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ドラッグストアに求められる3つの役割|日本チェーンドラッグストア協会 今西信幸 中編

日本で勢いを増し続けているドラッグストア業界。その勢いは年を追うごとに加速する一方です。

そんな業界の今と今後について、前回に引き続き、日本チェーンドラッグストア協会、事務総長の今西信幸さんにお話をうかがいました。

今西会長(背景グリーン)

今西信幸(いまにし・のぶゆき)
1970年 東京薬科大学薬学部薬学科卒業。1977年にみどり薬品(株)を設立し、代表取締役就任(2007年迄)。その後、1981年には医療法人 秀和会を設立し理事に就任(2004年迄)。1990年、東京医科大学で医学博士号を取得した後、2004年に、医療法人 慶寿会設立し代表理事就任。2011年学校法人 東京薬科大学理事長へ就任した後、2016年に日本ヘルスケア学会会長就任、2017年一般財団法人 日本ヘルスケア協会会長就任、そして2018年に日本チェーンドラッグストア協会事務総長に就任し、現在に至る。

拡大を続ける業界。激しい業界内の生存競争

――前回の続きになりますが、今西さんのお話ですと、従来型の薬局は減少し、ドラッグストアはさらに増えていく傾向にある、ということなのでしょうか?

今西:
「そうです。というよりもむしろ、ドラッグストア業界内での競争のほうが激しいんです。

現在、日本チェーンドラッグストア協会の正会員は133社(2019年6月3日現在)ですが、3年後には30社、5年後には20社を切るだろうと予測しています」

――激しい生存競争です。

今西:
「現在、上場会社は14社あります。

トップがウエルシア薬局で売上が約7200億円。

2019年8月に、業界第7位のココカラファイン(売上高約4000億円)が、マツモトキヨシホールディングス(業界第5位、売上高約5700億円)とスギホールディングス(業界第6位、売上高約4900億円)との協議のすえ、前者と事業統合に向けた話し合いを開始しました。

なぜマツモトキヨシホールディングスとスギホールディングスは、ココカラファインに秋波を送ったのか。それは経営統合すると売上高が1兆円を超える業界最大手になるからです。

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しかし、さらに上位の各社が手をこまねいているはずがありません。このようにドラッグストア業界の勢力図は、急速に変化しているんです」

――まず業界内で勝たなければいけないわけですね?

今西:
「ドラッグストアは安さと品ぞろえのよさ、それに多機能であることで伸びてきました。

しかし薬はどこで買っても品質が変わりません。そうすると各社がいかに経営努力を行って、お客様を惹きつけるかがカギになります。

この努力が、ドラッグストア業界全体が伸びている理由だと、私は考えています」

――つまり、ドラッグストア業界全体としては、世の中に求められている3つの機能を有していることで従来型薬局を駆逐し、さらに業界内で激しい競争が展開されており、この2つが業界を伸長させる原動力になっているということですね?

今西:
「その通りです。ドラッグストアの競合相手は薬局だと言う人がいますが、それは業界を全然わかっていない証拠です」

「街の健康ハブステーション」とは?

――機能が増えるとそれを支える人材が必要です。

今西:
「従来の薬局には薬剤師だけがいればよかった。

しかしこれからのドラッグストアには、薬剤師、登録販売者(2009年に新設された、一般用医薬品販売に関わる国家資格)、それに管理栄養士が必要になります。

薬剤師は『治療』、登録販売者は介護用品等の専門知識を学んで『介護』、管理栄養士は食事に関わる知識を使って『予防』の分野、を受け持つわけです」

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――ちゃんと役割分担ができているんですね。

今西:
「この体制になれば、ドラッグストアは『健康』に関する最初の相談相手になれます。

よって私たちは、ドラッグストアを『街の健康ハブステーション』と位置付けました」

――そうなると、今後ドラッグストアの存在価値がどんどん高まっていきそうです。

今西:
「だから伸びるんだと言っているんです。業界は10兆円産業を目指していますから(2018年は約7兆2700円)。

そう言うと、かならず『なぜ?』という声があがる。しかし私は『なぜ?』と尋ねるほうがおかしいと思っています。

現在でも、ドラッグストアの売上は食品分野が一番多い。2019年に開催されたジャパンドラッグストアショーのテーマは『食と健康』でした。ドラッグストアの展示会なのに『食と健康』です。

これが業界全体の方向性を物語っていると思います」

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――予防はわかりました。介護は?

今西:
「介護用品というのは、クルマがなければ運べない大きなものが多いんです。

すると駐車場が必要になる。ドラッグストアは広い駐車場を備えた店舗が多いでしょう。

だからドラッグストアで介護用品を扱うと伸びるんです。

先ほど『健康ハブステーション』と言いましたが、それでもわかりにくいかもしれません。

さらにわかりやすく言うと、これからのドラッグストアは『健康に関する交番』です。そういうものを目指しています」

ドラッグストアは社会の公器

――よくわかりました。話は変わりますが、2018年に日本チェーンドラッグストア協会は経済産業省と共同で、「ドラッグストアスマート化宣言」を策定しました。この宣言にはどういう意味があるのでしょうか?

今西:
「ドラッグストア業界は10兆円産業をめざしています。つまり社会の公器になろうとしている。

その時、営利目的だけでよいのだろうか、ということです。スマート化宣言とは、そのために社会に貢献し、合理的な対応をしていこうということです。

平たく言うと、薬局は元々営利事業でした。一方、医療機関は非営利事業です。

ところが2006年に行われた医療法改正で、保険調剤に関わる薬局は『医療提供施設』と位置付けられ、薬局は利益追求に加えて社会貢献という責務を負うことになったです。

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ここが他の業界と異なる点です。

これはどういうことかというと、ある日、某大手ドラッグストアチェーンA社の株主総会で『この会社は他社よりも利益率が低いけれどもどうなんだ』という質問があったわけです。

A社は24時間営業の店舗運営や薬剤師の在宅訪問も1万人規模で実施しています。これらの事業は黒字になるわけがありません。

そこでA社の社長は『薬局というのはもちろん利益を追求しますが、社会貢献の部分も大きいんです。だから、社会貢献をしていない他社と比べて利益率が低いと言われても困る』と答えたんです」

――ああ。すばらしい答えだと思います。ドラッグストアに対する認識を新たにしました。

今西:
「そう言っていただけるとうれしいですね。

一番わかってほしいのは、薬局というのは『治療』しかしていないところで、ドラッグストアは『予防』『治療』『介護』をやっているところ、という点です」

――介護事業だってそれほどもうかりません。

今西:
「そうです。しかし誰かがやらなければいけません。それに3つの機能が1か所に集まっていればこれほど便利なことはありません」

――若い世代はそれでもいいですが、介護が必要な高齢者には堪えます。とてもありがたいと思います。

今西:
「時代の流れは、ドラッグストアを求めているんです」

ドラッグストアが、単に薬や生活用品を売っているだけでなくて、「街の健康ハブステーション」であり、これからの日本人にとって大切なインフラのような存在になる、という考えは驚きでした。

次回はこれを実現すべく、どんなことを整備していけばいいのか?何に注目していけばいいかについて聞いてみたいと思います。(つづく)

ドラッグストア業界の今|日本チェーンドラッグストア協会 今西信幸 前編
ドラッグストアに求められる3つの役割|日本チェーンドラッグストア協会 今西信幸 中編
ドラッグストアの未来を語る|日本チェーンドラッグストア協会 今西信幸 後編

取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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