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効率の良い組織に必要なこと|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第3話

取材・文・編集/設楽幸生(FOUND編集部)、写真/荻原美津雄

前回は働き方を変えるための、さざまな仕事術について教えていただきました。

今回も、佐々木さんの経験を踏まえた、働き方改革に役立ちそうなお話をうかがっていきます。

佐々木常夫(ささき・つねお)
1969年東京大学経済学部卒業、同年東レ入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。
しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建やさまざまな事業改革など多忙を極め、そうした仕事にも全力で取り組む。
2001年、東レ同期トップで取締役となり、2003年より東レ経営研究所所長となる。
2010年(株)佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表。何度かの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成のプログラムの講師などを勤める。社外業務としては内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職を歴任。
現在は、「働き方改革」をテーマに、企業や組織向けに、年間50以上の講演活動をおこなっている。佐々木常夫オフィシャルサイト

働き方を変えるためには、「具体性」が大切

━━働き方改革と上から言われても、現場が実行できない具体的なものでないと、効果がないように思います。

佐々木常夫氏(以下、佐々木):
「まさにその通りで、最近『働き方改革』を遂行しようと思っている、生産性をあげようと思っている組織は多いですよね。

ですが、私に言わせれば、思っているだけで具体的に実行が伴ってない組織が多いと思います。

具体的にどうやったらいいのか考える、どうやったらいいのかを議論する。

会社はチームで仕事をしていることがほとんどですから、一人だけで実践しても、働き方改革は実現しません。

ですが、現状を見ていると、多くの人を巻き込んでどうすれば生産性が上がるかを考えている人というのは、残念ながほとんどいません。

思っているだけで、議論して実行する場を作ってない、というのが私が感じていることです」

━━場を作ることが大切なんですね。

佐々木:
「よく、私が働き方改革を実践したと言われますが、厳密に言うと、私はどうやったら効率よくなるか、生産性があがるか?ということを考える『場』を部下に提供しただけなんです。

困難な仕事、結果を出さなくてはいけない仕事を、どうやったら効率よく結果が出せるか?

それを議論して意見を交わして、それを社員が共有し、ブラッシュアップしていく。
これが大切であって、いくらトップダウンで漠然と『働き方改革だ』と言っても、いつまでたっても実現しません」

どの会社でも「働き方改革」は可能なのか?

━━前回お話いたいだい、仕事の10カ条の中でも、特に大事なのはどれですか?

佐々木:
「『計画を立てて仕事をする』『最短コースを選ぶ』『どれが重要かを見極める』この3つが特に大切ですね。

もちろん他の7つも大切ですが、たとえば『結果主義』は当たり前の話ですよね。これは、ノウハウというよりも『考え方』の一つですからね」

━━「働き方改革」を政府が掲げていますが、世の中にはスタートアップの企業、ベンチャー企業が多数ありますが、そういう会社でも、働き方改革というのは可能なのでしょうか?

