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ウォーレン・バフェットとは何者か?|経済・経営ジャーナリスト・桑原晃弥 前編

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

ウォーレン・バフェット──投資になじみのない方には、聞いたことがない名前かもしれません。

約50年前に、倒産寸前の繊維会社を買収し、2019年4月現在で時価総額5200億ドル*にまで成長した会社の会長兼CEOで、今年(2019年)で89歳になります。(*参考URL)

そんな大会社の会長さんと聞くと、さぞかし大金持ちで優雅な暮らしをしている大富豪、金の亡者で資本主義経済の権化、のような存在をイメージするかもしれません。

さて、ウォーレン・バフェットは、どんな人物なのでしょうか?

本当に「金の亡者」なのでしょうか?

投資がわからない人でもわかる、ウォーレン・バフェット入門、全3回のはじまりです。

お話を聞いたのは、ウォーレン・バフェットに関する様々な書籍を書いている、経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥さんです。

桑原 晃弥(くわばら てるや) 
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。トヨタ式の普及で有名な、若松義人氏の会社の顧問としてトヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導する一方で、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスなど成功した起業家の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。著書に『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『ウォーレン・バフェット巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)、『トヨタ式5W1H思考』(KADOKAWA)、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)、『amazonの哲学』(大和文庫)などがある。

負けを知らない天才投資家

――まず最初にお聞きしたいのが、ウォーレン・バフェットはどういう人なのですか?

桑原晃弥氏(以下、桑原):
「彼は6歳で商売を、9歳で株取引をはじめました。

本格化するのは大学生になってからですが、その頃から『負け知らず』で、とうとう世界有数の大富豪にまでのぼりつめた人物です。

しかし、今日の『デイトレーダー』みたいに日々、株の売り買いをしたのではありません。

そこが彼の特徴であり、多くの信奉者を生み出した点です。

ちなみに彼は、米国ネブラスカ州オマハにあるバークシャー・ハサウェイ社を本拠にしています。

同社は1888年に綿紡績業として設立されましたが、米国繊維産業の衰退とともに凋落。以前から株を保有していたバフェットが、1965年に買収した時は倒産寸前でした。

その後、バフェットの手により事業の多角化に成功します。そして20を超える事業を展開し、現在に至っています」

――バフェットのどういう点が投資家としてすぐれていたのでしょう?

桑原:
「まずは『自分の得意分野しか手を出さない』という点です。

多くの株式投資家は、
『あそこの企業が好調らしい』
『あの分野がこれから儲かるみたいだ』
といった情報から投資先を選びます。

しかし彼は、自分の得意分野を絞り、その中で有能な経営者が運営している企業を探し、しかも株価が割安な銘柄を選んで投資するという方法をとります。

あたかも『株券ではなく、会社を買う』のです。

次に、その株式を長く保有します。短期的な投資をしません。デイトレーダーを目指す人には物足りないかもしれません。

しかし、日々の株価に一喜一憂しなくても、負け知らずになれるという事実は、これから投資をはじめようと考える人には参考になるでしょう。

バフェットはこう言っています。

『せっかちにならずに健全な投資を追求すれば、誰でも大きな資産を築けると私は考えています。少なくとも貧乏になることはありません』」

――彼を投資に駆り立てているものは何ですか?

桑原:
「『お金が増えるのが大好きだ』ということだと思います。

そうでなければ6歳から商売を始めたりしません。同じく伝説的な投資家としてしばしば名前が挙がるジム・ロジャースも、同じく6歳で商売を始めました。

子供の頃に小さな商売で少しずつお金を貯め、学生になるとそれを運用する。そして、それを元手に投資家として活動するというパターンは、米国では多いようです」

バフェットは「人生のメンター」

――投資家として、たぐいまれな存在であることはわかりました。しかしそれ以上に『人生の達人』として名高いと聞いたことがあります。

桑原:
「『神様』や『賢人』などと呼ばれています。こんなふうに称される投資家は、彼しかいません」

――なぜ、そう呼ばれるのですか?

桑原:
「『投資家』という言葉から想像される、『強欲な人間』とは正反対の人物だからです。

彼は『お金は社会からの預かりもの』と言っています。

莫大な財産を築いたにもかかわらず、つつましやかな生活を送り、慈善事業にその大半を寄付している。

彼の行動は、米国の成功者のよい側面を体現しているのです。それが『オマハ(バフェットの本拠地)の賢人』と呼ばれる理由です」

――少し話はずれますが、桑原さんはなぜ、バフェットを取り上げるようになったのでしょう?

桑原:
「米国のIT系企業の起業家たちの足跡、とくにGAFA(Google社、Amazon社、Facebook社、Apple社)を調べているうちに、軒並みバフェットの影響を受けているとわかったからです。

一番はっきりと表明したのはGoogle社です。

2004年に株式上場をした際、『創業者の手紙』(Founder’s Letter)を株主たちに送りました。その中で『ウォーレン・バフェットが言うように……』という言葉が登場しました」

――どういう内容だったのですか?

