初に、フィンテックのその広範さを一望してみるという意味を込めて、どんなカテゴリーが存在するかを列挙してみましょう。まずは、ざっと眺めて見てください。

▶︎ フィンテックのカテゴリー

・ロボアドバイザー
・テーマ投資
・スマホ証券
・おつり投資
・ポイント運用
・お釣り貯金
・ロボティックプロセスオートメーション
・トレーディングツール
・小口PE投資
・家計簿
・クラウド会計
・ソーシャルレンディング
・株式型クラウドファウンディング
・寄付型、購入型クラウドファウンディング
・仮想通貨取引所
・ICO
・送金
・決済
・ファクタリング
・保険(インシュア・テック)
・その他の新しい領域

これらのカテゴリー名を見ても、今ひとつどんなサービスをやっている会社か、ピンと来ないものもあるかもしれませんが、一望してもらったことで「これだけ広範なのか!」ということは感じてもらえたはずです。

お金はどこに集まっているのか?

これだけ幅広いさまざまな領域があると、逆にフィンテックの全体像は見えずらくなってしまうのかもしれません。これら多様なジャンルの中で、無数のプレイヤーがどう社会へと出てくるのか? 

これは最終的には神のみぞ知るお話です。僕が偉そうに個別の名前を挙げて未来を占うことはできません。ただ、日本のフィンテック企業の濃淡を知るための1つとしては、フィンテックベンチャー企業の「資金調達額」を見てみるという方法はある。これをすると、浮かび上がってくるものがあると思うのです。

フィンテックの中で一番お金を集めているのは資産運用系や証券系の会社です。資産運用業としては、ウェルスナビ、お金のデザイン。証券会社としては僕の経営するFOLIOが、それぞれ約100億円前後という大きな額の資金調達を成功させています。手数料無料モバイル証券であるスマートプラスを設立したFinatextも60億円の調達をしており、決済サービス=ペイメント系では、スマホ決済サービスのOrigamiが88億円、Paidyが60億円、クラウド会計のfreeeが96億円ものお金を集めています。

決済サービス系はそれだけのビジネスというよりも、そこから発展したビジネス展開がしやすいのでお金が集まっていると僕は考えています。どういうことかと言うと、決済サービスは誰もが日常的に利用するものだからインフラになり得ます。すると、そこにある種のエコシステム(生態系)が築きやすくなる。決済アカウントが作られることで、エコシステムができ上がれば、そこから別の様々なビジネスへの展開が広がる、という具合です。

こんな風に見てみると、フィンテックという分野におけるプレイヤーの顔が少し見えてくるのではないでしょうか? 企業は、ロジックを組み立てて、事業計画としての未来のビジョンを描く。その企業への期待値が資金となって集まってくる。少なからずそこにはフィンテックの未来を占うヒントが見え隠れしているのではないかと、僕は思うのです。

大手企業も参入している理由

もちろん、このフィンテックの動きには、ベンチャー企業だけが参加しているわけではありません。KDDI、ドコモ、LINE、ソフトバンクなど、誰もが知っている企業もフィンテック分野のビジネスへの参入をしています。

彼らは、自ら大きな資本力を持ちながら、既存のビジネスから新しいビジネスへの可能性を常に探っているプレイヤーです。彼らとしては、フィンテックが、別のビジネスへの活路を開くキッカケになるのなら、そこにあたりをつけておきたいはずです。フィンテックを通じれば、金融というものを1つのタッチポイントにできますから。すると、データが集められたり、異なるビジネスへの様々な展開が容易になる可能性があったりするから、彼らも「今」というタイミングを逃してはいけないと考えているのでしょう。

本のフィンテックの源流はアメリカ

2019年の現在において、日本にもかなり多くのフィンテック・プレイヤーたちが顔を揃えました。しかし、多くの日本のフィンテック企業の事業アイデアは、元をたどると多くは「アメリカ発」のものだと推測できます。日本のフィンテックの源流がアメリカにあるという話から思い出すのは、僕の知人のエピソードです。

この知人男性は、よく知られた外資系大手金融機関に勤めていた人物で、仕事仲間からも非常に優秀だと評価されていました。素晴らしい成績を上げて目をみはる活躍を見せていました。ところがこの彼は突然、海外出張から帰国後その会社を辞めてしまいます。

日本の小さなベンチャー企業に転職してしまったのです。そのベンチャーは今でこそ有名になっていますが、当時はまだあまり知られていませんでした。同僚たち、仕事仲間の間では、「何が起こったんだろう?」と驚きが広がっていました。

