見出し画像

いかにして「長期・積立・分散」の投資スタイルへ行きついたか 前編|投資ブロガー・水瀬ケンイチ

日本では、今も「怪しい」「よくわからない」ものとして扱われる「投資」や「資産運用」。そして、だからこそ、つい二の足を踏んでしまう。この「投資」をテーマに長きにわたりコツコツとブログを書いてきた人物がいます。

「長期・積立・分散」の代表的な投資スタイルでもある「インデックス投資」を実践する投資ブロガーの水瀬ケンイチさんです。彼がどんな道を辿って、現在の境地に行き着いたのか? また、彼にとって「投資」とはどんな意味を持つのか? 直接お話を聞いてみることにしました。


―― 今でこそ注目する人も増えてきた「インデックス投資」という言葉なのですが、当時からそこに着眼できていたのは、どうしてなのでしょうか?

私も最初は、個別株、デイトレードをやっていました。あるいは、スイングトレードです。だから一日に何度も相場をチェックするようなことをしていました。最終的には、頭から株のことがまったく離れなくなってしまっていたのです(笑)。

―― それがなぜ、「長期・積立・分散」の代名詞でもある「インデックス投資だけ!」という今のような投資スタンスに変わったのでしょうか?

いやぁ、自分自身がこのままではいけない!と思ったんです。最後には、仕事中にもぼんやりと株のことを考えるようになってしまっていて、仕事が中途半端になってしまっていましたからね。

それに加えて、企業分析や決算書を見てばかりをして週末をすべて潰してしまう。何か、手間の掛からない投資手法はないだろうかと探していたのです。

―― 確かに、頭が株のことばかりになってしまうのは、考えものですよね。具体的には、どんな風に投資法を探されていたのでしょうか?

とにかく本を読みました。テクニカル分析、ファンダメンタルズ分析など、いくつかの分析方法について、何冊分もの知識を徹底的に入れたんです。そんな研究をしているときにたまたま手にとったのが『ウォール街のランダム・ウォーカー』(日本経済新聞出版社)という投資の古典的な名著だったのです。

―― なるほど。しっくりきた1冊があったわけですね。

はい。私が続けているブログは「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」というタイトルなのですが、これは元々1973年に初版が出された本『ウォール街のランダム・ウォーカー』(日本経済新聞出版社)から取ったらものです。インデックス投資家にとっては、バイブルとも称されて、よく知られている本です。

で、色々な投資手法を研究していく中でこの本に出会い、ここ書かれていた一文に衝撃を受けたんです。

「ただインデックス・ファンドを買ってじっと持っているほうが、はるかによい結果を生む」

つまり、個別株の売買よりも、プロのファンドマネージャーが運用してくれる投資信託よりも、ただ主要な経済指標に連動するように運用されるだけのインデックス投資の方が良い結果につながるというのです。

――なるほど。最初は、短期トレードをしていたけれど、最終的には長期・積立・分散の投資手法であるインデックス投資に落ち着いたというわけですね。

はい。インデックスをバイ&ホールド(買ってずっと保有)する。お金を寝かせておくだけの手法です。まあ、つまらない投資手法ではあるのですが、私には合っていました。それまでは、仕事中であってもトイレに篭って携帯電話でトレードしてしまうなどしていたのですが、インデックス投資は、シンプルすぎるがゆえに特にやることはありません。

――そうなんですね。でも、長期・積立・分散の投資手法は、とてもシンプルな方法にもかかわらず、継続するのが難しいということを聞いたことがあります。水瀬さんは15年間という長きに渡り、それを続けているのですが、その間には暴落相場も経験されているわけですよね?

はい。リーマン・ショックによる大暴落、東日本大震災による日本株の大幅下落、ギリシャショックによる世界市場全体の下落などを経験しています。

―― 著書である『お金は寝かせて増やしなさい(フォレスト出版)』にも、そのことが書かれていますが、下落相場において自分の資産が減るというのは「いつかは上がる」というロジックを知っていてもショックなものなのでしょうか? またリーマンショックの前後でその意識に変化が生じたことはあったのでしょうか?

