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日本の鉄道業界に必要なこと|鉄道コンサルタント至道薫 中編

前回は、鉄道業界におけるインバウンドの重要性についてお話をうかがいました。

今回はそこを掘り下げてお聞きしたいと思います。今回も鉄道業界に詳しい至道さんからお話を聞きます。

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至道薫(しどう・かおる)
鉄道業界に約30年間勤務し、技術系の仕事から駅業務を経て本社にて営業系や経営企画を担当。その後独立し、現在は日本で唯一の鉄道コンサルタントとして活動。仕事範囲は広く、鉄道業界への転職、就職サポートや、各種講演活動や鉄道ニュースコメンテーター、鉄道業界へ売り込みをしたい企業などへのアドバイスをしている。公式ブログ

観光地を持たない鉄道会社の「来街促進」戦略

――基本的なことを教えてください。外国人観光客は日本の鉄道に乗る際、どんな切符を使うのですか?

至道:
「『ジャパン・レール・パス』という特別企画乗車券です。JRの全路線に乗ることができます。

しかしこれだけでは、潤うのはJRグループだけになってしまう。

そこで私鉄各社は現地の旅行代理店を訪問して、あらかじめ訪日客に切符を販売してしまうんです。このように、鉄道各社はインバウンドを取り込もうと必死です。

でも、それを当にできるのは観光地を抱える鉄道会社だけ。観光地のない鉄道会社の場合は、別の戦略を立てなければなりません」

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――観光地のない鉄道会社というと?

至道:
「たとえば、首都圏では東急電鉄や京王電鉄などです」

――京王線は高尾山があります。

至道:
「小田急電鉄の箱根に比べたらレベルが違います。また高尾山は日帰りがほとんどですからインバウンドはあまり期待できません。

もうひとつ代表的なのが相鉄(相模鉄道)、関西圏なら阪急電鉄です。それらの沿線には、固有の観光地と呼べる場所がほとんどありません。

観光地をあてにしている、していないは、その鉄道会社に華々しい特急電車があるかないかで判別できます。小田急電鉄にはロマンスカーがある、東武鉄道にはスペーシア号がある。

でも東急電鉄や京王電鉄にはありませんよね?」

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――そんなふうに見極めができるんですね。

至道:
「では観光地を持っていない鉄道会社はどのような方策をとるのか。

たとえば東急電鉄は、都市の再開発によって輸送人員を増やそうとしています。渋谷や二子玉川が代表例です。これを『来街促進』といいます。

『来街促進』は『遊びに来てください』だけではありませんよ。オフィスビルを建て、そこへ企業を誘致することも『来街促進』です。

たとえば2015年、IT企業の楽天が品川から二子玉川へ本社を移転しました。あれは東急が誘致したんです。

また現在、渋谷の再開発が進んでおり、新しいビルにグーグルの日本本社が移転することが決まっています(2019年6月現在)。これも何らかのアプローチをしたはずです。

この他にも東急電鉄は、貸しスペースを提供するなど、ベンチャー企業支援に力を入れている。

その企業が成功した際は、東急沿線に本社を置いて、定期収入アップに貢献してくださいね、ということです」

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――なるほど。都市再開発にはそんな意図があったんですね。

至道:
「一見、鉄道会社はどこも同じに見えます。しかし内情はひとつひとつ違うんです」

――東急電鉄はそういう戦略に長けているんでしょうか?

至道:
「関西の阪急電鉄と同じで、山野を切り開いて線路を引き、駅のそばに東急ストアを建て、東急バスを走らせて、東急不動産で分譲地を販売してと、グループ全体で経営が成り立つようにしたのがはじまりです。

だから『来街促進』のような発想も生まれたのでしょう。

ところが、それでも、少子高齢化問題はなかなか難敵なわけです。ここで最初の問いに戻りましょう。

観光地のない鉄道会社は何に力を入れているか? ホテル経営です」

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――ホテル?

至道:
「相鉄ホールディングスは、日本のホテル業界では第4位。鉄道会社が運営するホテル会社では第1位です。そう考えると、東急も京王もホテル経営に注力していますよね。

相鉄は相鉄フレッサインとサンルートグループ、東急は東急ホテル、エクセルホテル東急、東急REIホテルの各グループ、京王は京王プラザホテルや京王プレッソインなどです。

さらに京王は民泊も運営しています。これらは自社の沿線とは関係なく、全国に展開しています。

観光地を持たない鉄道会社は、このようにインバウンドの受け皿になろうとしているわけです」

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JR各社のインバウンド戦略は?


――そこで気になるのはJRです。JRは全国に鉄道網をもちます。インバウンドの恩恵を一番受けると思うんです。それについてのJRの戦略は?

