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「日本型キャッシュレス」を考えてみる|日本キャッシュレス化協会代表理事・川野祐司教授 第1話

取材・文/河鐘基(ロボティア)、取材・編集/FOUND編集部、写真/荻原美津雄

今、世の中をにぎわせているトピックの1つに「キャッシュレス」と言うテーマがあります。しかしどのくらいの人が、キャッシュレス決済を日常的に活用できているかについては、まだまだ不明瞭な点が多くあるように感じます。

日本において、今後キャッシュレスは本当に浸透するのか? するとしたら、どんな課題をほぐしてあげれば良いのか? 

日本キャッシュレス化協会代表理事で東洋大学教授の川野祐司先生に日本におけるキャッシュレスの現状と今後について話を聞くことにします。

その前段として、第1回では、「キャッシュレス決済の基本」を川野祐司先生の著書や過去の発言からまとめてみたいと思います。

話を聞いた人

川野祐司(かわの ゆうじ)教授 / 大分県出身。九州大学大学院経済学府修了。東洋大学経済学部教授で日本キャッシュレス化協会代表理事を務める。著書に『ヨーロッパ経済とユーロ』(文眞堂)、『キャッシュレス経済 21世紀の貨幣論』(文眞堂)などがある。

キャッシュレスの多様化

ご存知の通りキャッシュレスとは簡単に言えば、紙幣や硬貨など現金を一切使わない決済のことを指します。

クレジットカードはいうまでもなく、デビットカードや電子マネー、スマホアプリでの2次元バーコード決済(QRコード決済ほか)など、今、日本でも様々なキャッシュレスの決済方法が登場し、多様化してきています。

日本人(特に関東の人)に馴染みのあるのは、やはり非接触型決済のSuicaでしょう。しかし、世界におけるキャッシュレス化は、日本人の想像を超えて進展しているようです。

世界のキャッシュレス事情

日本のことを語る前に、後編でインタビューにお答えいただく川野祐司さんの著書『キャッシュレス経済 21世紀の貨幣論』から、世界各国でのキャッシュレス事情を眺めて見ましょう。

まず最初に世界でも先端を走るといわれるヨーロッパ、特に北欧を見てみることにしましょう。前提として、ヨーロッパではデビットカード機能をスマートフォンに載せた決済方式のモバイルアプリが普及しており、北欧では人口の半数以上が利用するキラーアプリさえ登場しています。

川野先生の著書によれば、銀行がユーザーの囲い込みを進めている関係で、高齢者にもユーザーが広がっているようです。たとえばスウェーデンのモバイルアプリのSwish(スウィッシュ)のユーザー数は人口比で66%、デンマークのDankort(ダンコート)は94%。

この数字を見ただけでも、キャッシュレス決済がかなり普及していることがわかります。近い将来、スウェーデンでは現金保有率がゼロになるのでは、とまで言われているほどです。この背景には、欧州連合(EU)が2018年に施行した「第2次決済サービス指令」の影響もあって、様々な運営会社が決済サービス事業に参入しはじめているそうです。

現金離れ、キャッシュレス化が進んでいるのが顕著な国は他にもあります。例えば、アフリカのケニアを中心に展開されるモバイル決済のM-pesa(エムペサ)は、ケニア、ウガンダ、ガーナなどのアフリカ各国で利用されていて、ケニア国内で同アプリを利用したことがある人の割合は、全人口の72%にものぼっています。

アジアでも、電子マネーは急速に普及しています。中でも中国のアリペイは5億2000万人のアクティブユーザーを、WeChatペイは10億人の月間ユーザーを誇り、日常的に中国人の買い物に利用されています。

また韓国では違った形でのキャッシュレス化が進んでいます。それは、2000年のクレジットカード普及策によってもたらされたキャッシュレス化です。なんと、小さな小売店でもクレジットカード支払いを拒否することができないのです(※「年商 240 万円以上」の店舗が規制対象。参照:平成30年3月 経済産業省 キャッシュレス・ビジョン)。つまり、事実上、多くの店舗がキャッシュレス対応になっています。

このように世界で進められるキャッシュレス化が進められる背景には、現金を利用した社会で起こる犯罪を抑える目的や税金を集めるためのデータ収集などの目的が挙げられるそうです。

こうした世界の状況を眺めただけでも、日本のキャッシュレス化に出遅れてしまっている感はどうしても否めません。

日本におけるキャッシュレスの波

現在、キャッシュレス決済の波が、世界各国で確実に広がってきていることはわかりました。

確かに、日本でもPayPayやLINEpayなど新たな決済サービスが続々と登場し、新しい時代の到来を感じさせます。しかし、日本でのキャッシュレス決済の普及率はクレジットカードを含めてもごくわずか。

4年前のデータにはなりますが、川野先生の独自資料によれば、2015年時点で中国は55%、アメリカ41%に対し、日本では18%という結果です。

また、現金の流通残高をGDP(国内総生産)との比率でみると、スウェーデンは1.4%、お隣の韓国でも5.9%に対して日本は20%と、他国と比べると非常に高いことが浮き上がってきます。

巷で話題にもなった決済アプリPayPayの高額キャッシュバックキャンペーンなどをもってしても、日本でキャッシュレス決済が習慣レベルに日常化するためにはまだまだ時間がかかりそうな印象を受けた人も少なくなかったはずです。おそらく多くの日本人にとって、まだまだ日用使いの通貨は、「現金」という印象なのではないでしょうか。

川野先生は、こうした状況のもと、日本のキャッシュレス化が遅れているのではなく、海外に追い抜かれてしまったのだと考えているようです。元々、日本には、ネット銀行やSuicaのような非接触型の電子マネーカードは存在しました。また、携帯電話を活用した決済技術でも、世界をリードしていた。

ところが、普及しなかった。それは普及策が不足していたからだ。そう先生は分析しています。また巷でよく言われる、日本にはスリや強盗などが少なく治安が良いため、現金社会から脱却できないと言う俗説も間違いでないと考えているようです。

※ 出典:『キャッシュレス経済 21世紀の貨幣論』(川野祐司著)
※ 本エントリーの情報は、全て編集会社ロボティアが被取材対象から収集した情報、取材した情報をもとに『FOUND』編集部が制作しています。

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