人類の夢・不老不死とアンチエイジング|第1話 資生堂 アドバンストリサーチセンター主幹研究員 江連智暢

取材・文/河鐘基、写真/荻原美津雄、ロボティア、取材・編集/FOUND編集部

人生100歳時代のアンチエイジング

すべからくほとんどすべての生命にとって、「老い」は避けられない運命のようなものです。人類はその運命から逃れようと、太古の時代から実に多くの努力を傾けてきました。

中国の秦の始皇帝は、不老不死の霊薬を探すために数千人もの若い男女を探索に送りこみました。古代オリエント最大の文学作品とされる『ギルガメシュ叙事詩』にも、永遠の命を求める英雄たちのストーリーが描かれています。

「人魚の肉」や「仙人の桃」など、不老不死にまつわる話も世界各地に点在しています。

老いずに充実した日々をできるだけ長く送りたいとする人々の探究心は、「人生100歳時代」と表現されるまでに高齢化が進んだ現代においても衰えることを知りません。

アンチエイジングとは不老ではない

そしてその探究心の主な舞台は科学の領域にシフトし、「アンチエイジング」という言葉に集約・定着しています。

ところで、アンチエイジングと聞くと「まったく老いない」、もしくは「不老」のようなイメージを抱いてしまいがちですが、これは少しミスリードのような気もします(実際のところ、不老不死を目的とした世間離れした尖ったアンチエイジング研究も世界には存在しますが…)。

アンチエイジングは、「抗老化」「抗加齢」と日本語訳することができます。つまり、「老いることは止められないけれども、そのスピードをできるだけ遅くする」というニュアンスで捉える方が一般的だと思われます。

アンチエイジングという標語は、医療・ヘルスケア、食品、健康グッズ、トレーニング・ダイエットなど様々な業界で掲げられていますが、今回は美容業界に焦点を絞り、専門家の先生にお話しをお伺いすることにしました。

資生堂アドバンストリサーチセンター主幹研究員・江連智暢

編集部の「アンチエイジングには、本当に科学的根拠があるんですか?」「人々の欲に取り入っているだけではないんですか?」というような穿った姿勢の取材に対して快く応えてくれたのは、資生堂アドバンストリサーチセンター主幹研究員・江連智暢氏です。

江連氏は、国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)が主催する化粧品技術者の世界大会で、世界初となる3大会連続最優秀賞を受賞した「美容×アンチエイジング」のプロフェッショナル。『顔の老化のメカニズム』、『あたらしいアンチエイジングスキンケア』(ともに日刊工業新聞社)など、関連著書も多数執筆しています。

江連氏は、日本の化粧品業界で科学に基づいたアンチエイジングのコンセプトをいち早く取り入れてきた資生堂の研究員として、その後、その流れを業界全体に波及させる多くのプロジェクトに携わってきたと言います。

表面的な部分だけではなく、本質的な悩みに寄り添う

江連氏:
「2000年頃、化粧品業界は小じわや保湿など、皮膚の表面的な部分の対応に力を傾けていました。

しかし、多くの女性が悩んでいたのは、顔全体が垂れ下がってくるとか、鼻から口にかけてほうれい線がくっきり現れるとか、顔全体の大きな変化だったのです。

そこで資生堂としては、表面的な部分だけではなく、本質的な悩みに寄り添っていこうという方向に舵を切ることになりました。

そのイノベーティブな企業の体質が、日本の化粧品業界におけるアンチエイジングの端緒となりました」

顔が老化していく抜本的な理由は何か。江連氏はその謎を解明すべく会社に研究を提案。その後、すこしずつアンチエイジングのノウハウを積み重ねてきたのだそうです。

顔のたるみと重力の仕組みを調べるために逆立ち

江連氏:
「発足したばかりの研究チームメンバーは少数でして、当初は所員の女性研究員に協力してもらって手探りで研究を続けてきました。

顔のたるみは重力と関係していますが、その仕組みを調べるため皆さんに逆立ちしてもらったり(笑)。

いま考えると、笑えるような実験もたくさんあったのですが、時間の経過とともに肌の老化の実態が少しずつ見えてきたんです。

そのため、計測法や評価法などもまとめながら、科学論文として発表してきました」

資生堂の研究方針転換以降、表面的な対策だけでなく、より根本的なスキンケア=アンチエイジングの流れが本格化した化粧品業界ということになりそうですが、以前と比べてどのような点が変化したのでしょうか。

江連氏は「情報の精度が高まり、美容法など関連ノウハウも格段に充実した」ことを挙げます。

肌や顔の老化にはさまざまなファクター

江連氏:
「顔がなぜ老化するのかという理由を深く研究してみると、生活習慣の乱れが大きく作用していることが分かってきました。

ただし、不規則かつ偏った食生活、睡眠不足、過度な喫煙・飲酒などなど、生活習慣の乱れの内容は千差万別です。また肌の老化には個人差もあります。

例えば、顔のたるみは筋肉が衰えることが大きな要因の一つですが、人によっては皮下脂肪が多いため肌にダメージが起きてしまうケースがあります。その場合は、筋肉だけではなく脂肪に対応する必要がある。

そのように、肌や顔の老化にはさまざまなファクターがあるのですが、個別の原因に対する精度の高い情報を提供しながら、個人に適した成分が入った化粧品を提供できるようになった。

加えて関連する美容法もセットで提案できるようになってきたのが、アンチエイジング時代を迎えた業界の大きな変化だと思います」

ちなみに、シワは顔の動きが刻まれたもので、たくさん笑ったり怒ったりするとできやすいそうです。

それでも、しっかりと保湿したり、化粧品などで紫外線から防御することで、刻まれるスピードを遅らせることができると言います。

また、肌にとってタンパク質はとても重要で、過度なダイエットなど、栄養が偏ると顔の老化が進む原因となるそうです。

パーソナルな成分の提供

肌のシワも、肌のたるみと同じように原因を特定し、個人に合った方法でケアしていくことが重要だと江連氏は言います。

なお、資生堂では個人の肌の状態やその日の気候などを分析して、最適な化粧品を調合してくれる「オプチューン」という新製品のテスト販売も開始しています。

こちらは、IoTなど話題の技術を取り入れたもので、アンチエイジングを進化させる「パーソナルスキンケア」という領域を切り拓くさきがけ的な製品となりそうです。

江連氏:
「人間の肌という共通するベースがあっても、どういう表現型になっていくかは個々人によって大きく差があります。

一方で、化粧品は共感を生むなど感性的な部分も重視されます。個人に対する効能と社会的感性の両立が、これから先の化粧品業界の大きなテーマになるでしょう」

現代においては、アンチエイジングも多様化、個別化しています。そしてパーソナルなものになっていく時代の流れのなか、個々人にあった成分の提供と感性への共感が化粧品開発では大切になっていくようです。

でも、そもそもアンチエイジングというものは、どんな概念なのか? いつから、こんな風に世の中に広まったのか? 第2回では、江連氏の知見を頼りに、今一度、その根本を掘り起こしてみたいと思います。

つづき

資生堂 アドバンストリサーチセンター主幹研究員 江連智暢

第1話 人類の夢・不老不死とアンチエイジング
第2話 アンチエイジングは今日も変わりつづけている

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