見出し画像

東京都建設局 道路保全担当部長・加藤直宣|第1回 知っていますか? 街の「無電柱化計画」のお話

取材・文/河鐘基、写真/荻原美津雄、ロボティア、取材・編集/FOUND編集部

目次

なぜ無電柱化なの? 3つの目的
日本の無電柱化、どうして遅れているの?
無電柱化と自然災害
無電柱化、何年までにどれだけ進む?

なぜか空がスッキリ見える気がする外国から帰国したときに、「なんか日本の街ってごちゃごちゃするなぁ」と感じる人は少なくないはずです。ごちゃごちゃの原因、その1つとして考えられるのが、日本にはそこかしこにある、空にそびえる無数の電線の存在です。

長年、日本の風景をつくってきたこの電柱・電線に、大きな変化が訪れようとしています。電柱をなくし、電線を地中に埋める無電柱化が日本社会の課題、またトレンドワードになりはじめているのです。さて、日本、なかでも首都・東京の無電柱化の過去と未来とは? どのようなものなのか?

今回は、東京の無電柱化を担当する東京都建設局道路保全担当部長・加藤直宣氏にお話しをお伺いしました。写真上の人物です。

なぜ無電柱化なの? 3つの目的

まず最初に、基本的な目的についておさえておきましょう。

無電柱化の目的は、加藤さんによると、大きく3つに分けることができると言います。

ひとつは「良好な都市景観の創出」、次に「安全で快適な歩行空間の確保」、そして3つ目が「都市防災機能の強化」です。

「無電柱化」3つの目的

1. 都市防災機能の強化
2. 安全で快適な歩行空間の確保
3. 良好な都市景観の創出

このうち特に「3」の重要性は年を追うごとに高まっています。

これは、今の日本に生きる人なら、誰もが気になることなのではないでしょうか?

近年、大規模地震や台風など自然災害が頻発していて、こうした災害により各地で「電柱の倒壊」が起こっているのです。

電柱が倒れると何が起こるのか?というと、緊急車両が通れなくなったり、避難経路が閉塞されてしまい、人々の命、暮らしに大きな支障が生じてしまうのです。

日本の無電柱化、どうして遅れているの?

一方で、日本の主要都市は、世界の各都市と比べて無電柱化が遅れているとの統計があります。

国土交通省の調べによると、無電柱化の割合は、ロンドン、パリ、シンガポールなどは100%、台北96%、ソウル49%に対して、東京23区は8%、大阪市は6%にとどまっています。(出典:国土交通省・欧米やアジアの主要都市と日本の無電柱化の現状

ロンドン   100%
パリ     100%
シンガポール 100%
台北      96%
ソウル     49%
東京23区    8%
大阪市      6%

なぜ日本の無電柱化は、諸外国に比べて遅れてしまっているのでしょうか?

加藤氏
「東京都における無電柱化の歴史は
明治40年ぐらいに遡ることができます。

まず渋谷や広尾の一部で
地下ケーブルという
無電柱化のはしり
のようなものがありました。

その後、大正時代に赤坂、
四谷、牛込、麻布などで
地中配電による
電力供給が開始されます。」

無電柱化と聞くと真新しいキーワードのようにも思えますが、加藤氏の話を聞くと、その歴史が意外に古いことに気付かされます。

加藤氏:
「戦前戦後は、安く早く電力を
供給することが最優先とされたこと、また、
電線の被覆技術が
向上したことによって、
架空線による電力供給が主流となって整備が進められました。

その後、
高度成長期には都心部で
高層ビル化が進みますが、
それらビルの整備に合わせて
無電柱化が進むことになります」

無電柱化が遅れた理由は、戦前戦後の「迅速な電力供給」という、復興的な要因があったわけですね。

それでも、明治の時代から、無電柱化は考えられてきたというのは意外な事実なのではないでしょうか。

加藤さんによれば、バブル期に向かう昭和50年代(1975年〜1984年)に、さらに都市の整備が活発化。無電柱化が世論の支持を受け、1986年度には政府が「電線類地中化計画」を策定します。

その流れに合わせ、東京都でもこの年度から「電線類地中化計画」の取り組みが始まったと言います。(出典:国土交通省・無電柱化の変遷

1986年 
建設省(現:国土交通省) → 電線類地中化計画
東京都 → 電線類地中化計画

無電柱化と自然災害

加藤氏:
「1995年の阪神淡路大震災や、2016年の
熊本地震では、
電柱が倒壊する事例がありました。

また記憶に新しいのですが、
2018年9月に
台風21号が日本列島へ上陸した際には、
大阪で電柱が軒並み倒れてしまう
という災害被害がありました。

しかも、大阪では
鉄筋コンクリートの電柱が根元から
完全にバキッと折れてしまった。

電柱が倒れると
直接的な被害のみならず、道路が塞がれ
救命救急車両の通行が
妨げられるというような
防災上の障害が発生します。

今後、地球温暖化などによる
異常気象などの影響を考えると
油断ならず、
無電柱化を通じた
都市防災機能の強化は
都市づくりにおいて
非常に重要となってくるでしょう」

加えて加藤さんは、「東京都の道路事情を考慮した際にも無電柱化は必須」だと指摘します。

都内の道路には歩道が不足しており、整備をしても電柱があると歩道幅がどうしても狭くなる。結果、歩道で歩行者がすれ違うことが難しく、車道に一旦でることを余儀なくされてしまうというケースが少なくないそうです。

快適・安全な歩行者空間を確保する上でも、無電柱化が重要というわけです。

東京都の道路事情

歩道不足 → 電柱により狭い歩道 → 歩行者のすれ違いに難 → 歩行者が車道へ → 安全とは言えない歩行者空間が多く存在する

※無電柱化で景観を確保した道路の写真を数枚入れる?

無電柱化、何年までにどれだけ進む?

東京都の無電柱化推進計画は、1986年の第1期から数えて、現在、第7期目(2014年策定)。都道における整備対象延長2328㎞のうち、913㎞までを無電柱化させている、と加藤さんは説明します。

そして現在は、概ね首都高中央環状線の内側エリアである「センター・コア・エリア」を重点的に整備している、と語ります。

加藤氏:
「2019年度末までには、
センターコアエリア内の無電柱化を
100%達成し、その後、
2024年度末までに環状七号線を100%、
また、災害時の避難や救急活動、
物資輸送を担い、
防災拠点などを結ぶ
『第一次緊急輸送道路』を50%まで
無電柱化することが
推進計画の大きな目標
のひとつとなっています」

目標

2019年度  センター・コア・エリアを100%無電柱化
2024年度  環状七号線を100%無電柱化

なんと、東京都では、もう7期まで無電柱化推進計画は進んでいたのですね。そして、「2019年度」「2024年度」と明確な目標を設けて、着々と無電柱化の計画は進んでいたわけです。

では、今後、都の無電柱化計画を進めていく上では、どんなことをクリアしていかなければならないのでしょうか? 続きは第2回にて、加藤さんに聞いてみたいと思います。

つづく

東京都建設局 道路保全担当部長・加藤直宣インタビュー

第1回 知っていますか? 街の「無電柱化計画」のお話
第2回 東京の街からすべての電柱がなくなる日?