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日本は他国と“魚と水”の関係になれるか?| グローバルウォータージャパン 代表 吉村和就 第3話

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

改正水道法案により、多くの人から注目を集めている日本の水ビジネス。
前回に続き、水の専門家・吉村和就さんに話を聞きます。

最終回である今回は、「海外での成功例と今後の日本の水ビジネスについて」です。

吉村和就(よしむら・かずなり)
グローバルウォータージャパン代表。
大手エンジニアリング会社にて営業、経営企画などに携わり、ゼロエミッション(廃棄物からエネルギーと資源創出)構想を日本に広げた。また、国の要請により国連ニューヨーク本部に勤務、環境審議官として発展途上国の水インフラの指導を行う。日本を代表する水環境問題の専門家の一人として、メディアに数多く出演。また日本の環境技術を世界に広める努力を続けている。主な著作物『最新水ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)他多数。

日本の水ビジネスは3大メジャーに対抗できるか?

海外の企業は、日本の水ビジネスのことをどう捉えていますか?

吉村和就氏(以下、吉村氏)
「世界の水ビジネスの世界には、『世界三大メジャー(ウォーターバロン:水男爵)』と呼ばれる企業があります。

フランスのヴェオリア・ウォーター、スエズ・エンバイロメント、英国のテムズ・ウォーターユーティリティーズの3社です。

最大手のヴェオリア社は、売上約3兆2000億円の巨大企業です。

水を集め、貯え、処理し、配るという、水ビジネスのすべての分野を1社で賄うことができるんです。

160年という歴史があり、現在は67カ国でサービスを提供しています。彼らはすでに日本法人を立ち上げ、自治体に売り込みをかけています」



なぜ、こんな大赤字の日本の水ビジネスに、海外の会社が注目してるんですか?

吉村氏:
「日本の水道は彼らから見て、大変美味しい市場です。

海外の水メジャーは、日本を年間2兆3000億円を売り上げる巨大なマーケットと見ています。

それに加えて、彼らは日本人の律義さ、真面目さにひかれています。つまり言い換えると『金払いの良さ、しかも現金』です。

日本人は水道料金をほとんど滞納しません。99.9%払います。だから回収のコストが低く済むのです。

この金払いの良さは当たり前のようですが、東南アジアなどでは水道料金って約3~4割は払ってくれないんです。

そのうえ、水が盗まれることも多い。『水泥棒』なんて、今の日本では聞いたこともありませんね。

世界の水ビジネス市場では、人口が2倍に増えると、水需要は3倍になると考えられています。

ここから考えて、世界規模では、2050年に現在の2.6倍の水が必要だろうといわれています。水市場も現在の87兆円から110兆円に膨れ上がると予想されています。

しかも水ビジネスは作って終わりではなく、事業運営が収入の中心です。

一度受注すれば、長い期間にわたって安定した利益を出すことができる。企業からすれば、たいへん魅力的だと思います。

だから、水メジャー以外にも、米国、ドイツ、スペインなどや、シンガポール、韓国といった国までが水市場の覇権を争っているというのが、世界の水ビジネスの現状です」

技術で勝ち、ビジネスで負けている国、日本


日本は、彼らと組む利点はあるのでしょうか?

吉村氏:
「よく質問されるのですが、彼らには巨大な資本があります。160年間の蓄積は生半可ではありません。

そうすると、目先の利益だけでなく、将来の可能性に投資できます。

つまり、とんでもない費用がかかると予想される日本の水道インフラの更新に期待が持てるわけです。

日本には、彼らに比肩するような民間企業は見当たりません。

なぜ日本では水メジャーのような会社が生まれなかったのでしょう。

それは、水道の事業運営を〈官〉が担い、設計・調達・建設を〈民〉が担うとはっきり分かれていたためです。

だから、明治時代から100年もの間培ってきた、世界に誇る技術とノウハウを持っているのに、国内市場のパイを奪い合うばかりで、海外で水道事業を丸ごと請け負える企業が誕生しなかったんです。

現在では、日本の自治体が水道事業のコンセッション契約に日本の企業を選びたいと考えても、資本や人材、実績を考慮すると、海外の企業の方がいいよね、となってしまうんです。

日本の企業の水に関するテクノロジーは世界トップクラスです。

海水の淡水化処理技術、水を循環利用する再生水処理技術などは世界の最先端です。

膜素材分野では世界市場の7割を占め、IоTを利用した省力化技術も有望です。

ただし、『技術で勝ちビジネスで負けている』状態です。

なぜこのような状態になったかというと、技術さえあれば勝てるだろうと過信し、日本の水道法に基づいた高コストの提案ばかりしてきたからです。相手のニーズに応えてこなかったんですね」

今の状況を変えるには、どうしたらいいでしょうか?

吉村氏:
「現状を変えるには、情報収集や国家間の信頼関係の構築が必要です。だがそれを実行するには、民間企業の規模が小さく、数が多すぎる。

そこで、官民の力を結集した国家レベルでの事業展開が必要になるのです。

実際に、三大メジャーのうち2社を占めるフランスは、シラク元大統領の時代に、水ビジネスを国家プロジェクトと位置づけ、外貨獲得を目指し水ビジネス強化策を2社に絞って大きな成果を上げました」

日本は世界に追いつくことができるのか?


最後に、現状を打開するアイデアを教えてください。

吉村氏:
「世界に追いつくためには、日本の水道事業に海外、特に水メジャーに参画してもらう必要があると思います。

何しろ、彼らには事業運営に関する圧倒的なノウハウがある。

施設の設計段階から、利用者とのコミュニケーションのことを考慮に入れたりしている。

こんなことは、日本の水ビジネスの世界では考えられてこなかった。

『海外企業は黒船だ、怖い、参入をさせるな』

ではなく、彼らとも手を結び、そこから学び取る。

こういう姿勢が水道事業の運営スキルを向上させ、日本の水道を立て直し、ひいては、海外に進出するきっかけになると思います。

日本政府も『質の高いインフラ輸出』で、水ビジネスの海外展開を目指しています。

逆にいうと、コンセッション方式を積極的に導入したいからこそ、そのチェック機能を一刻も早く構築しなければならないのです」


インタビューの最後に、
「日本人って、携帯電話には1万円とか平気で払っている人多いですよね。

でも水道料金値上げって話を聞くと、すごく嫌悪感を示す人が多いですよね。

でもよく考えてみてください。

携帯電話と水、どっちが生きるために大切ですか?」
と語っておられた吉村さん。

毎日あたり前のように享受できる「水」というインフラに、私たちはもっと根本から考えないといけないのでは? と考えさせられた取材でした。

(おわり)

第1話 “水に流せない”水ビジネスのはなし
第2話 日本の水は”背水の陣”なのか?
第3話 日本は他国と“魚と水”の関係になれるか?

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