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テレビゲームの「本質」ってなんだ? |ゲームジャーナリスト 野安ゆきお 第3話

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

「子供がハマるものはハネる」というのがテレビゲームの鉄則。前回そんなお話を伺いました。

今回は、日本だけでなく世界的な視点で、テレビゲーム業界がこれからどうなっていくかを、ゲームジャーナリストの野安ゆきお氏にお話を伺います。

野安ゆきお(のやす・ゆきお)
1968年東京生まれ。ゲームジャーナリスト。
ファミコン時代からゲーム雑誌、ゲーム攻略本などの執筆・編集を手掛け、これまで作成したゲーム関連書籍は100冊を超える。現在はビジネス面からゲーム産業を見つめる執筆活動を中心に活動中。

日本のゲーム産業の未来は?


――今後、日本のゲーム産業はどうなっていくのでしょう?

野安ゆきお(以下、野安):
「かつて、日本のゲームに対する評価はとても高かった。

とくに80年代から90年代の半ばは、マリオやソニックが世界を席捲し、『すぐれたゲーム=日本製』でした。

しかし、全世界の市場規模は巨大です。大ヒットゲームはハリウッド映画より利益が出る。

このため英語圏のゲーム企業は、全世界から優秀なスタッフを集めて大作ゲームを作るようになりました。

しかし、日本語でゲームを作る環境では、そうはいきません。

そうしたこともあり、90年代半ば以降は、『こんなに資金がかかるようなゲームは、なかなか日本のゲームメーカーには作れない』という大作が、海外で多数生まれるようになったんです」

――でも、お金をかければよいゲームが生まれるとはかぎらないのでは?

野安:
「もちろんです。しかし彼らがよいゲームを生み出しているのは、豊富な予算と多くのスタッフをとりまとめるマネジメント能力にすぐれているからだ、とも言えます。

これは日本にはない製作環境です」

――やっぱり敵わないということですか?

野安:
「そういうわけではありません。

日本のゲーム業界は、もともと玩具メーカー・遊具メーカーを母体としているところが多いので、任天堂をはじめとして、子供を楽しませるノウハウに長けています。

そのため、開発中には『これじゃあ子供にわからないぞ』というブレーキがかかることもあります。

一方、米国等ではPCからゲーム文化が発展したという歴史を持つため、大人向けのコンテンツが得意です。

だから日本とは逆に、『こんなものは子供の遊びじゃないか!』という方向にブレーキがかかる。

こうして、両者はどんどん別方向に進化していく傾向にあったんです。

ポケモンですら、海外のメディアでは長い間、無視に近い状態にありました。それくらい文化がちがいます。

でも、欧米とは進化の方向が違っていたことこそが、むしろ日本のゲーム業界の強みであり、唯一無二のオリジナリティーでもあるんです。

欧米には作れないものを生み出せるということ。最近、また再評価されつつあると思います」

これからどんなゲームが流行るか?

――では、今後のゲーム業界を見通すとどうなりますか?

野安:
「たとえば最近、マスメディアなどでもてはやされているのはVR(バーチャル・リアリティー)を応用したゲームです。

アトラクションやアーケードゲームとして楽しむ分には、とてもおもしろい。しかし、いまのままでは家庭に入っていくのはむずかしいと思います。

なぜなら、VRは子供の目の成長によくないとの研究結果が発表されているからです。

各社のVR商品にも「12~13歳の子供は使用禁止」という旨の注意書きがあります。子供が使えないのだから『子供がハマるものはハネる法則』にはあてはまりません。

なので、わたしが注目したいのは、2019年4月に任天堂が発売する「Nintendo Labo」のVRキットです。

段ボールで作るVRシステムで、こちらは7歳から遊ぶことができるよう設計されている。今後のVRの普及に大きく貢献するかもしれません」

――他はどうでしょう? ゲームの未来はどんな形に?

野安:
「ゲームの未来は、私にもわかりません(笑)。しかしそれでは話が終わってしまうので、別の側面から考えてみましょう。

唐突ですが、テレビゲームはどう定義できるでしょうか」

――いきなりだと答えに詰まります。

野安:
「同じ娯楽でも、映画やテレビとテレビゲームとは、どこがちがうのかと考えると、答えに近づけるかもしれません。

たとえば、映画やテレビは一方向的です。

テレビゲームは、ユーザー側がボタンを押すと、それに対してゲームが反応するという双方向のやりとりができる。

その面白さに、テレビゲームの本質のひとつがあると思います」

――たしかに、どんなゲームも「刺激‐反応」の連続でできています。そして反応がおもしろければ、それを繰り返します。

野安:
「ここから考えを広げていきましょう。

たとえば、数年前からスマートスピーカーがお茶の間に入り込んできました。

日本ではまだまだですが、米国では、もともと根付いているラジオと置き換わるように、スマートスピーカーの普及が進んでいます。

このスマートスピーカーを、テレビゲームのプラットフォームとして活用する手がある。

『話しかける』は刺激、『答える』は反応ですから、テレビゲームと同じ双方向のメディアです。

実際、子供たちは嬉々としてスマートスピーカーに話しかけています。その先には、面白い未来があると思うんですよね」

――なるほど。「子供がハマるものはハネる法則」まであと一歩まで来ているかも、ですね。

野安:
「この先、5Gの導入でゲームの通信環境が大きく変わります。

巨大なデータをやりとりできるので、ゲームをする側のハードはどんどん小さくなるでしょう。

ゲームのハードが小さく、身近なものになれば、子供ユーザーの市場における重要性が、相対的に高くなることが考えられる。

その時、日本のゲーム業界が培ってきた強みが生きてくるのではないでしょうか」

日本の一つの大きなカルチャーであるテレビゲームは、様々なテクノロジーを取り入れて、次々と新しいワクワクを生み出していることを、今回の取材を通して知りました。
時間を忘るほど夢中にさせてくれるテレビゲームは、これからも私たちの心を捉えて離さないエンターテインメントとして存在し続けそうです。

(おわり)

ゲームジャーナリスト 野安ゆきお

第1話 日本のテレビゲーム、今とこれから
第2話 日本のテレビゲーム、今とこれから  
第3話 日本のテレビゲーム、今とこれから 

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