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宇宙法って知ってますか?|宇宙法専門家 北村尚弘 前編

今、宇宙ビジネスが注目され始めています。

人が活動するのですから、宇宙空間でも法律があるはず。いわゆる「宇宙法」などと呼ばれるものです。

しかし、私たちは宇宙法についてよくわかりません。

そこで今回は、法律という観点から宇宙をとらえ、そこから宇宙ビジネスの最先端に光を当てていきたいと考えています。

お話を聞いたのは、宇宙ビジネスに関係した法律に詳しい、弁護士の北村尚弘先生です。

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北村尚弘(きたむら なおひろ)
2013年より弁護士として活動。JAXAでのインターンをきっかけに、宇宙ビジネスに関わる。宇宙ビジネスに関する複数の団体に所属するほか、弁護士有志にて『日本スペースロー研究会』を立ち上げ、宇宙ビジネスをサポートしている。所属団体として、東京弁護士会、弁護士活動領域拡大推進本部 宇宙部会、まんてんプロジェクト、(一社)宇宙エレベーター協会、(一社)日本航空宇宙学会、(一社)ニュースペース国際戦略研究所、日本スペースロー研究会がある。

宇宙にも法律がある

――まず最初に、宇宙法の全体像を教えてください。

北村尚弘氏(以下、北村):
「大まかにいうと、国際的なルール、国内的なルールに分かれます。

国際的なルールには2種類があります。ひとつは法的拘束力が明確な『条約』です。

もうひとつは、条約ほど明確な法的拘束力はないけれど、『取り決め』や『ガイドライン』と呼ばれる『ソフトロー(soft law)』です」

――それぞれについてわかりやすく教えてください。

北村:
「宇宙に関する条約は現在、『宇宙条約』をはじめ5つあります。宇宙条約とは、その名の通り、宇宙に関する条約です。

他の4つは、宇宙飛行士がどこかの国に降り立ったら助けましょう、とか、宇宙の物体については登録しましょうとか、細かく定めています(宇宙救助返還協定、宇宙損害責任条約、宇宙物体登録条約、月協定)。

しかし、逆に考えると、条約が5つしかないんです。しかも1960~70年代にできたものばかりで、80年代以降に締結されたものはありません」

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――なぜ、そうなったのですか?

北村:
「5つの条約が作られた当時は、米ソ冷戦時代でした。両国の宇宙開発競争がこれ以上進んだらまずいことになると考え、過当競争を防ぐ目的で定めたんです」

――ところがソ連が崩壊してしまった。

北村:
「そうです。冷戦が終わると必要がなくなったんです。逆に、ルールがあると、開発の自由を奪われると考えられるようになりました。

だから、80年代以降は条約が作られなかったのです。代わりに、ソフトローとして、ガイドラインなどが作られました」

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――条約やガイドラインといったルールは、誰がどのように作るのですか?

北村:
「宇宙に関する条約は、ルールを作るためのルールとして、国連の中にある『宇宙空間平和利用委員会』において協議します。

条約制定には、全会一致が必須です。現在は、米ソの冷戦時代とはちがって、宇宙開発先進国と開発途上国のあいだで利害が発生しています。

先進国は既得権益を守る条約を作りたい。一方、開発途上国は自分たちが参入できる余地を確保したい、というわけです。

昔は宇宙開発に関わる国が少なかったので、全会一致が可能でした。ところが今はむずかしくなったわけです。

その代わりのソフトローとして、ガイドラインなどを作成しているのです」

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日本で民間参入を促進させた宇宙二法

――単純な質問をさせてください。日本で「ロケットを飛ばす」時、どんな宇宙法が関係するのですか?

北村:
「ロケットの打ち上げは、その国自体が責任を持って行うこと、と条約で決まっています。

そして、その運用はそれぞれの国に委ねられています。

日本では、ロケットの打ち上げの許可と、衛星のリモートセンシング画像に関する2つの法律が2016年に制定されました。
(『人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律』と『衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律』。通称は『宇宙活動法』と『衛星リモートセンシング法』。あわせて『宇宙二法』とも呼ぶ)

米国では1980年代に打ち上げに関する法律ができているので、日本は30年くらい遅れています。理由は、日本のロケット開発・宇宙開発が、国つまりJAXA(宇宙航空研究開発機構)を中心にしていたからです。

しかし近年、日本でも、民間企業がロケットの打上げを行うケースが増えてきたので法律を整備しました」

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――宇宙二法に先立つ2008年には『宇宙基本法』も制定されています。これはどういう法律なのですか?

