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宇宙ビジネスのこれから|宇宙法専門家 北村尚弘 後編

宇宙ビジネスは、まさに「これからの業界」という印象を受けていますが、今のトレンド、これからの展望は果たしてどうなのでしょうか?

宇宙法から宇宙ビジネスに迫る企画、今回が最終回です。

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北村尚弘(きたむら なおひろ)
2013年より弁護士として活動。JAXAでのインターンをきっかけに、宇宙ビジネスに関わる。宇宙ビジネスに関する複数の団体に所属するほか、弁護士有志にて『日本スペースロー研究会』を立ち上げ、宇宙ビジネスをサポートしている。所属団体として、東京弁護士会、弁護士活動領域拡大推進本部 宇宙部会、まんてんプロジェクト、(一社)宇宙エレベーター協会、(一社)日本航空宇宙学会、(一社)ニュースペース国際戦略研究所、日本スペースロー研究会がある。

一番ホットな話題は、なんと水!

――宇宙ビジネスには、まだまだ未知の世界が多く、すべてが手探り状態なんですね。では今、もっともホットな話題とはなんですか?

北村:
「資源開発です。資源というのは宇宙資源です。

最初は、小惑星にあるレアメタルを採掘するともうかるのではないかという話から始まりました。ところが採算が合わないということで、現在は、『水』です」

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――水、ですか?

北村:
「もっと具体的には『氷』ですね。月に氷があることはすでに判明していますし、小惑星にも存在の可能性があります。

水は分解すると水素と酸素になります。この水素を燃料として販売しようという発想です。

なぜ燃料がそれほど注目されているかというと、現在のロケットは打上げの際、総量の90%は燃料なんです。

燃料で燃料を打ち上げている状態なんですね。それを現地調達したい。それで惑星に存在する水を電気分解して、水素スタンドを作れば、そこから火星や他の場所にもいけますよね」

――そういう場合の法的な問題はどこにあるんですか。

北村:
「それは先ほどの領有問題にかかってくるんですけど、月や火星といった宇宙空間の領有は禁止されているんですが、資源については条約で決まってないんです。

南極の例で言えば、南極大陸の領有は宣言できませんが、南極の氷はどうだろう、という議論です」

――中国は宇宙進出に積極的です。資源が目的なのでしょうか?

北村:
「中国のロケットは軍事目的です。中国に限らず米国もロシアも、基本的に宇宙開発は軍事目的がほとんどです。

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でも中国の宇宙進出が活発化すると米国にとっては脅威でしょう。GPSなどの衛星を破壊する衛星を打ち上げれば、地上での優位性が全く違いますから。

だから、宇宙開発に力を入れている国は、基本的には安全保障、軍事のためです。民間企業の宇宙開発を後押ししているのは、自国の企業の技術が軍事にも応用できるかもしれないからです。

純粋に『民間企業もがんばれ』と言っているのは、日本だけかもしれません」

――しかし民間企業だけでは予算で太刀打ちできません。

北村:
「例えば、先ほど述べたインターステラテクノロジズ社は、現段階はロケットだけを100キロメートル上空まで打ち上げるだけです。

次の段階は、人工衛星などを搭載することになるのだけど、そうなると開発予算が2ケタ違ってくるようです。

そうなってしまうと、クラウドファンディングや堀江貴文さんの資金だけではむずかしいので、大々的な資金調達が必要になると思います」

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――氷の所有権の問題に戻らせてください。

北村:
「はい。そのグレーな部分を埋めるために、条約はまだまだですが、すでにハーグでワーキンググループが立ち上がっています。

資源開発という観点で言うと、現在盛んに議論されているのは『占有問題』です。

資源を採掘するためにボーリング機材などを設置しますね。すると事実上、その場所を占有することになります。

それを避けるために、工区や期間などの制限を設けるべきだという議論ですね」

有人飛行に関する法整備はこれから

――資源開発が盛んになると、当然、人間も現場に行くことになると思います。そうするとトラブルが起きる可能性が上がりますね。刑法などはどうなるのですか?

北村:
「まだ現実に起きていない問題なので、何も決められていません。

たとえば、国際宇宙ステーションでは、日本のモジュール内では日本の法律が適用されますが、純粋な宇宙空間で問題が起きたらどうなるのか、というのはおもしろい観点ですね」

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――船外活動中にケンカが始まったとか。笑。

北村:
「どこの国の法律を適用するのかを決めるための国際的な考え方がいくつかあります。その中で『その人の国籍がどこか』によってさまざまなことを決定していく属人主義という考えがあります。

EVA(船外活動)中の行為は、この属人主義によって加害者の国籍地で決めるという可能性もあるのではないでしょうか」

――すべてはこれからなんですね。

北村:
「もう一つホットな話題といえば、『宇宙旅行』です。

米国では、上空100キロまで上昇して無重力状態を楽しみ、地上に戻ってくるという『サブオービタル飛行』が、3年以内に民間の事業として稼働すると言われています」

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――ZOZOの元社長・前沢さんが予定しているのは?

北村:
「あれは月を周回する計画なので、もっと遠いです。

2019年5月にインターステラテクノロジズ社のロケットが高度113キロに到達しましたが、そのロケットに乗ったような感覚です。

宇宙旅行は日本でも2社が手掛けています。PDエアロスペース社とスペースウォーカー社です。

これらのプロジェクトが実現に近づけば、日本でも有人飛行に関する法整備が必要になると思います」

――どういう点が問題になりそうですか?

