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生命が語りかけてくるとき|人工生命にまつわるコラム

当コラムは、東京大学広域システム科学系教授|人工生命研究者・池上高志教授の取材に同行したFOLIOスタッフがつづる取材後記です。今回のコラムに筆を取ったのはFOLIOでクオンツを務める廣瀬達也です。「人工知能の研究」を行ってきた男は、似て非なる「人工生命」の取材に何を思ったのか?

廣瀬達也/
京都大学理学部数学科卒。20年間、京都で育つ。大学卒業とともに上京。2014年、株式会社サイバーエージェントでサーバーサイドエンジニアとしてプロダクト開発に従事したのち、2016年1月に、株式会社FOLIOを共同創業。現職では、FOLIOのクオンツエンジニアを務め、運用アルゴリズムの開発や業務への機械学習の導入を行なう。「大学では数学を専攻していましたが、"人間"を作りたくて一時期は人工知能の研究もしていました。仕事では金融商品の組成と分析をしています。」

文/廣瀬達也

ポール・ワイスの思考実験

ポール・ワイスの思考実験というものがあります。

「ひよこを試験官に入れて完全に粉砕した時、粉砕する前と後では何が失われるだろうか?」というものです。

BEFORE)
試験管の中に入ったひよこ

AFTER)
試験管の中で粉砕されてしまったひよこ

回答は人それぞれになると思われますが、ポール・ワイス自身は、次のように考えました。

・「生物学的組織」が失われた。
・「生物学的機能」も失われた。
・だから、生物学的組織と生物学的機能は不可分、分けて考えることはできない。
・つまり、細胞生物学の還元主義(分解、分割して元に戻し結論を求める)には限界がある。

との答えを導き出しました。

「困難は分割せよ(困難なことはすべて、扱うことができ、解決が必要な部分へと分割せよ)」(出典:goo辞書・世界の名言・格言)とデカルトは言いました。要するに、複雑な何かを理解しようとするときには、モノゴトを簡単な要素に分解する。

その後で、それぞれを理解し組み立てる。そうすることで、全体への理解がしやすくなる。こうした理解へのメソッドは、今や定石となりつつあるものです。

しかしポール・ワイスの思考実験では、これに疑問を呈したわけです。分割して小さな要素に還元するという行為は、元々、全体が有していた意味のある現象を破壊してしまうことがある。そのことを例示したわけです。

先の思考実験において、粉砕する前と後でひよこから失われたものを、「生命」だったと捉えるならば、「分割する」という武器を用いることで、「生物学的組織」と一緒に「生物学的機能」も失われてしまうため、「生命」を理解することには繋がらないわけです。

生命を理解する

分解、分割したら捉えられなくなってしまう生命というものを、私たちは、どうすればを理解することができるでしょうか?

東京大学・池上高志教授が専門とする「人工生命」という分野の研究では全体を、小さな要素に還元することなく、全体のまま捉えるというアプローチで生命の理解に近付こうとしているように思います。

例えば、「ライフゲーム」と呼ばれるシミュレーションは、全体の模様の変化が驚くほど生き物のように振る舞うことがあります。

これは、平面上に並べた白黒のタイルを、単純なルールに従って変化させることで生まれた結果です。

生命ライクな現象

生き物のように振る舞うという感覚。

私たちは、こうしたことを直感的に感じ取ることができます。しかし、なぜそう思ったのかを論理立てて説明することは非常に難しい問題です。

「生命ライクな現象(生命のように感じられる動き)を発見し、その現象を表現する言葉をつくっていくことが大切だ。」

池上先生は、そう言います。

新しい言葉

どうすれば、生命を理解することができるのか?

それは、先生の言う「生命ライクな現象」を数多く生むことを重ねてゆくことなのでしょう。

そして、そうした試みの延長線上に「新しい生命を語る言葉」が作られていったのなら、そのときはじめて、「生命を理解できる」瞬間が訪れる。

ぼくには、そんな風に感じられたのです。


※ 東京大学広域システム科学系教授|人工生命研究者・池上高志教授のインタビューは以下からお読みいただけます。

東京大学広域システム科学系教授
人工生命研究者・池上高志教授インタビュー

第1話 人工知能の先の世界をいく人工生命とは何か? Beyond AI
第2話 人工生命と人工知能は、何が違うのか?
第3話 企業が見るべき、人工知能の先にあること 
第4話 人工生命がつくる、ほんとうのユートピア 


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