北村:
「宇宙開発に関する国としての基本方針を定めた法律です。『民間にもう少し委ねていきましょう』という政府の意向表明みたいな内容です」

――宇宙基本法があって、宇宙活動法ができたというわけですね。

北村:
「たとえば、現在では、種子島宇宙センターでのロケットの打上げは、宇宙活動法のルールに則っています。

それ以前は、『JAXAや国が実施するのだから最終的には国が責任を負う』ということで規制がありませんでした。

けれども民間が打上げを行う場合はそうもいきません。『何かあったら国が責任を取りなさい』と条約で決まっているからです。

たとえば現在、ロケットの開発は三菱重工がJAXAから技術移転を受けて開発していますが、三菱重工がロケットを打ち上げる場合は、宇宙活動法に基づいた許可をとる必要があります。

堀江貴文さんが出資するインターステラテクノロジズ社の『MOMO』などは、まだ観測ロケットの段階なので、宇宙活動法には引っかかりません。

しかし、ゆくゆくはこの許可が必要になると思います」

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どこからが宇宙なのか


――また素人めいた質問をさせてください。ロケットはすごい距離をあっという間に飛んでいきます。どこから宇宙の法律が適用されるのですか?

北村:
「面白いポイントです。『どこからが宇宙か』は決まっていません。一般的には、『地上100キロメートル以上が宇宙、それまでは空』と言われています。

しかし、これは法的な定義ではありません。なぜ決められないのか? 実は政治問題が絡んでくるからです。

領空を広く主張したい国は『ここも空だ』と言うでしょうし、他の国の上空を飛んでいかなければならない国は自由に飛びたいので『ここは宇宙です』と主張するでしょう。

利害関係がぶつかり合って、定義が決まらないんです」

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――人工衛星の軌道は100キロメートル以上なんですか?

北村:
「もっと上です」

――ということは、人工衛星はどんな軌道をとっても構わないんですね?

北村:
「はい、許可を取れば問題ありません。

なお、人工衛星の場合は、軌道より電波の周波数の問題のほうが深刻です。

人工衛星はかならず何かのデータをやりとりします。大学で作るような小さな人工衛星でも同様です。膨大な数に及びます。

だから、割り当てる周波数が足りないんです。周波数は、ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)で事前に取得するのですが、完成時期もわからない衛星用に周波数を申請する事態も起きています」

――それは私のような一般人にはわからない問題ですね。他にもそういった問題はあるんですか?

北村:
「これは日本独特ですが、打上げの際には地元の漁業協同組合との調整が必要です。種子島宇宙センターなどでは海の方向へ打ち上げるからです。

漁協には『ロケットを打ち上げますから、そのエリアに入らないでください』という通知を出すんです。

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もしエリア内に船舶の存在が認められた場合、安全のために打ち上げを中止します。これは法律による義務ではなく、損害のリスクなどを考慮するからです。

 また現在、和歌山でスペースポートを作るという話があります。ここで必要になってくるのは、航空業界との調整です。

和歌山の近くには、関西国際空港と中部国際空港セントレアとがあるからです。風の影響などで発射が遅れたりすることを加味すると、長時間の飛行制限が必要となります。

果たしてそれが可能なのかどうか。憂慮されています」

――米国のスペースX社が衛星打上げロケットの垂直着陸の実験に成功しています。日本の企業が行った場合、現状の法律で対応できるのですか?

北村:
「宇宙活動法は打ち上げるほうの許可だけです。いったん宇宙に飛び出したロケットを大気圏に戻すことには対応していません」

――「はやぶさ」の場合は、どう考えられるのですか?

北村:
「『はやぶさ』はJAXAひいては国が行っている研究開発事業です。そのため、国が責任をもって安全に配慮して実施しているということになります」

一見希望と期待だらけの宇宙ビジネスの世界ですが、そこには様々な「法律やルール」があることを知りました。

次回は日本の民間宇宙開発にフォーカスを当ててお話をうかがいます。(つづく)

取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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