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ベトナムの素顔に迫る! |ベトナム経済研究所 守部裕行 第1話

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

経済が好調に成長し続け、世界中から注目を集めている国、ベトナム。日本の企業も、こぞってベトナムへと進出しています。

人件費が安く人口が多い、など、企業にとって魅力的な利点が多いベトナムですが、果たして「ベトナムの素顔」とはどのようなものなのでしょうか?

今回、新旧のベトナム事情に精通している、ベトナム経済研究所の守部所長にお話をうかがうことができました。

守部裕行(もりべ・ひろゆき)
ベトナム経済研究所 所長、公益財団法人 ベトナム協会理事。1972年に日本貿易振興会(現在の日本貿易振興機構)に入会し、2011年退職。国内では経理部、企画部、機械技術部(現在のものづくり産業部)、貿易開発部(現在ビジネス展開支援部)などを経験し、2008年に貿易投資センター長(現在お客様サポート部)から赴任。2011年ハノイから帰任後退職。海外勤務としては、ナイジェリア・ラゴス事務所長、スリランカ・コロンボ事務所長、ベトナム・ハノイ事務所長などを経験。

2019年2月の米朝首脳会談は、なぜハノイだった?

――ベトナムといえば、2019年2月に2度目の米朝首脳会談が、ベトナムの首都ハノイで行われました。

どちらからも遠いのに、なぜ、ベトナムで開かれたのですか?

守部裕行氏(以下、守部):
「ベトナムは、北朝鮮と同じ社会主義国家です。

ベトナム建国の父とされるホー・チ・ミンと北朝鮮の初代国家主席の金日成以来、国交があり、互いに大使館を置いています。

米国は、1960年代から70年代にかけて起きた『ベトナム戦争』の当事者同士でした。超大国米国が唯一敗れた国です。

ベトナム戦争では多くの難民(ボートピープル)が国外へ脱出しました。彼らが目指したのは米国西海岸でした。

その時、米国に移り住んだ人たちが現在ではベトナムへ投資しています。米国はベトナムの最大の輸出先になっているんです。

また、両国にとっては中国をけん制する意味もあったでしょう。

ベトナムと中国は共産党独裁政権であり、経済のつながりは大きい。ベトナムの最大の輸入先は中国です。

しかし中世から国境紛争を繰り返し、ベトナムは何度も中国と争っているし、現在は南シナ海にある西沙や南沙諸島の領有権の問題が起きている。

こうした利害関係を組み合わせた結果、重要な会談の場所に選ばれたのだと思います」

――ベトナムといえば、ベトナム戦争を思い起こします。焼き払われた村や逃げ惑う人々の映像は誰もが一度は目にしたことがある。

ところが現在は、進境著しいASEAN諸国の中でも、さらに有望だと目されている。どんなきっかけがあったのですか?

守部:
「ベトナムは、ベトナム戦争のあとに隣国カンボジアに侵攻したことで国際的な経済制裁を科されていました。また度重なる中国との国境紛争もあり、国内経済は疲弊し、たいへん貧しい国でした。

そんな時に助けを求めたのが、当時ASEAN諸国の中でも経済発展で注目されていたシンガポールです。

1991年に行われたカンボジア和平に関するパリ会議後、ベトナムのキエト首相が、シンガポールの実力者で当時は首相を退いていたリー・クアンユーに経済アドバイザー就任を要請したのです。

リー・クアンユーは、米国の銀行が入ってこらるような国にしないとだめですよ、と助言をしたり、調査ミッションを送ったりしました。

そこからベトナムの開放政策がはじまりました」

ベトナムの現在


――現在のベトナムについて教えていただけますか?

守部:
「経済も人々の生活も年ごとに発展しています。1人あたりのGDPは2009年に約1100ドルでしたが、2018年には2500ドルを上回りました。

ただし、日本は3万8000ドル(2017年)ですから、伸びたといってもこれからです。

都市部を少し離れただけで、昔ながらの風景があちこちに残っていますし、ベトナムは鉄道や道路が未発達で、主な交通手段はバイクです。

1人で乗るのではなく、多い時は4人で乗っています。

モノを運ぶ手段もバイクが多い。都市部では自動車も増えてきましたが、まだモータリゼーションが始まったばかりという段階です。

ちなみにバイクは長らく日本製が圧倒的なシェアを誇っていました。

ところが一時期安い中国製が市場を席捲したことがありました。

しかし最近また、日本製が復権しています。いま述べたように、ベトナムではバイクを酷使する。中国製はすぐに壊れてしまうのです」

――現在、人口はどれくらいでしょうか?

守部:
「約9400万人です。2025年には1億人を超すと予測されています。

中位年齢(全構成員の平均年齢)は約30歳。日本が47歳ですからたいへん若い国です。

ここが一番の魅力で、ベトナムは、日本の高度成長期のような、人口ボーナス期を迎えています」

――その他にベトナムを特徴づける点といえば?

守部:
「97%という識字率の高さです。発展途上国では突出しています。ベトナム人は子供の教育に熱心です。

ほとんどの人に読み書きの能力が備わっている。都市部と農村部の人口割合は3対7くらいですが、農村部でも教育はしっかりしています」

――人々の性質はどんな感じですか?

守部:
「8割が大乗仏教を信仰し、家々には仏壇のようなものが祀られています。

日本人に近いですが、私などがバスに乗ると、すぐに席を譲ってくれます。その点では日本人よりすぐれているかもしれません(笑)。

儒教の影響もあるといいます」

――日本人は1人の時と集団の時では違うと言われることがあります。ベトナム人はどんな傾向ですか?

守部:
「家族や親族はとても大事にします。しかし集団という感覚はまだぴんと来ないようです。

日本人がもつ愛社精神などはあまりない。その点、日本企業は苦労することもあるようです。


ただし工場などへ行くと、かならず壁に標語のようなものが掲げられています。これによって規律を浸透させようというこころみだと思います。こういう時に識字率の高さが役立ちます」

労働人口の減少が大きな問題となっている日本に対し、人口ボーナス期を迎えているベトナム。

真面目で勤勉、識字率も高いベトナム人ですが、国の体制は一党独裁の社会主義国。

次回はベトナムの政治や各地域の風土などについて触れていきます。

(つづく)

ベトナムの素顔に迫る! |ベトナム経済研究所 守部裕行 第1話
土地を知れば、ベトナムがわかる |ベトナム経済研究所 守部裕行 第2話
ベトナムのビジネス、今とこれから |ベトナム経済研究所 守部裕行 第3話


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