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ジェネリック医薬品の将来を語る|日本ジェネリック製薬協会 田中俊幸 後編

日本におけるジェネリック医薬品の歴史と、現状についてお聞きしてきたこの連載も、今回で最終回です。

今回は、この業界の抱える課題と、これからのジェネリック医薬品についてお聞きしたいと思います。(※敬称は省略しています)

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田中俊幸(たなか・としゆき)
日本ジェネリック製薬協会 政策委員会 実務委員長
慶應義塾大学商学部卒業後、銀行勤務を経て、平成22年4月に東和薬品株式会社へ入社。平成25年に日本ジェネリック製薬協会 総務委員長に就任、その後、渉外統括部長を経て、現職に至る。

シェア拡大ゆえの悩み

――前回のお話をお聞きして、現在の日本において、ジェネリック医薬品メーカーは、黙っていてもシェアが広がるという状況なのですね。

田中俊幸氏(以下、田中):
「提言が発表された当時は、そう考えている人も多かったと思います。つまり官製バブルだったわけです。

しかし厚生労働省が掲げた目標は『2020年までに数量シェア80%』です。もう目前です。しかも達成してしまえば、市場は成長から成熟へと変わります。

当然、戦略も変わるはずです。今から準備しておかなければなりません」

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――具体的にはどういうことですか?

田中:
「今までは、ジェネリック医薬品の需要が伸びることはわかっていたわけですから、どんどん設備投資を行い、工場を増やしてきました。

ところがあくまで厚生労働省の予測の上に成り立っている計画です。予測が当たらない場合もある。

実際に、80%を達成すればジェネリック医薬品だけで年間1000億錠の売上になるだろうと予測していたのですが、結局その数は達成できそうにありません」

――なぜですか?

田中:
「ジェネリック医薬品の使用促進を進める一方で、2016年に『多剤投与是正』が行われたからです。

ジェネリック医薬品は薬剤費の伸びを抑制する施策ですが、多剤投与是正は薬の量を減らす施策です。どちらも医療費を下げる効果があるのです。

具体的には『6剤以上薬を処方されている患者さんから2剤減らすと評価される』という診療報酬改定がありました。これが奏功して、薬の使用量が減りました。」

――それはたいへんです。

田中:
「それでも今は、新薬がジェネリック医薬品に置き換えられる過渡期です。だから、ある新薬の特許が切れると一気呵成にジェネリック医薬品に切り替えなければなりません。

よって、ゲリラ豪雨のように工場へ注文が殺到することも出てきました。

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そうした需要に対応するには、多少の生産設備の余剰がないと苦しくなります。

しかし需要の波が大きいので、その調整がむずかしくなる。また薬は安定供給が求められますが、それにも悪影響を与えかねないのです」

――ジェネリック医薬品市場が大きくなった、バンザイ!という簡単な話ではないのですね。

田中:
「市場が安定すると、次は安定供給が可能な企業が生き残る時代になると思います」

品質は世界有数の基準が担保している

――品質はどのように守られているのですか?

田中:
「厚生労働省には、保険診療報酬や薬価を決定する『中央社会保険医療協議会(中医協)』という組織があります。

以前はここでジェネリック医薬品の品質について、問題視するような議論も起きていたのですが、現在ではそのようなことはなくなりました。

GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造管理および品質管理に関する基準)に基づき、製造管理と品質管理が徹底されたジェネリック医薬品の製造工場を実際に多くの方に見ていただき、品質に問題がないことを確認していただいたからです」

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――GMPという基準はジェネリック医薬品独自のものなのですか?

田中:
「いえ。ジェネリック医薬品だけでなく新薬も受託工場も、あらゆる製薬工場に適用される基準です。

日本ではこの基準は年々見直しが行われており、現在では欧米等の基準とも整合された国際的にも厳しい基準になっています。

なお、最近では企業の事業の多様化、つまり研究に重点的な投資を行うケースや専用の製造施設の合理化などから、自社工場だけでの製造ではなく、他社への製造委託などの外注化など柔軟な対応が進められております。

日本は、医薬品の有効成分である原薬は約6割が海外からの輸入で調達されている状況です。輸入の原薬に関する品質確保についても、わが国では欧米と同等の厳しい基準が適用されています」

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――日本の基準はきびしいのですね。

田中:
「日本のジェネリック医薬品はこうした条件の下に製造されています。

だから、ずっと前の議論に戻りますが、ジェネリック医薬品は安いからちゃんとした工場で製造されていないのではないかというのは、偏見と言ってよいのではないかと思います。

日本にあるジェネリック医薬品の工場は、このような世界でも指折りの厳格な基準を満たすために、最新の設備の導入とメンテナンス、オペレーターの教育といったことに対し多大なコストをかけています」

――ということは、新薬メーカーとはちゃんと棲み分けができているということですね?

田中:
「その通りです。新薬メーカーは研究開発にコストをかけ、大量生産でそのコストを回収する。

ジェネリック医薬品メーカーは、新薬の特許満了後と再審査期間終了後に、高い品質と供給の安定を保つことで、医療の基盤を下支えしているというわけです。

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また近年は、新薬メーカーが海外メーカーに製剤の生産を委託するケースが増えていますが、ほぼ全てのジェネリック医薬品の製剤は国内で製造されています」

――新薬からジェネリックへの置き換えが進んだ結果、どんな効果が生まれているのですか?