佐々木:
「結論から言うと、かなり厳しいと思います。

私が東レの経営企画室にいた頃に『社内ベンチャー制度』というのがありました。

新しいビジネスを生み出そうとしている社員に、会社が資金を援助するという制度で、チャレンジ精神のある若い人が応募してきたことがあります。

彼のアイデアはとても良かったので、その案を採用して彼を社長にして、他の会社からもスタッフを呼んで、4人でスタートさせたんですね。

ところが事業を拡張させようとしても、なかなかうまくいきません。

資金も無くなりそうになり、追加で資金を入れながら、彼は寝てる時以外は仕事をしていました。

一時はダメになりかけたんですが、最終的には彼の頑張りでものになって、成功しました。最終的に3年半かかりましたけれど。

私は彼のオーバーワークっぷりに、あまりにこれは無理があるから、何回もプロジェクトを中止させようとしました。

ところが彼が必死で頑張り、最終的には成功したんです」

━━仕事にそれだけ必死に向き合った結果の成功だった、ということですね。

佐々木:
「実は私も以前、ある会社に出向になったことがあったのですが、それは大赤字の会社の立て直しでした。

このプロジェクトを任された私は、本当に必死に働かないと無理だったので、月に150時間ほど残業しました。

これを続けていると、4ヶ月ぐらいすると倒れて寝込むんですね。3日位寝込んで、また働いて、また倒れてを繰り返していました。

幸いその会社は黒字になって、私は東レに戻って結果的に良かったのですが。

私はそんな経験をしてわかったことがありました。

いわゆる一般企業の日々の仕事って、工夫次第で残業しなくても結果が出せる仕事がほとんどだ、ということです。

逆に世の中には、ギリギリの立場で必死になってやらないと、本当にだめになってしまう状況に立たされている人がいる。

こういう場合は働き方改革、ノー残業など言ってられません。ただ、こういうケースは非常に稀だと思うんです」

━━なるほど、「残業しなくてもいいのにダラダラ働くのは悪」だけれど、必死に仕事しないと無理な場合は、残業やむなし、ということですね。

佐々木:
「これは極端な例ですが、たとえばノーベル賞をもらうような研究者が、毎日定時に帰ってノーベル賞をもらえると思いますか? 無理でしょうね。

例えばバイオや半導体の最先端で研究している人たちが、定時に帰っていいものを生み出せるとは思えません。

才能のある人たちが、昼夜問わず必死になって、とことん働いて研究するからこそ、新しい技術や製品が出来上がると思っています。

ですから私は、寝る間を惜しんで働いている人を否定するわけではないのです。

そういう立場の方々は、必死になって長時間働かないと成果が出ないこともあるのです。

私がいた東レには、何千人という研究者がいました。

その中でもスーパーエリートと呼ばれる方は本当に数%なんですが、こういう方には必死に働いてもらわないといけないんですよね。

私は現役時代に、そういう優秀な研究者にはフェロー制度を作って見返りを出していました。

つまり、奨学金のようなものを出して、生活を保証するんです。

自分の生活を犠牲にしてまで研究に没頭してくれているわけですからね。一般のサラリーマンと別に考えないといけない存在だったんですね」

━━確かに、全部の仕事がノー残業なんて綺麗事かもしれません。

佐々木:
「ですから、私の考えとしては、日本で働くビジネスパーソン全員が、定時に来て定時に帰れるのが『働き方改革』ではないのです。

仕事によっては残業してでも、がむしゃらに働かなくてはいけない職種や職場もあるんです。

逆に効率よく処理すれば定時に帰れるのに、ダラダラと非生産的なことを繰り返して残業しているなら、それは働き方を変えなくてはいけない。私はこう思うんですね。

自分もビジネスマンの時に、人生で3回ほど、寝る間を惜しんで何時間も残業して働かなくてはいけないことがありました。

でもそれは、緊急事態でしたから、やらなくてはいけない状況に追い込まれていたからんです」

組織には様々な角度から見る目が大切

佐々木:
「私は以前『ビジネスに活かす 孫子』という本を書いたのですが、孫子の考え方で、『戦いに勝つための最良の方法は、戦いをやらないことだ』というのがあります。

企業も同じで、経営危機になる前に、窮地に陥らないように努力することが大切なんです。

窮地に陥った時にどうするか?というのはノウハウがたくさんありますが、一番いいのは窮地に陥らないようにすることです」

━━問題になる前に火種を潰せということですね。

佐々木:
「日産は今ゴーン氏の問題で大騒ぎしていましたが、日産がちゃんとした経営をしていれば、ああいうことにならなかったと私は思います。

日産がおかしなことになってしまったから、ゴーン氏が社長になり、テコ入れして良方に向かうかと思っていたら、あんな大ごとになってしまった。

ゴーン氏がくる前に日産が経営をちゃんとしていれば、ああいうことにはならなかったんです。

孫子の言葉の中に、『戦いは、正を以って合し、奇を以って勝つ(戦いは堂々と正面から相手と向き合って、奇策を使って勝つことが大切だ)』というのがあります。

これを私なりに解釈すると、『仕事において普段は正論を吐いていることが大切ですが、時には奇をてらった方法で仕事をこなすことも大切』なんです。

元日弁連の会長だった中坊公平さんが、上司として、部下を動かす時に大切なのは、
『正面の理 側面の情 背面の恐怖』
だとおっしゃっていたことがあります。

これは、
『普通のことは正面から正論で説きなさい。横から情けをかけなさい』
でも、
『言うことを聞かなかったら、その時はわかってるな』
というのが背面の恐怖なんです。

これは管理における一つのポイントで、丁寧に説明したり説得するのはいいけれども、言うことを聞かなかったり、反抗したり、一度チームで決めたことを破ったりしたら、その時はわかっているなということを伝えることが大切なんですね」

━━温厚そうな佐々木さんからは、想像できない発言です。

佐々木:
「私もサラリーマン時代に、チームで決めたことを守らなかったり、約束を破ったりした部下には、相応のペナルティーを与えていました。

基本的に部下には自由闊達に働かせていましたが、締めるところは締めないと、人というのや易きに流れるんですね。

『佐々木さんは優しい人だ』だけなら、仕事をやらない人間が出てくるんです。でも『佐々木さんは時々怖いことをする』というイメージを植え付けないといけないと思うんです。でないと人は従わないんです。従わないとチームが成立しないんです」

━━「思いやり」と「怖さ」が組織を強くするんですね

佐々木:
「私が現役の時、部下たちは『佐々木さんは仕事でモチベーションを上げてくれるんだけど、時には怖いんだ』って噂していました(笑)。

だからといって、部下を力や権力でおさえつけろ、ということではありません。

私は部下たちに、人間にとって一番大切なのは思いやりだよ、と説いていました。

私は『ビジネスマンに送る 生きる論語』という本を書いたことがあるのですが、孔子が一番大事な言葉だと言っていたのが『仁』という言葉です。

「仁」というのは、言い換えれば思いやりです。あれだけの素晴らしい思想家が、人間の徳の中で思いやりが一番大切だと言っているのです。

しかし思いやりだけではダメで、時には『怖さ』というのも教えないといけないと思っています。

組織の管理の要諦は、『自由と規律をどう取っていくか』なんですね。

部下には自由に議論してもらって、大いに意見を出してもらってもいいんです。

ただ方針が決まったらそれには従ってもらう。これを徹底しないといけません」

「働き方改革」というと、ロジカルでシステマティックに組織を変え、そこにヒューマンスキルや義理人情は介在しないかと思っていたのですが、結局仕事は「人」が回していくもの。

だから大切なのは「仁」である、という発想はとても意外でした。

次回はその辺りをもう少しお聞きしたいと思います。
(つづく)

全ての残業が「悪」ではない|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第1話
効率化のための10のヒント|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第2話
効率の良い組織に必要なこと|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第3話
信頼関係が、仕事の効率化を産むんです|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第4
敵が最大の味方になる時がある|元東レ経営研究所所長・佐々木常夫 第5話

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