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ディープラーニングが革新するロボット産業・前編|早稲田大学教授 尾形哲也

■ 話を聞いた人

尾形哲也(おがた・てつや)氏
1993年に早稲田大学理工学部機械工学科を卒業。現在、早稲田大学基幹理工学部表現工学科にて教授を務める。2013年に日本ロボット学会理事、2016年に人工知能学会理事にそれぞれ就任。2017年より産業技術総合研究所人工知能研究センター特定フェロー、2018年より早稲田大学研究推進部副部長。ロボットと人工知能の両分野に精通する日本屈指の専門家として、企業との共同研究なども旺盛に行う。

画像・音声認識や自然言語処理(人間が使用する言語をコンピューターに処理させる技術)などの分野で高い精度を実現するディープラーニング(深層学習)は、社会およびビジネス課題を解決する最新技術として期待を集めています。

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ディープラーニングが技術トレンドとして浮上し数年が経過した現在、同技術はさまざまな産業へ応用されつつあります。日本が競争力を誇る「ロボット産業」もそのひとつです。人工知能(AI)の最新技術であるディープラーニングとロボットは、いまどのように融合しようとしているのか。

両分野に精通する世界的権威である早稲田大学・尾形哲也教授にお話しをお伺いしました。

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ロボットとディープラーニングの現在進行形の関係を語る際、その文脈は大きくふたつあると尾形氏は言います。ひとつは、サービスロボットのひとつにカテゴライズされている「コミュニケーションロボット」の能力向上です。

ソフトバンクのロボット・ペッパーが例として最適かもしれません。人工知能を搭載したコミュニケーションロボットは、人間の言葉や表情、声を「認識」し感情を読み取り、適切なリアクションや反応を示したり、時に人間のような感情表現を行うことができるようになってきています。

尾形氏はそれらをいわゆる「情報系(IT系)のロボット」と表現します。カメラ、スピーカー、マイクなどを使って外部の情報を収集し、人間に情報や、コミュニケーション、精神的サポートなど「非モノ」をサービスとして提供するロボットです。

言い換えれば、PCやタブレットの延長、もしくはそれらを“擬人化”したものが、ディープラーニングの力で一定の能力を獲得することに成功しているということになります。

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尾形教授:
「コミュニケーションロボットの能力は、ディープラーニングを取り入れることで大きく向上しています。例えば、人間と機械が自然言語を取り交わすための『対話システム』。

現在、スマートスピーカーやAIアシスタントの言語認識能力の向上はめざましいですよね。それら認識能力は対話に限らず拡張されていくでしょう」

一方で、工場や倉庫などで実際にモノを触ったり、動かすというタスクが要求される「産業用ロボット」にも、ディープラーニングを応用しようという世界的な流れが徐々に生まれています。

なお、産業用ロボットにディープラーニングを使うというコンセプトが世に広まり始めたのは2015年から、また世界の学術系トップカンファレンスで「産業用ロボット×ディープラーニング」というキーワードが注目され始めたのはつい2年前、2017年からだと尾形氏は業界事情を説明します。

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尾形教授:
「産業用ロボットにディープラーニングを使うことを想定した上で、最初に研究が進んだ分野は『ビジョンシステム』。

ロボットに物体の位置や掴む箇所を正確に認識させるというような研究です。ロボットの『視覚』と説明した方が分かりやすいかもしれませんね。

意外かもしれませんが、一昔前までの産業用ロボットは物体の位置を正確かつ柔軟に把握するという能力を与えることすらとても大変なことだったったんですよ。それが、ディープラーニングの登場で事情が変わってきた。

また、今年5月に開催された米国電気電子学会(IEEE)が主催する世界トップカンファレンス『ICRA』では、『視覚』だけでなく、『触覚』や『力覚』の能力を向上させるためのディープラーニング研究事例などが多く発表・評価されています」

ここで少し補足する必要があるかもしれません。従来の産業用ロボットは、人間がその動きをこと細かくプログラムすることで稼働してきました。

例えば、工場の生産ラインがあるとして、流れてくる部品や材料の形やスピードなど外部環境をすべて人間が一定に揃えた上で、さらに正確にモノを取り上げたり、吸い付けたりできるよう、1から10まで人間がロボットの動きを制御(プログラミング)していたのです。

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また従来の産業用ロボットは、柔らかい、もしくは形が異なるモノを同時に扱うことがほぼほぼ不可能でした。人間のように、現場で柔軟かつ即時に状況を判断し、モノの性質によって対応すること困難だったのです。そのため、自動車や家電など大規模な設備投資が行える大企業にとっては生産性を高めるツールになりえましたが、ピッキングや仕分け、化粧品や食料品など、扱う対象の形が一定ではない産業では戦力足りえなかったのです。

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しかし、ディープラーニングの登場は、そのような産業用ロボットの“常識”を覆そうとしています。産業用ロボットが視覚や触覚、力覚を持ち、より人間のような判断や柔軟な作業が可能になろうとしているのです。もちろん、人間より力持ちであるというロボットのアドバンテージは変わることがありません。

加えて、極端な例を言えば、豆腐と大根が一緒に流れてくる生産ラインでも持ち上げたり、握る力をそれぞれ最適化したり、段ボールに雑然と詰め込まれた対象物を自律的に判断して仕訳けたりすることができるようになろうとしているのです。

しかも、ディープラーニングの最大の特徴は、環境のモデリングや認識システムのプログラミングを大幅に省略できること。データを大量に与えることで、ロボット(もしくは機械)自ら最適な判断の基準、もしくは動きを“生み出す”という特徴があります。

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尾形教授:
「産業用ロボット分野におけるディープラーニング研究は、これからまさに始まろうとしている段階です。

しかし、その注目度は年々高まっています。先ほど申し上げたICRAの参加者はここ数年、約2000人で推移していました。しかし、2019年は2倍の4000人ほどまでにいたっています。そもそも、ロボット学会関連のカンファレンスは1000~2000人が参加したら『すごい!』とされていたのにもかかわらずです」

同分野に参画する研究者が増えるにしたがい、論文数というアカデミアの視点でいえばロボット大国・日本の地位も変化を遂げ始めていると尾形氏は状況を説明します。

尾形教授:
「2019年時点で日本の論文数は第7位となっています。ここ10~20年前までは、日米がツートップ。

ここ数年でドイツが入ってきて三者三つ巴という感じでした。しかし、昨年頃から中国が台頭して2位に。今回、日本はスイスや英国にも抜かれて7位となってしまったのです。

これは日本の研究力が落ちたという見方もできるのですが、私個人的には周囲の国の研究力が伸びたという認識。

産業への応用という意味では日本にアドバンテージが残っている側面もあるのですが、とかくアカデミアの世界では地殻変動が起きているのが実情です」

尾形氏は産業用ロボットとディープラーニングの融合は、将来的に企業の競争力を担保する源泉になると主張します。

後編では、尾形氏が関わっている具体的なプロジェクト&研究事例についてお伺いしつつ、産業用ロボットとディープラーニングを取り巻く日本の状況についてもう一歩踏み入ってみたいと思います。

後編に続きます。

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取材・文/河鐘基(ロボティア)、写真/荻原美津雄、取材・編集/FOUND編集部

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