田中:
「2017年の数字ですが、ジェネリック医薬品の置換え数量シェアが65.8%まで上昇した結果、国全体の医療費は1兆2991億円下がったというデータが公開されました。

目標は80%ですから、現在はさらに高い効果が上がっていることでしょう」

ジェネリック医薬品をめぐる4つの課題

――今後、ジェネリック医薬品業界はどこを目指すのでしょうか?

田中:
「先ほどから述べているように、2020年にはジェネリック医薬品の数量シェアが80%に達すると思います。

そうなると業界としてはまず『安定供給』という課題に対し、これまで以上に積極的に取り組まなければならないでしょう。

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また品質への信頼をさらに高めることも必要です。

数多くの有識者の方々に工場を見ていただいたことをお話しましたが、それだけでなく、国立医薬品食品衛生研究所内に『ジェネリック医薬品品質情報検討会』が設けられ、ジェネリック医薬品の品質に関する情報について学術的観点から検討するとともに、必要な試験・評価が実施されています」

――順風満帆といったところですね。

田中:
「もちろん課題はいろいろとあります。個人的に感じる一番の課題は『人材育成』です。

新薬メーカーが採用を絞っていることもあり、以前なら新薬メーカーに流れていた30歳前後の若手にはたいへん優秀な人材がそろっています。

しかし、彼らを管理する私を含む中間層のレベルが高いとは言えません。

この弱点を補うために、未来の管理職として若手をどのように育成すべきか、というのが業界全体の課題と考えます」

――若手が優秀というのは希望が持てます。

田中:
「2つ目の課題は薬価制度です。

現在、新薬とジェネリック医薬品の薬価は少しずつ差が小さくなっています。将来は同じ値段になる事も決まりました。

しかし双方には大きな違いがあります。それは情報量です。

新薬には特許期間内、再審査期間内に蓄積した有効性や安全性、副作用等の情報がある。ジェネリック医薬品には、そこまでの情報量がありません。

これを踏まえて、薬価が同じになった時、ジェネリック医薬品側はどうビジネスを組み立てればいいのか。これが大きな課題になってくるでしょう」

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――なるほど、情報格差をどうするかということですね。

田中:
「3つ目は『地域フォーミュラリー』です」

――フォーミュラリー―とは何ですか?

田中:
「分かり易く言いますと、地域での『薬の推奨リスト』のようなものです。

『院内フォーミュラリー』という言葉を耳にしたことはないでしょうか。これを地域に広げていくという試みが『地域フォーミュラリー』です。

すでに山形県酒田市で始められています。その地域の病院や薬局で処方、調剤する薬を、成分ごとに指定してしまうのです。たとえば酒田市の場合、それまでの30社近くから3~4社程度に限定されました。

それはジェネリック医薬品だけでなく新薬メーカーも含まれています」

――そうやってジェネリック医薬品の割合を増やそうというのですね?

田中:
「決して、ジェネリック医薬品の割合を増やす事が目的ではありません。

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国としても、早ければ2020年には、この『地域フォーミュラリー』の制度を具体的な施策として推進するような意見も出ています。

しかし別の問題も起こりえます。酒田市より規模の大きな自治体が地域フォーミュラリーの導入に踏み切った場合、数社で安定供給ができるのかという問題が出るでしょう。

この場合、推奨リストから漏れた製薬メーカーが受託メーカーとなり、生産を下支えすることになったり、さらに進んで、製薬メーカー全体の業界再編につながるかもしれません。

こうしたこともあり、製薬メーカーはどこも1社単独では生き残れない時代になるように感じます」

――きびしい時代になりそうですね。4つ目の課題は?

田中:
「先ほど述べた『未病』を含む『健康長寿の延伸にどれだけ貢献できるか』という点です。これには『未病』だけでなく、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)をいかに活用するかがカギになると思われます。

これもおそらく、他業種との連携が重要になります。たとえば、薬の形をしたICチップを患者さんに飲んでもらって、胃カメラや大腸検査のファイバーの代わりにするといったことが実現するかもしれません。

その場合、『溶けやすい』ではなく『溶けにくい』製剤工夫が必要になるでしょう。まるで『ドラえもん』の世界のようですが、こうした夢のような技術の実現にも、製薬業界は関わってくると思います」

――大きな変化がやってきそうですね。

田中:
「はい。製薬業界は変革期を迎えていると思います。相当変わるでしょう。

これまでは業界内だけでやってきましたが、未病対策など他業種との協働など積極的に推進していかなければ生き残っていけないですから。

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もうすでに、武田薬品工業は『湘南ヘルスイノベーションパーク』を設立して、ベンチャー企業や他業種とのコラボレーションを促進しようとされています。

また日本の医療用医薬品は2兆円の輸入超過産業ですが、国内にとどまっていた製薬業界の力をどのように全世界へ波及させていくのかといったことにも真剣に検討されています。

新しいビジネスが創生される可能性が大変高い業界だと思います。たぶん2040年頃までは大きな変化が連続するのではないでしょうか。

つまり、『医療費の適正化』をきっかけにして、業界再編と他産業との協働、そして市場を世界へ広げていく過程にあるのが、現在の日本の製薬業界、そしてジェネリック医薬品業界のおかれた状況だということです」

――1粒のジェネリック医薬品のお話から、いろいろな未来を垣間見ることができました。本日はありがとうございました。

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