至道:
「JRも当然動いています。ただし動きは鈍いようです。

たとえば『駅ナンバリング』という制度があります。外国人にも理解できるように駅に番号を振る方法です。

東京メトロや私鉄では2000年代に導入が始まりました。しかしJR山手線に導入されたのは2016年です。

また東京メトロは外貨両替機を導入し、6か国語の案内パンフレットを用意しています。

JRにはそんなものはありません。特にJR東日本などは巨大ですから、インバウンドが大きいといっても全体の数パーセントです。だから力の入れ方も異なる」

――しかしJRもいろいろあります。

至道:
「そうですね。JR北海道は先ほど述べた『ジャパン・レール・パス』の北海道版『北海道レールパス』を設けて、インバウンドの確保に努めています。

中国や韓国からの観光客、オーストラリアなどからのスキー客など、現在の北海道の産業はインバウンド抜きには語れないでしょうね」

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環状線の内側に私鉄が走っていない理由


至道:
「東京と大阪について、ちょっとおもしろい話をしましょう」

――ぜひぜひ。

至道:
「東京も大阪も環状線があります。私鉄はみんな環状線から外へ出ていませんか?」

――言われてみればそうですね。

至道:
「大阪の場合は、阪神電鉄が最近、西九条駅から環状線内に入りましたが、環状線の中というのは、私鉄は走ってはいけなかったんです。

法律はありません。しかし戦前の鉄道省が免許を下ろさなかった。それが今でも続いているわけです」

――なぜ、そんなことになったんですか?

至道:
「環状線の内側は、ヒトも会社も集中しています。誰が商売をしてももうかるに決まっている。そんなところで私企業が利益を上げてはだめだというのが理由なんです。

環状線の内側は市営や都営で行う。そこまで人を運んでくるのが私鉄の役割だと」

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――東京メトロ(東京地下鉄)は私企業じゃないんですか?

至道:
「『東京地下鉄株式会社法』という法律のもとに作られた企業です。

なぜそうなったのかというと、誰が商売してももうかる環状線の内側のような場所からの利益は、私企業が独占すべきではなく、市民や都民に還元されるべきである、という理屈から、このような形態になったわけです。

言われてみれば理に適っていますね」

――たしかにそうあるべきだと思います。

至道:
「だから現在でも山手線の内側は東京メトロと都営線しか走っていないんです。

冒頭で述べたように、東京メトロは、1年間の輸送人員が27億人で国内第2位です。

しかし1位のJR東日本は本州の東半分をカバーして64億人なのに比べて、東京メトロはほぼ山手線の内側だけでこの数字です。

そんな会社が完全に民営化されてしまったら各方面への影響は甚大です。

たとえば現在は、地下の連絡通路はポスターが貼ってあるくらいで有効利用されていません。

しかし民営化された場合、このスペースを使わない手はないでしょう。そうなれば地下に商店街ができ、東京におけるさまざまなパワーバランスが崩れてしまう」

――大阪の地下鉄(大阪メトロ)は民営化されたのでは?

至道:
「2018年です。その後、大阪メトロは、街の再開発や不動産デベロッパー、ビルの有効活用などの分野の人ばかり採用しているようです。

国と東京都は成り行きを見守っていると思います」

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鉄道会社はマーケティング下手?


――ここまでは大都市圏のお話でした。地方の鉄道はどうでしょう? インバウンドで盛り上がることはできるでしょうか?

至道:
「鉄道会社だけではどうしようもありません。自治体との連携如何でしょう。

たとえば、石見銀山という世界遺産があります。その場合、自治体が石見銀山ばかりを売り込むのではなくて、街や地方全体をパッケージとして売り込む必要があります。

そのパッケージの中に鉄道を組み込む形にしたいですね。現状では、『インバウンド=鉄道』という形になりづらいんです」

――その話につながると思うのですが、鉄道業界はあまりマーケティングがうまくないという話を聞きます。

至道:
「鉄道業界全体の体質として、『客を乗せてやる』という意識がいまだにあるんです。

さらに言うと『駅のホームにいるやつは乗せてやる、ホームにいないやつは乗せない』。

口では『お客様』と言っていますが、朝のラッシュ時は客を『さばく』と表現しますから。

それに鉄道会社には運賃という日銭が入ります。だから金融機関も甘いので経営者が危機感を持ちづらい」

――マーケティングをしなくてもお金が回る、というわけですね?

至道:
「そういうことです。また、競合がほとんどない。

たとえば新宿には小田急電鉄と京王電鉄が乗り入れていてよく比較されます。かといって、競合ではありません。利用客の地域がちがうからです」

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――先生はその点、どうお考えなんでしょうか? 仕方がない? それとももっと前向きに取り組むべき?

至道:
「前向きに取り組んだほうがいいと思います。

これからは定期旅客の食い合いになるからです。最近ようやく、東武鉄道のTJライナーや、西武鉄道などが始めたS-TRAINといった座席指定制の有料列車に力を入れ始めましたね。

時々、普通車がガラガラなのにもかかわらず、グリーン車に坐っている乗客がいるでしょう。

あれは、『金は惜しまないから、私を快適に運んでくれ』という人なんです。こういう人はかならず一定数います。そのニーズに応えたのが上のような有料列車です」

鉄道というのは庶民の足でありインフラの域を脱していませんでしたが、少子化によりそうもいかない状況になっている昨今。

そこで必要になってくるのは「サービス精神」と「マーケティング」。まだまだ鉄道業界は改革が必要のようです。

次回は鉄道業界の未来についてお聞きしたいと思います。(つづく)

日本の鉄道業界のリアル|鉄道コンサルタント至道薫 前編
日本の鉄道業界に必要なこと|鉄道コンサルタント至道薫 中編
どうなる?日本の鉄道ビジネス|鉄道コンサルタント至道薫 後編

取材・文/鈴木俊之、取材・編集・撮影/設楽幸生(FOUND編集部)

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