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第四の物流革命とは?|ローランド・ベルガー 小野塚征志 前編

「サードパーティ・ロジスティクス」という言葉、皆さんご存知ですか?

おそらく普段生活をしていて、あまり耳にすることはない言葉だと思います。

でも、「私には関係ない」と思った方は、もしかすると大間違いかもしれません。

なぜなら、もし最近、インターネットでお買い物をした方なら、大いに関係があるお話だからです。

「サードパーティ・ロジスティクス」とは、荷主に対して物流の改革を提案して、効率よく物を運び管理することを請け負う業務のことです。

インターネットでの買い物が、これだけ伸びている日本において、「物流」の問題は切っても切り離せません。

ましてや人手不足の問題とも絡み、今後の日本において、「快適で便利なインターネットでのお買い物」を続けるためには、「物流革命」が必要になってきそうです。

今回、そんな物流に関して、スペシャリストにお話を聞いてきました。未来の物流、お買い物は、どうなるのでしょうか?

小野塚征志(おのづか・まさし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て、2007年にローランド・ベルガーに参画。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、長期ビジョン、経営計画、成長戦略、新規事業開発、M&A戦略、事業再構築、構造改革等をはじめとする多様なコンサルティングサービスを展開。著書に「ロジスティクス4.0」(日本経済新聞出版社)

「ロジスティクス」とは?

――小野塚さんは『ロジスティクス4.0』を提唱されています。この『ロジスティクス』と『4.0』は、どういう意味ですか?

小野塚征志氏(以下、小野塚):
「ロジスティクスというのは『物流』です。物流とは、簡単には『A地点からB地点までモノを運ぶ』ことです。

しかし、ただ運べばいいわけではありません。かならずどこかで保管しなければならないんですね。

通常の場合、保管は『倉庫』で行われますが、この保管も物流の仕事です。また、モノの仕分け、箱詰め、伝票・書類作成、ラベルを貼るなど『流通加工』と呼ばれる仕事があります。これも物流に含まれています。

さらに、モノがどこに流れているのか、ちゃんと届いたかといった情報を伝えなければなりません。これも物流の仕事です」

――一般的なイメージより仕事の幅が広いんですね。では『4.0』とは?

小野塚:
「物流の世界では、歴史上3度の大きな変革がありました。

まず『ロジスティクス1.0』は、『物流の産業革命』とでも呼ぶべき、19世紀に起きた『輸送の機械化』です。

馬やラクダを利用していた陸上輸送では鉄道、同じく帆船を使っていた海上輸送では蒸気船が登場し、大量のモノを定期運送できるようになったのです。

さらに20世紀に入ると、エンジン(内燃機関)が登場してトラック輸送が本格化。『ロジスティクス1.0』に拍車がかかりました。

――では『ロジスティクス2.0』は?

小野塚:
「1950年代に起きた『積み替えの自動化』(荷役の自動化)です。これには2つの機械が大きく関わっています。

ひとつは、第二次世界大戦中に軍事目的で使われるようになったフォークリフト、もうひとつは鋼鉄製のコンテナです。

この2つが登場する以前、荷役作業は、木箱や麻袋に入った荷物を人間が持ち運びしていました。

ところが船が大型化すると積み下ろしだけでたいへんな労力と時間が必要になりました。

最もひどい時期、日米航路の大型船は、航行より積み下ろしのほうに時間がかかったということです。

また、効率よく積み込むことができるかどうかは、現場の人間の勘と経験が頼りでした。それがフォークリフトを使ってコンテナをおもちゃのブロックのように運んでいけばよくなったのですから、効率の差は歴然としていました。

1960年代後半には、立体駐車場のようなしくみの『自動倉庫』が登場します。

ただし、規格が統一されていないモノを扱ったり、シーズンによって扱い量の増減が大きいものには不適という欠点があり、工場の出荷センターなど一部での利用にとどまりました」

――では『ロジスティクス3.0』は?

小野塚:
「『管理・処理のシステム化』です。物流はモノに付随した『情報』も一緒に運ばなければなりませんが、それが1980年代からシステム化されました。

このイノベーションに関わったのが、以下の2つのシステムです。

WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)TMS(Transportation Management System:輸配送管理システム)

WMSは、倉庫会社が荷主に対して保管料や入出荷料を請求するための台帳をシステム化したもの。

そしてTMSは、トラックの配車台数や荷物量、距離などを管理して、運送会社が荷主に輸配送料を請求するための台帳をシステム化したものです」

4.0が目指すもの〜1つめは「省人化」

――そして現在、物流は4度目の変革を遂げつつあるわけですね。何がどう変わっていくのでしょうか?

