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スイーツ業界の甘い話と甘くない話 |スイーツジャーナリスト 平岩理緒 第1話

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

「スイーツ」は日本人の生活スタイルになくてはならない存在です。

茶道では和菓子、みやげはおまんじゅう、子供時代の思い出は駄菓子屋の店先等々。

そういえば、誕生日とクリスマスにはケーキ、初恋の思い出にはチョコが欠かせませんね。

とはいえ、なじみ深すぎて知らないことも多いように思います。

スイーツの流行はどのように生まれるのか?
なぜ外国人観光客は日本の菓子を爆買いするのか?
これからどんなスイーツが流行るのか?
スイーツ業界はどこを目指しているのか……。

そこでスイーツジャーナリストの平岩理緒さんに日本のスイーツの不思議、そして今と未来についてうかがいました。

平岩理緒(ひらいわ・りお)
マーケティング会社を経て製菓学校で学び、スイーツジャーナリストとして独立。国内外の銘菓に精通し情報を発信。商品開発アドバイザー、イベント監修や司会、コンテスト審査員、講演など幅広く活動。情報サイト「幸せのケーキ共和国」主宰。「All About」スイーツガイド、「おとりよせネット」達人も務める。著書『まんぷく東京 レアもの絶品スイーツ』(KADOKAWA)など。『厳選スイーツ手帖』『厳選ショコラ手帖』(世界文化社)監修。

世界最高水準にある日本のスイーツ

――スイーツ業界は大きく分けて、町のケーキ屋さんのような専門店(リテール)と、大量生産・販売のCVS等(ホールセール)に分けられると思います。

世界的に見て、これらのレベルはどのあたりなのでしょう?

平岩理緒氏(以下、平岩):
両方ともたいへん高いと思います。トップクラスです。

――どのような点から、そう感じられますか?

平岩:
「まず多くの世界的なブランドが、日本で店を開いていることからもわかると思います。

日本人パティシエにもスターが誕生し、彼らを目指す若い人も、養成する製菓学校の数も、飽和状態ではないかと言われるくらいに増えました。

消費者もマスコミも、常に新しいスイーツを求めている。そういう状態が、レベルの向上に寄与しているのだと思います」

――専門店だけでなく、コンビニ(CVS)のスイーツも、スーパーで売られているお菓子もレベルが高いように感じます。

平岩:
「日本では、1990年頃のティラミス以来、平成の約30年間もスイーツブームが続いてきました。

CVSのスイーツも有名パティシエに監修を依頼するなど、特に2000年代に入ってからレベルアップしました。

製菓メーカーは、最先端のパティシエたちが作り出した話題の味を学び、研究を重ね、製品に落とし込む努力を続けています。

そうしないと市場でのシェアを確保できないからです。

私の感覚では、専門店での流行は2年後に一般向けのお菓子として店頭に並びます。

このような切磋琢磨が、日本のスイーツ全体のレベルを押し上げています」

――昔、服飾業界では、業界団体が「流行色」を決めて、大きなムーブメントを意図的に発生させていました。

スイーツ業界にも、仕掛けている団体があるのですか?

平岩:
「それはないと思います」

世界で人気の抹茶味

――尋ねた理由は、ここ数年、「抹茶味」がとても流行っているように感じたからなんです。

どんなものにも「抹茶味」がある。きっと仕掛け人がいるにちがいないと……。

平岩:
「抹茶味の流行は、インバウンドが源流だと思います。

数年前に中国人観光客の『爆買い』が話題でしたが、あの時期、外国人に抹茶味が人気だとわかったんです。

そこで製菓メーカーが、こぞって抹茶味スイーツを開発したようです」

平岩:
「ヨーロッパの方々にも人気です。世界的に日本食ブームが起きているというのも理由のひとつです。

フランスなどでは、有名シェフやパティシエがこぞって『抹茶』や『ゆず』を素材に用いています」

日本の「旨み」がスイーツを変える!?


――それは門外漢からすると意外です。他に日本の食材で注目されているものは?

平岩:
「最近は日本の『だし』や発酵食の文化が高く評価されています。昆布やかつおぶし、みそ、しょうゆなどです。

これらが持つ日本の『うま味』を、スイーツにも取り入れようという動きもあります。

毎年10月末~11月初め頃にフランス・パリで開催される『サロン・デュ・ショコラ』というチョコレートの世界最大のイベントがあります。

そこでも『昆布の味をチョコにとじこめた』作品などが出品されていました。

日本には植物性の食材が多く、日本製の『うま味』は、ベジタリアンの方々も支持されています。

もちろん、一般の人びとからも評価が高いです。今後の展開が楽しみです。

スイーツ業界の、ちょっとにがい現実

――お話を聞いていると、日本のスイーツ業界には、甘美な未来が待っているように感じます。

平岩:
「ところが、そうとばかりは言えません。たとえば日本の消費者は飽きやすいんです。

だから、海外の有名ブランドが進出しても、数年で撤退してしまうことなどざらなんです。

それに好みが細分化しています。昔のように、ティラミスを作っておけばまちがいない、という時代ではありません。

専門店のパティシエたちは、常に新しい味や感動を求められる。みなさん、たいへんなご苦労をされています。

製菓メーカーも同じです。

新しい提案ができなければ、商品が陳腐化する。そうすると安売り競争に巻き込まれ、利益率が下がってしまうからです。

売れ線は確保しつつ、常にチャレンジしなければならないという、むずかしいバランスとりが求められています」

――小学生女子あこがれの職業としてかならず取り上げられ、夢のある仕事と見られているパティシエも大変なのですね。

平岩:
「それでも大都市圏の専門店はまだよいほうです。問題は地方です。

地方は車社会ですから、消費者は町中の狭いケーキ店ではなく、広い駐車場をもち、ロードサイドに出店している、CVSや全国チェーンの店へ流れてしまう。

また最近、大都市圏では、ケーキの単価は500円を超えることが普通になってきました。

消費者にも、値段に見合う材料を使い、技術を用いているから、それだけの価値があるとみられています。

ところが地方の消費者は、この値段では受け入れてくれません。

つまり、地方の専門店は、コストに見合った価格設定ができない。

さらに専門店を悩ませているのが人手不足です。

とくに若手が少ないので、伝統のある和菓子店などでさえも、後継者が確保できず店をたたんでしまう事例があちこちで起きています」

――人手不足は今、すべての産業で深刻な問題です。

平岩:
「解決策としては、結婚・出産などでキャリアを中断している女性たちに、ワークシェアリングのような形で製造工程に入ってもらう方法が考えられます。

経験者であれば、短時間でも助かるというのが経営者側の声です。

政府の『働き方改革』でも言われているように、さまざまなライフスタイルをもつ方々とお店をうまくマッチングできるかどうか。ここに打開の可能性があると思います」

日本のスイーツは、様々な面で世界的に評価されていることがよくわかりました。

でも、「甘い話」だけでなくて、「苦い現実」もあることもわかりました。

そんな日本のスイーツ業界に横たわる問題、どういう風に解決していけばいいでしょうか?

次回に続きます。

スイーツ業界の甘い話と甘くない話 |スイーツジャーナリスト 平岩理緒 第1話
スイーツ業界が生き残るためには? |スイーツジャーナリスト 平岩理緒 第2話

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