北村:
「人が乗るわけですから、政府が許可を出したのに事故が起こっては困ります。その安全審査をどうするかでしょう。

技術が進歩したとはいえ、100%の安全性は保証できないわけですから。米国では、インフォームド・コンセントを行い、書面にサインをもらっているようです。それでもまだちょっと穴があると言われています」

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――一筆書く、ということは、やはり危険度が飛行機などとは格段にちがうからですか?

北村:
「流れとしてはそうですね。

自動車には車検、飛行機には耐空証明があります。特に飛行機は、耐空証明によってお墨付きをもらっているので、乗客は一筆書かなくてもいいわけです。

耐空証明のようなものをロケットでも発行しようとする場合、手続が煩雑で基準もきびしくなる。そうなるとベンチャー企業は手を出さないでしょう。

そうなると産業が収縮してしまいます。

かといって、全くルールがない状態もおかしい。ということで、米国では『何が起こっても文句をいいません』と一筆を書くというルールに落ち着きました」

宇宙エレベーター構想の現状

――ある時期「宇宙エレベーター」(「軌道エレベーター」とも言う。地表から衛星軌道まで伸びるエレベーターのこと)が話題になりました。

現在でも計画は進んでいるんですか?

北村:
「カーボンナノチューブを利用すれば、技術的には可能だろうといわれています。

しかし、ゼネコン大手の大林組が実験をして、宇宙空間では放射線に対する耐性が不足していることがわかりました。また、長いチューブをまだいっぺんには作れないんですね。

しかし技術的にはいずれ実現可能になるでしょう。ところが政治的な理由で地球上ではむずかしいと言われています。

実現するとしたら、火星とか月ではないでしょうか」

――政治的な理由とは?

北村:
「これも軍事利用の問題です。

宇宙エレベーターが実現して、宇宙空間まで一気に行けるようになったら、その途中から何かを投げたら、それはミサイルと変わらないじゃないかということなんです。軍事利用ができてしまう。

それに、どこに作るのか、誰が管理するのかといった問題が出てくる」

――宇宙エレベーターが実現したら、われわれにどんなメリットがあるんですか?

北村:
「ロケットよりコストが安いことです。安価で、地上と宇宙を行き来できる。

もし宇宙エレベーターが完成したら、ロケットはなくなるでしょう。

人工衛星も何もかも、全部エレベーターで宇宙空間まで上げてしまえばいいわけですから」

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宇宙にはワクワクがある

――話は変わりますが、先生が宇宙法に携わろうとしたきっかけはなんですか?

北村:
「司法試験合格後に、JAXAの法務課でインターンをしていたことがありました。

その関係で、弁護士になって以降も、勉強会などに出席していたんです。

ちょうどその頃、JAXAでは民間企業をサポートしていこうという機運が高まっていました。

しかし、宇宙関係に関する法律に詳しい弁護士が、当然ながらほとんどいなかったわけです。それで、『君がやってみたら』と声をかけられたんです」

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――なぜ宇宙法に興味を持たれたんですか。

北村:
「誰も専門家がいなかった、というのが一番大きな理由です。

さらには、宇宙ビジネスはこれから発展していくだろう、であれば専門の弁護士も必要になるという計算もありました。

でも一番の理由は、誰もまだやっていないことをやりたいという思いです。本業のほうは、宇宙とはまったく関係がないんですけれど。笑」

――本来はどのような分野でご活動を?

北村:
「事業再生やM&Aが専門です。日本スペースロー研究会所属の弁護士は、弁護士会もバラバラ、事務所もバラバラなんです。

知的財産分野が得意な人もいれば、社債やファイナンスが得意な人もいる。でも、それがむしろいいと感じています。

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同じ発想の人が集まっても、同じ方向にしかならなりませんからね」

――日本スペースロー研究会のような集まりは、欧米にもあるんですか。

北村:
「米国には『スペース・ロイヤー』と呼ばれる、宇宙法関係だけで食べている弁護士がいると聞いています。

それだけニーズがあるということですよね。たぶん海事弁護士に近いのではと思います」

――セミナーも開催されていくとおっしゃっていましたね。

北村:
「日本にはまだ事業者が少ないので、これから宇宙ビジネスを始めようと考えている方々に向けたセミナーなども開催していこうと思っています。

宇宙法だけでなく、ベンチャー企業が資金調達をする方法などといったこともレクチャーするんです。学生のみなさんにも会う機会があります。

いいアイデアをもつ人、すでに実践を始めつつある人もいるので、それらをどう事業化していくのかという点についてサポートしていきたいと思っています。

宇宙産業はすそ野が広いので、周辺分野も併せて盛り上げていきたいですね」

――なぜか宇宙の話をするとわくわくします。学生がチャレンジしようという気持ちはとてもよくわかります。

北村:
「本当にわくわくします。たぶん未知の世界だからではないでしょうか?」

――たしかにそうですね。本日はありがとうございました。

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無重力の世界の法律って?|宇宙法専門家 北村尚弘 中編
宇宙ビジネスのこれから|宇宙法専門家 北村尚弘 後編

取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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