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企業が見るべき、人工知能の先にあること|第3話 東京大学広域システム科学系教授/人工生命研究者・池上高志教授

文/吉田真緒、写真/荻原美津雄、取材・編集/FOUND編集部

コンピューターにできないのは、長く生きようとすること

編集長:
人間にできてコンピューターにできないことのひとつに、“直感”があるのではないかな、と思います。直感も人工生命の研究対象になるのでしょうか?

池上:
どうでしょう。直感って答えがまったくないところに急に浮かぶのではなく、既にある膨大なデータのなかから、どうやって答えへの道筋をつくるかという問題に僕には思える。

だから逆に、直感に見えるものは、すぐにつくれそうな気がします。

僕が人間とコンピューターの違いとして特別視しているのは、人間は放っておいても100年くらい生きられるということ。

自分で自分をメンテナンスしながら、そんなに長くもつシステムは、いまの技術ではつくれません。

車は10年乗れば長いと言われますよね。家だって40~50年。飛行機や電車も、どんなに整備をしても100年もちません。

Long Now Foundation」という人工生命の研究者も関わっている団体が、1万年もつ時計を設置するプロジェクトを10年くらい前から進めています。

環境変化の少ないアメリカのネバダ砂漠の地下に、静かに1万年動き続ける巨大なメカニカルな時計を備え付けているんです。

そういう、文化や生命が当たり前に持っている、長く生きようとがんばる性質や、セルフメンテナンスをする機能は、これまで開発されてこなかった。

長いスパンで時間を考えられるシステムは、いまの人類にはないということです。それも、人工生命をもとに開発される可能性がある。

人工知能だけでは企業は行き詰まる?

吉田:
立ち上げたばかりだという株式会社オルタナティヴ・マシンでは、どのようなことをされているんですか?

池上:
人工生命の技術を社会に使えないかというオファーが、企業などいろんなところから多くて、いまはコンサルタントのようなことをしています。

7月に人工生命国際会議「ALIFE 2018」を日本科学未来館で開催して、テーマが「BEYOND AI」でした。
いまのAI(人工知能)ブームの次に何が来るかといったら、やっぱり自律的なシステムであるALIFE(人工生命)だろうと。
そこを見ている企業は思った以上に多いです。

編集長:
先進的な起業家やベンチャー企業が集まってきそうですね。

池上:
そんなことはないです。むしろ、大きな企業の方が多いです。
行き詰まりを感じて、何かしなきゃと思っているんじゃないかな。

ディープラーニングをちょっとやるとわかります。特定のフィルタリングや選別に使えても、それ以上のことができない。
だから、みんなびっくりするんです。「ちょっと違ったな」と。それで次の展開をどうしようかとなるわけです。

編集長:
これからの時代に向けて、どういうプロダクトやサービスを開発するべきかという課題もありますよね。

池上:
一端としてはそうですね。例えば自動運転の次は自律的な車をつくろうと、当然みんな考えますよね。
人工知能だけの運転では、「トロッコ問題」などの意志決定の問題にぶつかるじゃないですか。

【トロッコ問題】

倫理や義務を問う古典的な思考実験。正解が決められているものではない。
問題:線路を走るトロッコのブレーキがきかなくなった。線路の先では5人の作業員が作業をしており、このままでは轢かれてしまう。その手前にある分岐点でレバーを引けば別の路線に入り5人の命は助かるが、その路線では1人の作業員が作業をしていて、代わりに轢かれてしまう。あなたはレバーを引く? 引かない?

参照:小学館デジタル大辞泉

それから、車のナビゲーションっていまのままでいいと思いますか? あれもナビの指示をするだけなんですが、、車に限らず、自律的で自己決定できるようにした方がいいプロダクトは、いくつもあります。しかし、そのときに意思決定の問題を別なものに置き換えたい。

編集長:
まさに“BEYOND AI(人工知能を超えて)”ですね

いかに世界的な文脈で考えられるか

池上:しかも時間との勝負になっている。過去100年の発展といまの10年の発展が同じくらいだとも言われている。

いまの大企業は、20世紀にちゃんとしたところに目をつけたから成長できた。けれどいま、当時の価値観が変わろうとしている。
しかも、その速度が思ったより早いことが、日々肌で感じられる。
従業員が多い企業ほどつぶれたら大変なことになるから、どうしたらいいか、どこもすごく考えていると思いますよ。

編集長:
大きな企業であるほど、価値観が古いままというイメージがあります。

池上:
そういう企業は厳しいでしょうね。

AmazonもGoogleもFacebookも、出て来たのはここ10年くらいでしょ。
20年前の世界のトップ企業というと、日本企業ばかりでした。

いま日本企業は上位30社にも入っていない。どう思われますか?

重要なのは、どれくらい広い視野で動いているかではないでしょうか。進んだ企業ほどセンシティブになるのは全然不思議なことではない。

GoogleやFacebookはいま、脳科学や量子計算、バイオケミストリーの研究開発に力を入れています。彼らが、同じ分野を永遠にやるわけはない。僕は当たり前の選択だと思います。

その反対に、一つ決めたらまっしぐら。変えようとしないのが日本の企業のが傾向だとしたら、それはどうしてなのでしょうか。

これに関して、ひとつ思うところがあります。

日本の場合には、学校で学んだことと社会で必要なことは別だと思っている節がありませんか。

でも、個人にしても企業にしても、学校で学んだことをベースにして社会で戦うしかないじゃないですか。

ニュートンの方程式を学んだら、その方程式で身近な何かを考えてみるのは、当たり前ですよね。

でも日本人はそうはならない。ニュートンの方程式は学校だけの話だと思っている。そういうところが、発想を狭めているように感じます。



企業が本当に成長を目指すなら、目の付けどころが大切になると言います。

そして、世界の文脈、動き、背景というものをどれだけ捉えられる力があるか、学問と社会をシームレスにつなぐことが勝負の分れ目になるだろう、と教えてくれました。

(池上先生ご自身が実践する、アカデミックな知恵、知識を、経済の分野に直接的に活かそうとする動きも、非常に興味深いものがありましたね)さて、いよいよ次回は最終回です。

池上先生は、人工生命がいる未来について、衝撃的な考え方を教えてくれます。

つづく


東京大学広域システム科学系教授
人工生命研究者・池上高志教授インタビュー

第1話 人工知能の先の世界をいく人工生命とは何か? Beyond AI
第2話 人工生命と人工知能は、何が違うのか?
第3話 企業が見るべき、人工知能の先にあること 
第4話 人工生命がつくる、ほんとうのユートピア 


吉田真緒

ライター、編集者。早稲田大学第二文学部卒業。編集制作会社勤務を経て2012年に独立。まちづくりやコミュニティ、美容・健康、ITなど幅広いテーマで取材、執筆をし、多数の媒体づくりに携わる。共著に『東川スタイル』(産学社)がある。

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