最近の回転寿司が美味しい理由 |回転寿司評論家・米川伸生 前編

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

回転寿司が今のように大流行する遥か昔、「渡る世間に鬼はなし」ということわざをもじって、「回る寿司屋にウニはなし」という言葉がありました。

昔の回転寿司は「安かろう、悪かろう」だったことを、よく表しているフレーズです。

ですが今では、職人さんが握るお寿司屋さんに引けを取らない回転寿司屋がたくさん出てきており、

「回る寿司屋=悪いイメージ」

という固定観念はすっかり無くなった印象です。

今回、そんな回転寿司業界の魅力と問題点、そして未来について、テレビ東京「TVチャンピオン」で回転寿司通選手権王になった、回転寿司評論家・米川伸生さんにお話をうかがってきました。

米川伸生(よねかわ・のぶお)
回転寿司評論家。2007年テレビ東京「TVチャンピオン2」回転寿司通選手権王。「回転寿司はアミューズメントパークである!」をモットーに日々、全国各地の回転寿司店を駆け巡っている。また、回転寿司店のコンサルティングや、一般社団法人社日本回転寿司協会のアドバイザーも行なっている。主な著書に、「回転寿司の経営学」など。公式ブログ「回転寿司を愛してる!

回転寿司は「生まれも育ちもイノベーション」

米川伸生氏(以下、米川):
「2016年に公益社団法人発明協会が、創立110周年の記念事業として『戦後日本のイノベーション100選』を選定しました。

外食産業の中で唯一選ばれたのが『回転寿司』でした。

しかしそれは当然なんです。

たとえばカレーライスのイノベーションと言われて、何を想像するでしょうか。

せいぜい味やトッピングが変わるくらいです。ラーメンも、スープの味や麺の太さが変わるくらいです。

ところが回転寿司は、そもそも業態自体がイノベーションから誕生した。そしてイノベーションとともに歩んできた。

そこが他の外食と一線を画しており、非常にまれなケースなんです」

――いつ誕生したのでしょう?

米川:
「1958年です。大阪で立ち寿司店を経営していた、白石義明さんが発明しました。

終戦直後、白石さんの店は寿司4貫を20円で提供し大当たりしていました。しかし注文が殺到しすぎたため、職人の手では間に合わなくなってしまったのです。

そこで10年をかけて回転寿司用のベルトコンベアを開発し、東大阪市に『廻る元禄寿司』1号店を開店したのです。

これが、回転寿司業界のはじまりです。

その後、1970年の万国博覧会で注目を集めると、全国展開が本格化します。

そして自動給茶システム、寿司ロボット、直線型レーンといった機器や新しい業態が次々と開発され、現在に至るというわけです」

――なぜイノベーションが繰り返されたのでしょうか?

米川:
「回転ずし業界が何度も苦境に陥っていたからです。それが発明の原動力になったんです」

――たとえば?

米川:
「1978年に回転寿司機器の特許が開放されると、かっぱ寿司など他社が回転寿司に参入してきました。

ところがその後、回転寿司の売上は落ちてしまいます。『回転率を高めて収益を上げる』ビジネスモデルだったため、外食産業で重要な『味』と『サービス』がおろそかになってしまったからです。

当時は回転寿司といえば、誰もが、駅前や風俗街の近くで、若いサラリーマンの胃袋を満たす『安かろう、まずかろう』な存在を思い起こすようになっていた。

しかも1982年に起きた『新宿歌舞伎町ディスコナンパ殺傷事件』(未解決)によって、各地の風俗街が下火になると、サラリーマンたちの需要も下がってしまう」

――たしかに昔は、繁華街や風俗街に多かったように記憶しています。狭く汚く、まずい店がほとんどでした。女性客なんていなかった。

米川:
「追い打ちをかけるように、その後、日本はバブル景気に突入します。

世は飽食の時代となったので、『安かろうまずかろう』の代名詞だった回転寿司を、デートや一家団らんの場に選ぶわけがなかった。

回転寿司業界は、じり貧に追い込まれたわけです」

――そこからイノベーションが起きたわけですね?

