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ジェネリック医薬品の可能性とは?|日本ジェネリック製薬協会 田中俊幸 中編

前回に引き続き、知っているようで知らない、ジェネリック医薬品についてのお話です。

最近多くの人にその存在が広まってきているジェネリック医薬品に関して、深く掘り下げるべく専門家に取材をしているこの連載。

今回は多くの人が抱いているジェネリック医薬品の「誤解」について、前回と同様、
日本ジェネリック製薬協会の田中俊幸先生に、話をお聞きしたいと思います。
(※なお、文中の敬称は省略しています)

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田中俊幸(たなか・としゆき)
日本ジェネリック製薬協会 政策委員会 実務委員長
慶應義塾大学商学部卒業後、銀行勤務を経て、平成22年4月に東和薬品株式会社へ入社。平成25年に日本ジェネリック製薬協会 総務委員長に就任、その後、渉外統括部長を経て、現職に至る。

ジェネリックの本質は「高い安心度」


――前回のお話で、ジェネリック医薬品というのは、権利が切れたものを、右から左に再発売しているわけではないということはわかりました。

田中俊幸氏(以下、田中):
「ジェネリック医薬品のことをよくご存じでない人の中には『賞味期限の切れた薬だろ』と言う方もおられます。

また『特許が切れたのをいいことに、新薬メーカーが苦労して開発した有効成分を、盗人みたいに使っているのだろう』などと言う方すら存在します。

日本人には『安かろう、悪かろう』という意識があるのかもしれません。裏を返せば、ブランド志向が強いのかもしれません。

だから、ジェネリック医薬品を〈まがいもの〉だと考える人が多いのかもしれません」

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――しばらく前まで、私も似たような認識でした。

田中:
「実際に、患者さんの中には『ジェネリック医薬品は効かない』と訴える方が少なからずいらっしゃる。

有効成分が同じであり、先発品と治療学的に同じ製剤ですので、これはありえない話です。

確実に先生の指示通りに服用頂ければ、効果は同じになるはずです。

ただ、薬には『プラセボ効果』があります。これは『よく効く薬です』と言って提供すると、ただの小麦粉の粒でも病気が良くなると思ってしまう、一種の暗示のことです。

これがジェネリック医薬品では逆に働く場合がある。『ジェネリック医薬品なんか効かないよ』と思って服用すると、効かなくなることがあるわけです」

――自分で自分に暗示をかけてしまうのですね。

田中:
「また患者さんだけでなく、ある一部の医師や薬剤師の先生の中には『ジェネリック医薬品は好きではない』と公言する人もいます。

このような場合、お気持ちは少しわかります。というのは、その方たちが学生だった頃は、ジェネリック医薬品が少なく、情報に触れる機会がほとんどなかったからです。

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また、30年以上前のジェネリック医薬品は、実際に品質が低かったという事もあるようです。

新薬の特許が切れると、あちこちの医薬品メーカーからゾロゾロと発売されるので『ゾロ』と俗称されていたのも、その時期の呼称でした。当時は『ジェネリック』という言葉すらなかった。現在はこのようなことはありません」

――本当でしょうか?

田中:
「本当です。なぜなら、ジェネリック医薬品は、先発品によって、有効成分の有効性と安全性が、すでに確かめられた薬だからです。

先ほど述べたように、新薬は多くの臨床試験を経て世の中に出ます。

しかしながら、実際に臨床現場では、臨床試験の何十倍、何百倍もの多様な患者さんに使われますので、臨床試験では見つからなかった思いもよらない副作用が見つかることがあります。

これは製薬業界ではままあることです。むしろこの『思わぬ副作用』との戦いが、製薬業界の歴史とも言えます。

そして、新薬の再審査期間において、このような思わぬ副作用の多くは確認されることになりますので、より安全性が確立したものがジェネリック医薬品になるのです。

つまり、『安心度』は新薬よりもジェネリック医薬品のほうが高いと思います」

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新薬とジェネリックのビジネスモデルのちがい

――さきほど新薬とジェネリックのちがいは、製剤工夫だとおっしゃいました。他にはどんなちがいがあるのでしょう?

田中:
「製造コストの違いでしょうか。恐らく製造コストは、新薬よりジェネリック医薬品のほうが高いかと思います」

――それは意外です。なぜですか?

田中:
「ご説明するには、新薬を開発する新薬メーカーとジェネリック医薬品メーカーの違いをご理解していただく必要があります。実は、この2つは、『薬を製造する』という面では同じであるにもかかわらず、ビジネスモデルが全く違うのです」

――どういう意味でしょうか?

田中:
「わかりやすく言うと、新薬メーカーは『研究開発型』です。新薬開発に莫大なコストをかけ、その分を大量生産によって回収します。大量生産ですから、薬1個当たりの製造コストは低く抑えられます。

一方、ジェネリック医薬品メーカーは少量多品種の生産が基本です。同じ製造ラインを使って、日によって製造する薬を変えるのです。そのたびにライン全体を洗浄します。

洗浄といっても通常のレベルではありません。なぜなら前に製造していた薬の成分が残っている(製造ラインの残留物)と、安全性に影響を与えるケースが起こる事があるからです。

洗浄は1週間以上製造ラインを止めるようなものもあり、徹底的に行います。

よって、製造コストはジェネリック医薬品のほうが高くなる可能性があります」

――なるほど。他にはどんな点に先発品とジェネリック医薬品にちがいがあるのでしょうか?