桑原:
「バフェットの師匠に、ベンジャミン・グレアムという投資家がいます。

そのグレアムは『株式市場は短期的には人気投票、長期的には重量計』だと述べています。

これは、株価には最終的に企業の質が反映されるという意味です。バフェットの投資の原則のひとつでもあります。

Google社は、この言葉を引用して、
『短期的な株価には目もくれない、それより長期的成長や世界にインパクトを与えるといったことを重要視する』
と記したわけです」

――なぜ、わざわざ『バフェットの引用』としたのでしょう?

桑原:
「実際にバフェットをすばらしいと考えているからです。

Google社だけに限りませんが、多くの経営者は、バフェットを、特別な投資家だと思っているふしがあります。

だから『バフェットが言っているなら仕方がない』とウォール街を黙らせることができる」

――すごい影響力です。ただの投資家なのに。

桑原:
「それは誤解です。彼はバークシャー・ハサウェイ社の経営者でもあり、そこでも非凡な実績を上げているのです。

日本ではあまり知られていませんが、同社は2019年2月の世界時価総額ランキングで5位です。

1位がMicrosoft社、2位がApple社、3位がAmazon社、4位がAlphabet社(Googleの持ち株会社)ですから、その価値がわかるはずです。

ちなみに中国のアリババ・グループやFacebook社より上位です」

――経営者としても一流ということですね。

桑原:
「それだけではありません。こういうエピソードがあります。バフェットは『ワシントン・ポスト』紙の大株主です。

同社の経営者を長く務め、ウォーターゲート事件報道で一躍名を馳せたキャサリン・グラハムは、バフェットから、経営のノウハウを教わりました。

その後、キャサリンは後継者のドナルド・グラハムにバフェットの教えを伝えた。

さらに2004年のある日、ドナルドの元へある青年が訪ねてきます。CEOの在り方について教えてくれというのです。

その青年が19歳でFacebook社を立ち上げた、マーク・ザッカーバーグでした。ということは、彼の経営もバフェットの影響を受けているはずです」

――他には?

桑原:
「ビル・ゲイツとバフェットの関係は、すでに知っている人も多いでしょう。二人は無二の親友です。

キャサリン・グラハムの紹介で知り合った時、二人はすでに世界的資産家でしたが、すぐに意気投合しました。

バフェットは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団に、個人資産の7割に当たる約300億ドルの寄付を行っています。

またゲイツは、生き方、経営に関して多大な影響をバフェットから受けています。

その他にも、アマゾン社のジェフ・ベゾスも影響を受けた人物として、バフェットを挙げている。

直接薫陶を受けた者だけでなく、若い経営者はみんなが、何らかの影響を受けていると言っていいでしょう」

――まるで思想家みたいです。

桑原:
「思想家というより、メンター(指導者)のほうが近いでしょう。

彼らが私淑している人物として名前を挙げるのは、たいていウォルト・ディズニーとウォーレン・バフェットです。

『バフェットのようにありたい』とか『バフェットならこう考える』といった発言する経営者がとても多いんです。

GAFA各社はどこも、世界制覇を目指して急スピードで拡大しています。そのためには、経営者は絶対権力者でなければいけない。

というわけで、これらの企業は、外部の人間が容易に乗っ取ることのできない仕組みを備えています。

実はこの仕組みも『ワシントン・ポスト』社が使った手法にヒントを得ている、と批判をかわしたそうです」

――ずいぶん実践的な教えです。

桑原:
「バフェットの教えは、実利的な面だけではありません。

たとえば、彼の『企業がもうけたお金というのは、社会からの預かりものなので、いずれ社会に返さなければならない』という考えも共感を呼びました。

実際、GAFAやマイクロソフトの創業者は、慈善事業や社会貢献に熱心です。

こうした『企業は、ウォール街のためにあるのではない』というバフェットの考え方が、GAFAの経営者たちにはぴったりきたのではないでしょうか」

――バフェットは、彼らを意識して発言していたのですか?

桑原:
「彼が発言していたのは、IT企業が勃興する前からです。当時、彼はあくまで投資の世界だけの神様でした。

変化が起きたのは2000年です。米国でITバブルが弾けたのがきっかけです。

たとえばアマゾンの株価は、2000年12月の113ドルから2001年11月には5ドルまで急落した。

その渦中で『バフェットは正しかった』と述べたのが、アマゾンの経営者ジェフ・ベゾスでした。

ここからバフェットの再評価が始まり、前述した2004年のGoogle社の『創業者の手紙』で一気に広がったのです。

とはいえ、バフェット自身は、ずっと同じことをやっていたにすぎません。時代遅れだと揶揄されていた時代にも、皮肉を込めてこんなことを言っていました。

『多くの証券マンや学者が自分を批判するけれど、じゃあなぜ、私のほうが金持ちなんだい?』」

いかがですか?

「大富豪」と聞くと、強欲なお金持ちで高級車を乗り回して贅沢三昧というイメージを持っていた人は、目からウロコだったのではないでしょいうか?

まさに聖人のようなウォーレン・バフェット。

次回は彼の考える「能力」にフォーカスして、お話を聞きたいと思います。
(つづく)

ウォーレン・バフェットとは何者か?|経済・経営ジャーナリスト・桑原晃弥 前編
投資に大切な「能力の輪」とは?|経済・経営ジャーナリスト・桑原晃弥 中編
日本人は、バフェットに学べ|経済・経営ジャーナリスト・桑原晃弥 後編

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