米川:
「こうした状況を打開するために、1992年頃に発明されたのが『グルメ回転寿司』と呼ばれる業態です。

回転率優先という、それまでの業界の常識を破り、味覚を満足させて客を呼び込もうということになった。

最初に世に出たのは『デカネタ寿司』を売り物にする店でした。通常、寿司はシャリが約16グラム、ネタが12グラムです。

ところがデカネタ寿司は、ネタが倍以上の25グラム。シャリが見えないほどでした。これがテレビニュースやワイドショーで盛んに取り上げられ、回転寿司の再ブームに火をつけました。

そしてこの時、業界を『グルメ回転寿司』と『100円回転寿司チェーン』とが二分するという、現在の態勢が整ったというわけです」

――そうなると、回転寿司店の使い方も変わってきます。

米川:
「グルメ回転寿司店なら、デートでも使えるようになった。

私は回転寿司を『飲みに行く場所』として使っています。

初期の回転寿司は、回転率が生命線のビジネスモデルでした。だから、1席15分を目途にしていた。

酒を飲んで長居されるなんてとんでもないので、アルコールは提供していませんでした。客の要望でようやく、ビールの提供を始めたくらいです。それも1本まで、という制限があった。

『グルメ回転寿司』はちがいます。職人が常駐している店がほとんどなので、メニューに刺盛りがあったり、地酒が用意されていたりする。

最近は、『500円で飲み放題』なんて、とんでもない企画を打ち出す店舗まで現れた」

回転寿司が進化させた日本のコールドチェーンと冷凍技術

――最近は100円寿司もおいしくなりましたね。

米川:
「そうです。現在の100円寿司のキーワードは、『天然』と『生』です。

グルメ回転寿司がうたっていたこれらのキーワードを、大手100円寿司チェーンが始めた。しかも非常に高いレベルで、です。

実はここにもイノベーションがありました」

――「天然」の鮮度を保つには、技術の革新が必要です。

米川:
「日本のコールドチェーンと、冷凍技術が発達したおかげです。これらは世界有数でしょう。

実はこの技術イノベーションには、回転寿司も相当寄与しています。

取扱量が他業種とは比較にならないほど多いですからです。機器やノウハウの開発コストをペイできる。

特にここ数年の技術の発達は、目を見張るものがあります」

――鮮度管理が行き届いた店か否かを判断するには、どうすればよいのでしょうか?

米川:
「鮮度が一番わかるのは、足の早い青魚を見るのがいいでしょう。

というわけで、アジが一番わかりやすいと思います。最近の大手チェーンは、アジがとてもおいしい。昔とは比べ物になりません」

――では、技術革新を実感できるネタは?

米川:
「サーモンでしょう。従来、回転寿司で提供していたのはトラウトサーモンといって、ニジマスを海水で養殖したものです。

しかし今は、本物のサーモン(海に生息し、川に遡上する鮭)が食べられる。

これは、冷凍せずにノルウェーから輸入できるようになったからなんです。

水揚げから24時間で日本に届く。2日後には店で食べることができる。

回転寿司のサーモンが劇的においしくなったのは、このおかげです。今ではマグロよりも人気になっています」

――コールドチェーンや冷凍技術が発達すると、回転寿司の海外進出も容易になりそうです。

米川:
「回転寿司はすでに世界中にあります。モロッコにも南アフリカにもある。モンゴルにも回転寿司店ができたと聞いたことがあります。

ただし、海外の回転寿司店は地元で獲れた魚を提供している。中には魚でないものもある。

メキシコの回転寿司店で出されるのは、全部フルーツロールです。ベルギーではマグロのチョコレート漬や黒ビール漬。日本人が思い起こす寿司とはちがいます。

つまり、回転寿司の業態が、まず世界中に広がっていったんです。

そもそも寿司というのは自由度が高く、ローカライズしやすい食べ物です。だから世界中に広まったというのもあります。

でも技術革新によって、業態だけでなく、寿司そのものを広めることができるようになりました。

ここから何が生まれるのか。楽しみです」

どの業界でも、大きなイノベーションが起きる場合、そこには企業の努力による技術革新が大きく関係しています。

回転寿司業界もしかり。「冷凍技術」がお寿司の味に変化をもたらしたようです。

次回は回転寿司業界の、様々な企業努力にフォーカスしてお聞きしたいと思います。
(つづく)

最近の回転寿司が美味しい理由 |回転寿司評論家・米川伸生 前編
美味しい寿司の裏側にある企業努力 |回転寿司評論家・米川伸生 中編
回転寿司業界が成長するのに大切なこと |回転寿司評論家・米川伸生 後編


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