ここでポイントになるのは、彼の出張先が、同じアメリカでも、ウォール街のあるニューヨークではなくて、テック企業が集まっているサンフランシスコ(ベイエリア)だったということです。世界でも有数の金融機関で働いていた彼も、ベイエリアで巻き起こっている新しい時代の波を感じたのだと思います。今になって振り返ってみると、彼の選択は誰よりも先をみていたのかも知れません。

かくいう僕もトレーダーとして海外の動きに着目している中で、米国に巻き起こっていたフィンテックの大きなうねりを肌で感じ、起業を決意しました。それくらいフィンテックの旋風が米国では吹き荒れていたんです。

ソフトバンクの孫正義さんが言っている、アメリカで受け入れられた先進的サービスを日本に持ってくる「タイムマシン経営」は、フィンテックの世界では当たり前なのかもしれません。

フィンテックのタイムマシン経営

タイムマシン経営の例としては、次のような例が挙げられると思います。ただし、これは、「この会社はここを事業モデルとしてベンチマークしたのでは?」という僕から見ての独断と偏見であることは予めお断りしておきますね。以下はいずれも、アメリカの企業をベンチマークしながらアイデアを日本に合うようにローカライズして“輸入”したのではないかと想像できます。

▶︎ タイムマシン経営の例

・テーマ投資| Motif →  FOLIO
・ロボアドバイザー| Betterment, Wealthfront →  ウェルスナビ、THEO、FOLIO
・家計簿アプリ|Mint → マネーフォワード 
・おつり投資|Acorns → トラノコ
・スマホ証券|Robinhood →  STREAM
・個人送金|Venmo →  Kyash
・決済|Paypal, Square, Stripe → Airペイ、楽天ペイ
・QRコード決済|Chase Pay, Venmo →  LINE Pay, PayPay

ちなみに決済に関して、中国ではWeChatPay、 Alipayが普及。日本ではSuicaの存在も忘れてはいけません。こうして並べて見ると、やはり世界のフィンテックに比べて、日本は数年の遅れをとっているのがわかると思います。

しかし逆に言えば、ここから先が、日本のフィンテック分野のそれぞれのサービスが本格的に社会に広まり、日本ならではのローカライズがなされ、実際に人々に生活の中で活用され始めるステージに入る。つまりとてもエキサイティングな時代に突入するということが言えるのではないでしょうか。

日本独自のフィンテック

日本のフィンテックの多くは、アメリカ発のアイデアをベースにしたものだ、と僕の私見を述べましたが、最後に日本独自のフィンテックについても触れておきたいと思います。日本には、「ユニークだなぁ」というフィンテックサービスがあります。

それが、「VALU」そして「タイムバンク」というサービスです。貨幣に代わる価値を、代替となる貨幣の「トークン」に置き換えて、価値の流通を行う新しい経済のあり方を提案するサービスです。

「VALU」は、自分自身に価値をつけて取引できるSNSサービス。ユーザー同士がサポートし合うことで「なりたいもの」や「やりたいこと」が実現される、という内容です。少し似ていますが、「タイムバンク」は、空いた時間の売買ができるアプリ。自分が持っているスキルや特技を出品して売ることができたり、スペシャリストの時間を買ったりすることができたりするサービスです。

どちらも、日本ならではのユニークなサービスになります。これらサービスの礎には、自分や時間を貨幣とし流通させようというトークンエコノミーの考え方がある。トークンエコノミーは、将来的に新しい経済圏をつくる可能性のあるものとして、さらに先を行くフィンテックの1つの形として注目されています。

以上、駆け足ではありましたが、フィンテックという分野がどの程度の広さがあって、そこにどんなプレイヤーが蠢いているのか? その触りくらいは紹介できたのではないかと思います。これから熱くなっていく分野ですから、皆さんも、生活の中で散見されるフィンテック・プレイヤーの動きには、ぜひ注目してみてください。


甲斐真一郎/ 株式会社FOLIO 代表取締役CEO。京都大学法学部卒。在学中プロボクサーとして活動。2006年にゴールドマン・サックス証券入社。主に日本国債・金利デリバティブトレーディングに従事。2010年、バークレイズ証券に転籍し、アルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。2015年11月にバークレイズ証券を退職し、2015年12月に、手軽に資産運用、株式投資を楽しめるフィンテックサービス「フォリオ」を提供するオンライン証券会社「FOLIO」を設立。フィンテックの旗手として大きな注目を集めている。国内株を取り扱う独立系証券会社としては、10年ぶりの新規参入を果たす。リリースされている次世代型投資プラットフォーム・サービス「フォリオ」は、「ユーザー体験」「操作感・表示画面」に着目されており、テーマ投資という形で誰もが簡単に株式投資を楽しむことができるように設計されている。
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