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全ての残業が「悪」ではない|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第1話

取材・文・編集/設楽幸生(FOUND編集部)、写真/荻原美津雄

平成30年7月6日に公布された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」により、長時間労働の減少や非正規雇用の廃止、多様性のある働き方を推進させる、通称「働き方改革」のムーブメントが動き始めました。

しかし、企業の現場では、実際に働き方改革はどのぐらい意識され、実践されているのでしょうか?

今回、お話をうかがったのは、元東レ経営研究所の所長で「働き方改革の第一人者」と呼ばれる・佐々木常夫さんです。

佐々木さんは、「働き方改革」が叫ばれる何十年も前から、効率的な働き方を実践し、「定時に帰り結果を出す」という働き方にこだわり、部下たちにもその仕事術を伝え続けてきました。

今回、そんな佐々木さんに、「本当の働き方改革」についてお話を聞きたいと思います。

5回にわたる、働き方改革のヒントになる、ロングインタビューです。

佐々木常夫(ささき・つねお)
1969年東京大学経済学部卒業、同年東レ入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。
しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建やさまざまな事業改革など多忙を極め、そうした仕事にも全力で取り組む。
2001年、東レ同期トップで取締役となり、2003年より東レ経営研究所所長となる。
 2010年(株)佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表。何度かの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成のプログラムの講師などを勤める。社外業務としては内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職を歴任。
現在は、「働き方改革」をテーマに、企業や組織向けに、年間50以上の講演活動をおこなっている。佐々木常夫オフィシャルサイト

具体性がないと意味がない

━━今、「働き方改革」叫ばれています。何十年も前から実地で働き方改革を実践してこられた佐々木さんにとって、最近政府が上から掲げている「働き方改革」についてどう思われますか?

佐々木常夫氏(以下、佐々木):
「中身はどうあれ、昔に比べて『働き方改革』を問題視し、掲げるようになった、という部分に関してはいいかもしれませんね。

何十年も前の話ですが、私がサラリーマン時代だった当時は、『長時間働く奴は偉い』のような風土が当たり前で、逆に私のような業務の効率化や『残業は悪』のように考える人間は異端児でした。

『佐々木は変わり者だ』と思われていたんです(笑)。

確かに、『働き方改革』と上段から指示を出しても、実際に動く現場には現場の都合があるので、思うようにいかないことも多いかもしれませんが、全くないよりはマシですよね。

というのも実際に、『今日はノー残業デーだ』とか『8時にはオフィスの灯りが消える』という状況になれば、イヤでも帰らなくてはなりませんからね。

政府や会社の経営陣が何もしないよりも、した方が『少しは』効果があると思います。

ただ実態は、上が『働き方改革』だの『ワークライフバランス』だと喧伝していますが、経営陣が現場に『具体的に』これをやれ、あれをやれ、という指示をだして働き方改革を実践している組織はほとんどない、というのが私の実感です。

というよりもむしろ経営陣は、『こうすれば長時間労働しなくて済む』という具体的な指示を出せないのかもしれません」

「残業=悪」と十把一絡げに断定するのは間違いだ


━━なるほど、具体的にもうすこし詳しく教えてください。

佐々木:
「例えば『残業』のことを考えてみましょう。

少々みなさん勘違いしている部分があるのですが、まず最初に私は決して『残業そのものが悪』だとは思いません。

実際に『働き方改革の先駆者』などと呼ばれた私も、現役時代は必要に迫られれば、長時間の残業をせざるを得ない時期もありました。

また世の中には、本当に忙しい人で、物理的にどう頑張っても仕事が終わらない、というケースは多くあるでしょう。

また、今日中に必ず片付けなくてはいけない大事な仕事があるのに、『ノー残業主義』を理由に帰る、というのもナンセンスですよね。

『残業』についてみなさん勘違いしている人が多いのですが、『残業』を減らすことが目的ではないんです。

そうではなくて、『生産効率をあげる』ことが目的なんだと思います。

そしてその結果、実労働時間が減らせる、それが『ノー残業』に繋がるんです。

つまり私が強く言いたいのは、『非効率的な方法で仕事をダラダラ続ける。やらなくてもいい仕事に長時間割く、その結果、残業する』これがよろしくない、ということなのです」

「働き方=生き方」とは?

佐々木:
「私が感じているのは、『働き方』というのは『生き方』のことなんです。

つまり『自分の人生をどう生きるか?』という前提があって、その上で『どう働くか?』ということを考えなくてはいけないんです。

私がなぜ働き方を変えて残業を無くし、長時間労働しなくても結果が出せるようになり、今ではありがたいことに『ワークライフバランスのシンボル』と呼ばれているのかおわかりですか?

それは、私の中の『生き方』の中心には『家族』があったからです。

もちろん仕事も大事ですし、仕事で結果を出さないと世の中では認められませんよね。

でもその前提として、私は『家族』が大事、いや家族ももちろん『仕事以外の私の人生』が大事なんですよ。親戚も、友達も、先輩も後輩も趣味も大事なんです。

そんな大事なものを守るために、仕事でいかに生産性をあげるか? これに徹底的にこだわってきたんです。

ところが残念なことに、今の日本の多くの企業は、『生き方』という視点で働き方を考えてないんですよね。

そうではなくて、『働き方を変えなさい、そして残業を減らしなさい。早く帰って、仕事以外の他の価値を見出しなさい』と言っている。

ところが『私はそんな価値はいらない、家族なんてどうでもよくて、仕事が最優先なんだ』と考えている人が多くいます。

確かに家族よりも仕事が大事、家族なんてどうでもいい、と思っている人は、その時は『どうでもいい』かもしれません。

しかし、長い人生で、どうでもいいでは済まされない時期がやってくるのです。

たとえば子どもが不登校になったり、奥さんが病気になったら『家族なんてどうでもいい』という状況にはならないんです。

私が強く言いたいのは、そういうリスクが将来あるかもしれない、ということを考えずに仕事だけの人生を送っている、そのことが問題だと言いたいんですね。

つまり、ただ『働き方改革』と叫ぶだけではダメなんです。

働き方を変えて、残業を減らして、定時で終わらせて、結果を出す仕事をして、働き方改革が『生き方改革』に繋がるようにしないとだめなんです」

「働き方改革」が叫ばれていますが、根本的な「そもそも」の部分で、

「なぜ働き方改革が必要なのか?」
「なぜ長時間労働がいけないのか?」

を考える必要があるようです。

そして、単に残業をなくすことが目的ではなくて、一人一人の「生き方」についてもっと真剣に考えないと、表面的な解決にしかならない。

そんなことを佐々木さんはおっしゃっているようでした。

次回に続きます。
(つづく)

全ての残業が「悪」ではない|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第1話
効率化のための10のヒント|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第2話
効率の良い組織に必要なこと|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第3話
信頼関係が、仕事の効率化を産むんです|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第4
敵が最大の味方になる時がある|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第5話

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