ショックはショックでした。でも、私が一番のショックを受けて、学んだことは「知り合いが豹変する」ということなんです。ありがたいことに、それまで私のブログの常連でポジティブな書き込みコメントを残してくれる読者がいました。彼らは「インデックス投資万歳!」という感じで、私の記事の主張に同意してくれる人たちでした。

ところがリーマンショックのときは、その同じ読者たち、仲間だと思っていた人たちから誹謗中傷のメールが毎日のように届くようになってしまったのです。なかには「水瀬死ね!」というきショッキングなメッセージさえありました。状況が変わると、言うこともやることもすべて変わってしまう。そのことを目の当たりにした瞬間でした。

私自身も、自分の資産が半減までしてしまっていましたが、それよりも人間が「本性」を見せたことが最もショックだったのです。

――確かに、自分が持っていた資産が半分になってしまう状況下と言うのは、多くの人の感情を別次元に連れていってしまうのかもしれませんね。

だからあの時、本当の意味で長期・積立・分散投資の威力、理屈を理解していなかった人はその場から退場してしまったのだと思います。でも、相場というものは戻るものだと、私は信じていました。元々あったその想いをさらに強く感じたのは、本屋に積まれたリーマンショックの金融危機を煽るような悲観的な書籍の数々でした。「自分の投資は続けよう!」と改めて思ったのです。

――どうして悲観的な内容の本を見て、インデックス投資を続けられる気になったのでしょうか?

人間の欲望を感じたからです。並べられた書籍がいかにネガティブなものであっても、その裏側には商魂たくましく、そうした本で儲けようとしている輩がいる。暴落という状況に乗じて儲けようとしている人間がいるということは、欲望をガソリンにした資本主義は健在だと思ったのです。資本主義の拡大再生産はまだまだいける、と体感できたのです。

つまり、資本主義の発展こそが、インデックス投資のような長期投資のリターンの源泉になります。北斗の拳のような世界にでもならない限り、大丈夫。市場は、大きく揺れるときは揺れる。もちろん暴落もする。でも必ず回復する。そう信じられたのです。

――一般的に、自分の資産が減った状況でそんな風に思える人は多くはないと思います。水瀬さんご自身の心が揺れるということはなかったのですか? 平常心を保つためのコツのようなものがあるのでしょうか?

私の場合には、やはり原点でもある『ウォール街のランダム・ウォーカー』を読み返してみたりすることで危機的な状況を耐えられたのだと思います。「平均株価は長期的には右肩上がりになるはずだ!長期的には、期待リターンがプラスになるんだ!」そう信じられるかどうか、だと思います。あとは、もしかしたら、人並み外れた「鈍感力」というものも大事なのかもしれません。長期・積立・分散の投資を継続していくのは、簡単なようでいて実は難しかったりするんですよ。シンプルなのに難しいというのは深いなと思います。

【編集者の感想】
「投資の王道」とも称される長期・積立・分散投資。その中でも、指標に連動する形で資産が推移していくインデックス投資。とてもシンプルだからこそ続けるのが難しいという投資方法を15年間も続けて、今では著書を出すまでになってしまった人気ブロガーの水瀬ケンイチさんのお話は、まるで瞑想(メディテーション)を続けるお坊さんのお話のような印象が漂っています。静かな話ぶりの中に激情がうごめいている。後編では、日々の生活についてお話を聞かせていただきました。つづきはこちら

株式会社FOLIO
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第2983号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会
取引においては価格変動等により損失が生じるおそれがあります。
リスク・手数料の詳細はこちら
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的としており、個別の金融商品の推奨又は投資勧誘を意図するものではありません。
・掲載した時点の情報をもとに制作したものであり、閲覧される時点では変更されている可能性があります。
・信頼できると考えられる情報を用いて作成しておりますが、株式会社FOLIOはその内容に関する正確性および真実性を保証するものではありません。
・本メディアコンテンツ上に記載のある社名、製品名、サービスの名称等は、一般的に各社の登録商標または商標です。