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我々の知らない、日本のいいところを探る|インバウンド評論家・中村正人 第4回

インバウンドの現在と問題点、そしてこれからのインバウンドについて、評論家の中村さんにお聞きする連載もいよいよ最終回。

今回は外国の人に、「正しい日本を見せる方法」を伝えるために大切なことは何か?について語っていただきます。

中村正人(なかむら・まさと)
インバウンド評論家。2000年代初めより訪日外国人市場の動向を追い、各種メディアに執筆、関連著作多数。主な著書は「『ポスト爆買い』時代のインバウンド戦略」(2017扶桑社)、「爆買いの正体」(鄭世彬氏との共著)(2016飛鳥新社)。ネット連載にForbes Japan 、個人ブログ「ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌」でも発信中。

多言語化は本当に正しいのか?

――正しくインバウンドを捉えることができれば、物心両面で、恩恵を得ることができるというお話を前回聞きました。

では現在、あまりインバウンドの恩恵を受けていない地方都市が、外国人観光客を積極的に呼び寄せたいと考えた時、何から手をつければいいのでしょう?

中村:
「私もさまざまな自治体のケースをウォッチングしていますが、多くの場合、まずパンフレットや地図、看板などの多言語化から手を付けます」

――すぐに思いつくのが多言語化だと思います。

中村:
「でも私に言わせれば、あれほどまずいものはない」

――なぜですか?外国人観光客にとっては便利なのでは?

中村:
「いえ。ほとんど役に立ちません。なぜなら、大半が日本人向けに作った内容を、翻訳しているだけだからです。

日本には中国人だけでなく、米国人やロシア人など、いろいろな国の人たちがやってきます。彼らの日本に関する知識や興味は千差万別なのです。

それなのに、日本人の一般常識を前提として書かれているパンフレットがいかに多いか。

たとえば、徳川家康を知らない日本人はいませんが、多くの外国人は知りません。それなのに何の注釈もない。そういう例が後を絶ちません」

――知っているという前提で、お墓やら古戦場やらを解説されても、ポカンとするばかりだということですね。

中村:
「多言語化して満足するのではなく『外国人観光客が本当に知りたいことは何だろう?』と立ち止まって考えることが大切なんです」

――なぜ、そういう状態が引き起こされたのでしょう?

中村:
「ノウハウのないコンサルティング会社などが、補助金を目当てに制作している場合が多いようなのです。

自治体側も彼らにすべてお任せで、自分の頭で考えるということを諦めているかのようです。

このようなことを続けていては、せっかくの上昇傾向に水を差すことになります。それに税金の無駄遣いです」

インバウンドの恩恵を受けるには「顔を作る」こと

――たしかにその通りです。問題は内容ですね。それではどんな内容にすればいいのでしょう?

外国人観光客の立場に立って考える、というのはわかりました。そのうえで、地方はインバウンドに向けて、何をアピールすればよいのでしょう?

中村:
「大事なのは『顔を作る』ことです。それぞれの地域の顔です。

ちょっと日本の白地図を思い描いてみてください。外国の方々がこの白地図を見て、みなさんの住む地方を指し示すことができるでしょうか?

東京、大阪、京都、北海道くらいはわかるでしょう。

しかし今、インバウンドの恩恵を受けていない町、市、県になると、外国人にとっては『真っ白』なんです。つまり、存在していないことと変わらない。

それなのに、どこのパンフレットを見ても、『桜』『温泉』など、自分たちが考える外国人ウケしそうなことしか載せていません。

全国どこでも同じ『顔』しか見せていない。横並びなんです。これでは彼らに選んでもらえません」

――でも、外国人にアピールするポイントがあると自信をもって言える地方のほうが少ないのでは?

中村:
「オンリーワンのものなど、自分の地元にはないと思うかもしれない。

しかし、これもみなさんが勘違いしているところですが、日本には特定の国の人々だけがやってくるわけではありません。

世界は広く、さまざまな文化・歴史的背景をもった人たちがいます。そして受け入れたいと考える地域も数限りなくある。そのマッチングこそ重要です。

双方の求めるものと提供できるものがマッチすれば、オンリーワンになり得るのです」

顔を作り、誰を呼ぶかを考える

――ではどうすれば?

中村:
「だからこそ、『顔を作る』のが重要なんです。まず『自分たちの町の顔はこれだ』というものを決めること。いくつも魅力を並べるのはNGです。

『いろいろある』は、『何もない』と同じだからです。

そして、次はターゲットを決めること。どの国の人たちを呼び込むべきか決めるのです。

でもどうやって?それを決めるうえで必要なのは、国内外の事情をよく知り尽くしたコンサルタントの意見です。

すなわち、この地域にとって呼び込むべきはどこの国の人たちなのか?

その国の人たちにアピールできるポイントはこれで、ひとまずそのポイントを一点集中で売り出していく体制をつくる。

本物のコンサルタントは、それらを判断するデータやノウハウの蓄積があります。

実は、これはインバウンドの3つ目のジレンマといっていいのですが、地元の人が誇りに感じているものが、外国人に伝わるかどうかは疑問です。

むしろ、みなさんが全く価値を感じていないものでも、外国人の目を通すとおもしろいと感じるものがあるかもしれない。

それが判明したとき、多くの地域の人たちは虚をつかれたような、期待はずれのような顔をされるのが常ですが、自分たちがいいと思うものが受け入れられるとは限らないのがインバウンドです。

その意味では、あまりに地元愛が強い人は向かないかもしれません。外から自分たちの地域を客観的に見ることのできる人材が必要なのです。

しかも、地域にこうしたインバウンドのツボを理解できる人材がいれば成功する可能性が高まりますが、いないとうまくいかない。

その明暗がはっきり出るのもインバウンドです。横並びはありえない、とても残酷な世界といえます。

とはいえ、『顔を作る』ことの重要性は、ご自身が海外旅行に行くときのことを考えたら、理解しやすいのではないでしょうか。

海外旅行は、誰のためにやるのでもなく、自分のやりたいように楽しむものです。

まず自分が行ってみたい国を選び、そこで何をやりたいか。インターネットやガイドブックを見ながらあれこれ考える。

それと同じことを、日本を訪れる外国人もやっているのです。

つまり、そうした相手に自分の地域を選んでもらうためには、徹底的にわかりやすい顔が、まず必要なのです。

さらにいえば、海外旅行に行って何が必要か、どういうことにお金を使うべきなのか、自分が外国人観光客の立場になって経験してほしいと思います。

そうすれば、インバウンドで何をすべきか、いろいろ見えてくるはずです。

最近はアジアからの観光客も2度目3度目というリピーターが増えています。そういう人たちは有名な観光地ではなく、知る人ぞ知るような観光スポットを探しています。

いままさに、地方がインバウンドの恩恵を受ける絶好のチャンスなのです」

――インバウンドは日本の産業も、地方も、もしかしたら未来の国際情勢も変える可能性があるということですね。

現在の勢いを大切にしたいものです。今回はありがとうございました。
(おわり)

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取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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