小野塚:
「簡単に言うと、1.0は『運ぶ』、2.0は『積み替える』、3.0は『情報を扱う』ことの変革でした。

4.0は、これらすべての面において、もっと大胆に機械化や自動化を進めようという動きです。それによって実現することは2つあります。1つは、『省人化』です」

――「人を省く」?

小野塚:
「たとえば、国土交通省は2022年に『隊列走行を商業化』しようという目標を掲げています。これは、まるで電車のように、複数のトラックを数珠繋ぎにし、1人のドライバーで扱えるようにする技術です」

――2022年ですか。もう目の前です。

小野塚:
「政府の努力目標ですから、2022年は間に合わないでしょう。しかし2020年代には実用化するはずです」

――これが実現すると、どんなことが起こるのでしょうか?

小野塚:
「現在は、トラック1台当たりドライバー1人が必要でした。もしかすると、それが10分の1になるかもしれません」

――なるほど。それが「省人化」なんですね。

小野塚:
「同じような省人化が倉庫内でも起きつつあります。

たとえば、アマゾン社の倉庫には、膨大な数の商品棚が並び、注文が入ると、『ピッカー』と呼ばれる担当者が、その商品を棚へ取りに行って、梱包係に渡すという流れです。

ピッカーの中には1日に20、30キロも棚と梱包係を往復する人がいたそうです。欧米でこれがブラック労働だと問題視されました。

そこでアマゾン社は、ピッカーの代替機能を果たすロボットを開発していたベンチャー企業を買収し、倉庫に導入しました」

――ロボットなら簡単にできそうです。

小野塚:
「ところがロボットは、商品を棚からピックアップする作業が苦手なんです。形状や材質がひとつひとつ異なるからです。また、衣料品のように柔らかいものをつかむのも苦手です。人間のほうがはるかに効率的です」

――つかむことに関しては、まだ人間の能力のほうが上なわけですね。では倉庫のロボット化は進んでいないのですか?

小野塚:
「いいえ。そこで出されたのが、棚自体を移動させてしまおうというアイデアです。ピッカーが指定された棚へ行くのでなく、棚がピッカーの元へ来てくれるのです」

――逆転の発想ですね。

小野塚:
「このように、省人化は少しずつ進んでいます。

自動運転や完全な自動倉庫の実現には時間がかかりますが、それでも、現在あるテクノロジーを利用するだけでも、人員を減らすことができる。

結果として、物流コストが下がる可能性があります」

――人手不足も解消できますしね。しかし、人手不足がより深刻なのは「ラストワンマイル」(物流の最後の拠点から消費者の元へ運ぶまで)だと聞いたことがあります。

たとえば、よく話題にのぼるドローンの利用は、省人化につながるのでしょうか?

小野塚:
「ドローンを『ラストワンマイル』に用いるには、時間がかかりそうです。なぜなら墜落する危険性があるからです。

しかし離島や山間部の輸送では威力を発揮するでしょう。墜落しても海か山の中ですから。実際、海外では定期運送が始まっています。

工場や倉庫など限られた空間での利用のほうが先でしょう。世界最大のスーパーマーケットチェーンである米国ウォルマート社の巨大倉庫では、棚卸作業にドローンが利用されています」

――棚卸に?どんなふうにですか?

小野塚:
「商品はすべて段ボール箱で梱包され、棚に収納されています。

ドローンは倉庫内を飛び、天井まである棚のすべての箱を撮影。その映像データを解析して在庫の有無を確認する仕組みです。

1か月かかっていた棚卸作業が、2時間に短縮されたといいます」

――やっぱり「ラストワンマイル」問題を解消する手立てはないんですか?

小野塚:
「お年寄りが使うカートのような箱型ロボットを歩道に走らせて、受取人の家まで届けるという実験が始まっています。

ただ、階段の上り下りができず、チャイムも鳴らせません。また受取人の不在時にも困ります。

しかし欧米ではスターシップテクノロジーズ社が、ドミノピザなどと提携し、100都市でサービスを開始しています。ピザなどのフードデリバリーなら受取人が不在ということがないからです。

日本は道路規制がきびしいので、ZMP社が六本木ヒルズ内での運用を始めました。コストが高い、スピードが遅いといった欠点はありますが、技術的には日本でも可能です」

「モノを運ぶ」という、一見とてもシンプルなことの背景には、運ぶテクノロジーはもちろん、管理や情報処理が大切だということを知りました。

次回は、ロジスティクス4.0が描く未来について、さらにお聞きします。
(つづく)

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取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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