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東京都建設局 道路保全担当部長・加藤直宣|第2回 東京の街からすべての電柱がなくなる日?

目次

・道路には「国道・都道府県道」「区市町村道」があるって知ってた?
・無電柱化のチャンス?
・1kmで5.3億円?
・人々の心の中から生まれる
無電柱化の街

取材・文/河鐘基、写真/荻原美津雄、ロボティア、取材・編集/FOUND編集部

東京の街から電柱が消えるのにはどれくらの時間がかかるのか?

前回、東京においても無電柱化というのが、意外なほど古くから存在し、長い間、ずっと考えられてきたこと、その計画が少しずつしかし着実に実行されて形になってきていることがわかりました。

では、未来に向かって東京の無電柱化を進めていく上で、どんな課題があるのでしょうか?

今回も、東京の無電柱化を担当する東京都建設局道路保全担当部長・加藤直宣氏にお話しを伺いました。

道路には「国道・都道府県道」「区市町村道」があるって知ってた?

今、東京都が特に力を入れて向き合おうとしているのは、国や都が管轄する道以外の道路だと言います。

加藤氏:
「今後は、
区市町村道の整備に
力を注いでいく
必要があると思います。

都内の道路のうち、
国道・都道(都道府県道)は全体の約1割。
残りの約9割が
区市町村道になります。

このうち、
歩道の幅員が
2.5m以上ある区市町村道は
全体の6%しかありません。

それらをいかに
無電柱化していくかが
課題になっています」

なるほど、道路にはいくつか種類があるのですね。普段、気にも留めていないので、私たちはその違いになかなか気づくことはできません。

国道…国が管理する道路
都道
都道府県道)…都が管理する道路
区市町村道…区市町村が管理する道路

無電柱化のチャンス?

東京都がどうにか推し進めたいと考えているのが、区市町村道になるのですね。

こうした課題があるため、東京都は2017年に、区市町村の無電柱化に対して財政的・技術的支援を行う「無電柱化チャレンジ支援事業」を創設しました。(東京都建設局HP

これは歩道の幅が、2.5m未満など、特定の困難な条件下で無電柱化にチャレンジする区市町村に100%の補助を出すというものです。

100%の補助というのは、全面的に都のサポートのもと、無電柱化を進めることができることを意味します。

しかも、加藤さんの発言に基づいて、次のように整理してみますと、

■ 道路の割合
約1割 国道、都道
約9割 区市町村道(6%=2.5m以上の幅員、残り94% =2.5m以下の幅員) 

ほとんど全ての区市町村道は、「無電柱化チャレンジ支援事業」に当てはまり、同制度を活用することで、無電柱化をできてしまうということになります。

加藤氏:
「チャレンジ支援に
手を挙げてくれた
区や市には、
それぞれ技術検討会を
つくってもらっています。

そこに都の職員が参加する形で
議論を進め、
技術的な支援も
並行して行えるようにしています」

これだけ聞くと、至れり尽くせりな支援を受けられるのだから、やらない手はないだろう、と早合点してしまいます。しかし、やはり一筋縄ではいかない課題もあるのです。

1kmで5.3億円?

無電柱化のもうひとつの課題は、「経済的コスト」だと加藤さんは説明します。電線共同溝(電力、通信など各種ケーブルを埋設するための設備)を1㎞延長するためのコストは、およそ5.3億円、そう試算されているのだそう。(出典:国土交通省・無電柱化の推進について

そして、そのうち、道路管理者(東京都など自治体)の負担は3.5億円、一方、NTTや東京電力など電力会社、通信会社の負担は1.8億円とされているそうです。

■ 電線共同溝の工事費用って?
1km延長の費用 = 5.3億円

■ 5.3億円の費用負担、どんな割合?
道路管理者(自治体)   3.5億円
NTT、東京電力など      1.8億円

確かに、考えても見れば、電柱には電話線や電力供給のための線も張り巡らされているわけですから、自治体だけが勝手な想いで進めるわけにはいかないのですね。

特にコストという側面から考えてみれば、単純な気持ちだけで 「GOサイン」を出せるものではないのは納得できます。

加藤氏:
「東京都では、
無電柱化をさらに推進するために
2017年度、都道府県初の
"無電柱化推進条例”を施行するとともに
この条例に基づいて、
2018年度の3月には
今後、10年間の方針と目標を定めた
"東京都無電柱化計画"を策定しました。
この中で、10年後までに整備コストを
3分の1カットすることを目指して
取り組みを進めています。

