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どこでも使えるキャッシュレス時代は来る?|消費生活ジャーナリスト 岩田昭男 第3話

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

2001年に東日本旅客鉄道が導入したICカード乗車券「Suica」には、その小さくて薄い中に、日本の最先端技術が詰め込まれています。

今回はこの「Suica」を中心に、ボーダレスなキャッシュレス世界の実現に立ちはだかる壁について、消費生活ジャーナリストの岩田昭男さんお聞きします。

岩田昭男(いわた・あきお)
消費生活ジャーナリスト。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修士課程修了後、月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。NPO 法人「ICカードとカード教育を考える会」の理事長としてカード教育にも力を注ぐ。著書に「Suica一人勝ちの秘密」(中経出版)「信用力格差社会」(東洋経済新報社)「O2Oの衝撃」(CCCメディアハウス)など。ホームページ「上級カード道場」主催。

非接触型ICカード「Suica」のすごさ

――前回の取材で、QR決済の使い勝手の悪さについて言及がありました。

使い勝手がよくないと、キャンペーンが終了してしまえば、他の決済方式、たとえば現金や、すでに普及が相当進んでいるSuicaに戻ってしまうんじゃないでしょうか?

岩田昭男氏(以下、岩田):
「それだけSuicaの技術ってすばらしいですからね。

ぼくはSuicaをずっと取材していますし、応援団なんです。

中でも2016年にApple Payにも対応したのは驚きでした。

また、JR東日本は、2020年の東京五輪・パラリンピックまでに『統合型移動サービス』(MaaS)の提供を始めると発表しました。

目的地への移動に必要な情報収集と決済を行うアプリで、他の交通機関などとも連携し、サービス提供のプラットフォームを目指すとしています。ここでもSuicaが用いられるかもしれない」

――Suicaのいいところはどこですか?

岩田:

「読み取りが0.2秒で行える点です。

新宿駅や東京駅のラッシュアワーでも、支障なく改札業務が行えることを前提に開発された。だから処理速度がとても速い。



Suicaの中身は、ソニーの開発した非接触型ICカード方式『FeliCa』です。
この技術がすばらしいものです。

日本では『Felica』が強い。日本国内の交通系ICカードは、すべてこの『Felica」か『Felica』と互換性のある方式を採用しています。

ただし残念ながら、非接触型ICカードの国際標準を取得できませんでした。

国際標準は、欧米のメーカーが開発した、乗車券などに用いる簡易型の『Type A』と、その上位的な『Type B』になった」

――Suicaで得た情報はどこが集約しているのですか?

岩田:
「SuicaはJR東日本のものですから、交通機関の利用情報も、買い物で利用した情報もJR東日本が集約しています。

そして、実は私は、Suicaというのは『国鉄』だと思っています」

――それはおもしろそうな説です。なぜですか?

岩田:
「1985年に国鉄は民営化され、地方ごとに分割されました。

それに歯ぎしりした旧国鉄マンたちが、『国鉄は分割されてしまったけれど、ひとつになれるものを何かつくろう』という意図で始められたんです」

――そういうバックグラウンドがあったんですね。

岩田:

「そして、この強い思いが数十年を経て、あることにつながった。

ある時、アップル社の幹部がJR新宿駅でSuicaが自動改札で用いられている光景を見たんです。

そして、
『これはすごい。ぜひiPhoneの中に入れよう』
と考えた。その結果、Apple Payともつながったわけです」

――QRコードは最近登場したばかりなので、技術的に上のように見られがちです。しかしSuicaのほうがすごいんですね。

岩田:
「QRコード決済というのは、クレジットカードなどしっかりしたシステムの上に載って、店とユーザーを結び付けているだけなんです。

クレジットカードなどを『一次的決済ツール』とすると、QRコード決済は、それらとIDで紐づけられた『二次的決済ツール』と考えるといいでしょう。

だから、QRコードは決済の中身や性能には関与しません。購買情報がとれる程度です。決済システムの中では脇役なんです」

――QRコードは脇役。わかりやすいたとえです。

岩田:
「しかし、決済システムであることには変わりない。ということは長続きさせていかなければなりません。



ところが、先ほど述べたPayPayのキャンペーンのようなことをしている。

決済システムは使ってもらうから意味があるのに、あれでは還元されたポイントが死蔵されてしまう。次のキャンペーンまで待とうというのが人情です。

だから、さっき『投機的』『ギャンブル的』と表現した。

さいわい、第二弾のキャンペーンは上限が10万円から1000円に引き下げられました。

きっとぼくが『いい加減にしないと、長続きしないよ』と苦言を呈したからです(笑)」

――たしかにSuicaは使い勝手がいい。しかし弱点もあります。1回の利用上限額が2万円しかない点です。クレジットカードみたいに大きな買い物ができません。

岩田:
「それは元国鉄、現JRの良心というか、堅いところです。自分たちが作っているのは『交通乗車券』だという姿勢を崩さない。

nanacoやWAON、Edyは同じ『Felica』の仲間ですが、上限額は5万円です」

結局、キャッシュレス業界を制するのは?

――では将来、キャッシュレスの主人公はSuicaになるんでしょうか?

岩田:

「たしかにSuicaを導入すると、お客さんがものすごく増えるという調査もあります。今後は首都圏だけでなく地方にも広がっていくでしょう。

ただし、Suicaも常に危ないんです。さっき述べたように、国際標準を取得できなかったからです。現在はガラパゴス化している」

――ガラパゴス化には何度も苦渋を飲まされてきました。

岩田:
「たとえば、東京五輪・パラリンピックで外国人が大勢訪日します。中国人などはAli Pay、欧米人はクレジットカードを使うことになるでしょう。

彼らのもつクレジットカードはたぶん、非接触型ICカードの『Type B』です。『Type B』は交通機関で使えるし、買い物もできる。クレジット機能をもつSuicaのようなものです。

ところが、日本国内の端末機器の多くはこれに対応していません。急いでやらなきゃいけない」

――なぜひとつにまとまらないんでしょうか?

岩田:
「日本国内の問題だけではありません。
キャッシュレス方式を巡って、シリコンバレーの中で激しい覇権争いがあるからです。

アップル社がSuicaに目をつけたのも、それが理由かもしれません」

――群雄割拠ということですね。しかしユーザーとしては早くひとつの方式にまとまってほしい。

レジ先で「このカードは使えるか、どのアプリを立ち上げればいいか」なんて迷うのはスマートではありません。どうにかならないのでしょうか?

岩田:

「もう何年も前から、非接触型ICカードの『Type A』『Type B』、それに『Felica』に互換性をもたせようという話はあります。

だけど、おそらくですが、これらが統合されるまえに、違うデバイスが登場するのでは? というのが私の推測です。

それは、スマートフォンとはちがう、たとえば生体認証なども含めた非接触型ICカードに代わる方式です」

――キャッシュレスを巡る争いはまだ始まったばかりなんですね。

ユーザーとしてはよりスマートでお得な、キャッシュレス世界が来ることを期待してやみません。

本日はありがとうございました。
(おわり)

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