田中:
「これは患者のみなさんには関係ありませんが、販売方法に違いがあります。

新薬メーカーは独自の薬を作り特許で守られているので、価格競争が強く起きるわけではありません。だから医薬品卸に卸していました。

一方、ジェネリック医薬品は多くのメーカーがあり、医薬品卸を経由すると価格競争が起きます。それを避けるために、メーカーが薬局や病院へ直接販売していたのです。

とはいえ、ジェネリック医薬品メーカーは規模が大きくないので、全国に直販網を持つことはできません。そこで販売代理店網を構築するという方法を採っていました」

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――以前に比べて、ジェネリック医薬品の比率が高まったと聞いています。そうなると流通経路も変わるのでは?

田中:
「おっしゃる通りです。ジェネリック医薬品の使用促進が始まると、直販では、十分対応しきれなくなったと思います。

なぜなら、各病院と取引を開始するには入札を経なければならないのですが、ジェネリック医薬品メーカーはその入札の権利を持っていませんでした。

最近では、ジェネリック医薬品メーカーも、医薬品卸を通すようになりました」

なぜジェネリック医薬品が推進されているのか?

――ジェネリック医薬品メーカーが新薬メーカーとは異なるという点は理解できました。では、今なぜ、ジェネリック医薬品が注目されているのですか?

田中:
「それを語るには、日本の医療制度をめぐる環境の変遷をひもとかなければいけません。

そもそも日本の医療制度は、1961年に制定された国民皆保険制度が基礎にあります。

その後、1973年には老人医療費支給制度が設けられ、高齢者の費用負担がゼロになりました。それからの医療制度は、人口ボーナス期にあった日本の高度経済成長が支えました。

1980年代に入ると医療費が膨れ上がりますが、バブル期に向かっていた時代だったため、大きく問題化はされませんでした。

ところがバブル経済崩壊後、同時に少子高齢化が進むと、このままでは国の医療制度を維持できないということがわかりました。

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そこで、新薬よりも公定薬価が低いジェネリック医薬品の利用を促進して、医療費を減らそうという動きが始まったのです。

これが2002年で、それ以降さまざまなジェネリック医薬品の使用促進策がとられてきました」

――なるほど。

田中:
「さらに政府は、医療制度を維持していくために、2007年に『経済財政改革の基本方針2007』(閣議決定)を策定し、これに具体的な数値目標を加えた『後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム』(厚生労働省)を発表しました。

その後、2015年の『経済財政運営と改革の基本方針について2015』(閣議決定)において、ジェネリック医薬品の比率を70~80%にしようという目標が定められました。

この目標値は、ジェネリック医薬品メーカーだけでなく、新薬メーカーや流通にも大きなインパクトとなりました。

これらに対応するべく、厚生労働省は、『医薬品産業強化総合戦略』と『医療用医薬品の流通改善の促進について』を矢継ぎ早に発表しました」

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――最後の2つは、何についての発表だったのですか?

田中:
「前者は、ごく簡潔に言うと『ちゃんとした新薬を開発できない新薬メーカーは市場から撤退しなさい』という提言です。

実は現在、日本の新薬開発は低調なのです。新薬開発が対象とする病気の種類が変わってきたからです。

以前は、インフルエンザなどのように、外部から体内に侵入した菌やウイルスによる病気(いわゆる感染症)が主で、その薬は菌やウイルスをターゲットにすればよかった。

ところが最近は、生活習慣病に代表される、生活習慣に起因する病気が新薬開発のターゲットになりました。

高血圧症、高脂血症、糖尿病や肺がんなどのがんなどもそこに含まれます。しかし、この種の病気は個体差が大きく、原因もまちまちなので臨床試験の被験者数を多く設定するなど大規模臨床試験が必要となります。

よって、承認申請に至るまでに時間が掛るなど、上市までに長期の時間とコストが必要になります。

今では創薬が新薬につながる確率は、極めて低い確率なのです。これを支えるには巨額の費用がかかります。

最近、売上高世界第2位のファイザーですら、認知症の開発を打ち切ったと聞いています。

さらに進んで、最近では医療から未病(予防)のための薬にシフトしつつあります。規模の小さい日本の新薬メーカー(国内トップの武田薬品工業も世界では18位程度)は、こうした高いコストをきらって、新薬開発の分野を絞り込むないしは手を引いているのです。

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だから、このような提言が登場したというわけです。

一方、後者は『ジェネリック医薬品の取扱いが増えるのだから、ビジネスモデルをちゃんと整備しなさい』という提言です」

ジェネリック医薬品の需要が増えているその裏側では、様々な課題が潜んでいることを知ることができました。次回は日本におけるジェネリック医薬品のこれからについて、お聞きしたいと思います。

ジェネリック医薬品を正しく知る|日本ジェネリック製薬協会 田中俊幸 前編
ジェネリック医薬品の可能性とは?|日本ジェネリック製薬協会 田中俊幸 中編
ジェネリック医薬品の将来を語る|日本ジェネリック製薬協会 田中俊幸 後編

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