コストを削減するためには
技術開発が不可欠です。

電力会社、通信会社と
連携することで
イノベーションを促していくという
東京都の立場です。

例えば、
掘る深さを少しでも浅くすれば
掘る時間も量も減るので
経費も安くなる。

一方で、浅くしすぎて
道路自体に
異常があってはいけないので、
さまざまな角度から
検証したうえで
基準を整備していっています。

近年では、
配管の素材の基準作り、
地上機器(電力の変圧などをする装置)の
小型化などにも
関係事業者とともに取り組んでいます」

つまり、無電柱化を進める上でかかってくるコスト自体を下げて、リーズナブルな値段にすることで、多くの自治体の無電柱化を後押ししようというわけです。

こうした取り組みを地道に着実に、積み重ねてきているあたり、東京都としての力の入れ具合がわかる気がします。

しかし課題はそれだけではありません。無電柱化を推進する上では、地下にある各種インフラとの調整を行う「時間的コスト」も大きな課題だと加藤氏は指摘します。

歩道の地下に電力線や通信線を整備するとなると、上下水道など、そのほかの生活インフラ設備とのバランスを調整しなければならず、一般に想像されている以上の膨大な時間がかかるのだそうです。

加藤氏:
「多くの埋設物がある歩道を
無電柱化するとなると、
多くの時間がかかります。

設計手続きから始まり、
電柱を取り除き、
道路を舗装復旧するまでに
かかる時間は、
400mあたりおよそ7年です。

同じ電線でも
高圧もあれば低圧もある。

また各社の普通電話回線、
光回線、ケーブルテレビ回線、
有線放送の線などもありますし、
それら全てを地中に埋設するための
調整をしなければなりません」

無電柱化されるまでのプロセスや環境は、各国・各都市の実情によって千差万別とも言えます。

無電柱化を100%達成している海外の都市の実情を掘り下げてみてみると、一度埋めると埋めっぱなしで、メンテナンスに困る、効率が悪い、というケースも少なくないようです。

東京都がどこかのモデルを参考にしているということはなく、あくまでオリジナル。「限られた道路空間を高度に利用」する独自の無電柱化を進めてきたと言います。

人々の心の中から生まれる無電柱化の街

最後に、東京都の無電柱化計画を進めていく上で、どうしても欠かせない要素がひとつあると加藤氏は言います。それは「都民の理解」です。

つまりは、人々の心の問題です。「無電柱化、無電柱化」と騒いでみたところで、結局、生活の主役である住民たちがそれを認識して、求めなければ、どんなに人々の暮らしに良い効果、影響をもたらすとしても、計画の進展は、加速しません。

加藤氏:
「私どもは仕事をしながら
『あの電柱邪魔だな』とか
思うタイミングが多いのですが、
都民の皆様にとっては、
電柱がある街並みは
日常風景のようです。

その意識を変えていただくべく、
無電柱化に関する
理解を促す活動もさらに
進めていきたいと思います。

そのために、様々なPR、広報活動を
行っています。
 
11月10日の無電柱化の日に合わせた
啓蒙イベントなどがあるとともに
日々現場では、職員が住民の
みなさまの理解が深まる説明を
行いながら進めています。

道路を掘るなどの作業で、
ご迷惑をおかけすることも
少なくありません。

その点も、
ご理解・ご協力いただくため
努力していこうと考えています。

ちなみに、
毎年11月10日は『無電柱化の日』。

『111』が電柱、
『0』は電柱ゼロを意味します。

そちらも、都民の皆様に
ぜひ覚えていただけると
幸いです(笑)」

人々の安全と街の景観を守る無電柱化は、ゆっくりですが着実に進んでいます。小池百合子知事は、相当な情熱をもってこの無電柱化に力を注いでいると東京都の職員たちは語ります。

無電柱化が実現されることによって、日本の街の風景は一変します。しかし徐々に風景が変容していくのなら、それは、必ずしも目立つような変化ではないかもしれません。

それでも、景観、安全、そして防災という観点から、私たちの暮らしを快適に守るという観点からは、実は、とてつもなく大きな変化になるはずです。

今も既に存在する、「電柱や電線がない景色、インスタ映えする無電柱スポット」は探してみると面白いかもしれません。逆にこの先、電柱、電線がなくなるころには、「電柱や電線のある景色」がインスタ映えスポットになっているなんてこともあるかもしれませんが…。

加藤さん、興味深いお話、ありがとうございました!

おわり


東京都建設局 道路保全担当部長・加藤直宣インタビュー

第1回 知っていますか? 街の「無電柱化計画」のお話
第2回 東京の街からすべての電柱がなくなる日?