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「現金主義」からどう抜け出すか?|消費生活ジャーナリスト 岩田昭男 第2話

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

日本政府はキャッシュレス化に力を入れていますが、思うようにこの国では進みません。

それはなぜでしょうか? 

今回も消費生活ジャーナリストの岩田さんにお話を伺います。

岩田昭男(いわた・あきお)
消費生活ジャーナリスト。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修士課程修了後、月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。NPO 法人「ICカードとカード教育を考える会」の理事長としてカード教育にも力を注ぐ。著書に「Suica一人勝ちの秘密」(中経出版)「信用力格差社会」(東洋経済新報社)「O2Oの衝撃」(CCCメディアハウス)など。ホームページ「上級カード道場」主催。

キャッシュレスは舗装道路

――日本政府はキャッシュレスを振興しています。どの方式を一番勧めているのでしょうか?

岩田昭男氏(以下、岩田):
「どれでもいいんだと思います。VISAをはじめカード業界は以前から唱えていたことですが、とにかく『現金は敵』だということです」

――なぜ「現金は敵」だと?

岩田:
「キャッシュレスはすべて電子決済だという点です。

クレジットカードは世界的にみると、まだ、『インプリンタ』といってカードの文字を伝票に写す機械を使っている地域があります。アナログの尻尾が残っている。

しかし取引自体はデジタルです。


しかし、政府も企業も、すべてを電子決済にしてしまいたい。
なぜなら、日本はキャッシュレス比率が低いからです。

2015年の調べでは、日本が18.4%、米国が45.0%、中国が60.0%、韓国が89.1%となっている。

韓国、中国といった東アジアの国が高い。これにライバル心を燃やしているんです。ライバル国の数字を見て、『なんだ、この低い数字は!』となっているわけです」

――なぜ日本では、なかなかキャッシュレスが広がらないんですか?

岩田:
「すばらしいインフラがあるからです。そして紙幣の印刷が美しい。盗難のおそれも低い。


もうひとつは偽札がたいへん少ない点です。中国などは偽札がとても多く、現金が信用できないんです。だからスマートフォンで決済したほうがよいとなったんです」

――日本では、親が子供に、
「クレジットカードは要するに借金だから絶対つくるな」
と言っていた時期がありました。

岩田:
「いまだに言っている人はいますよね。クレジットカードはだめ、借金はだめと。

ああいう考えが親から子へ代々受け継がれているのは、キャッシュレスを推進するうえでまずいと思います」

――キャッシュレスの便利さが知れ渡れば、普及に拍車がかかるのではないでしょうか?

岩田:
「私は、現金を使っている状態を『砂利道』、キャッシュレスの状態を『舗装道路』だと考えています。

キャッシュレスになれば、支払いがスピーディーになり、他の利便性も向上する。

ただ悪い点もある。それは舗装道路になるとスピードを出しやすくなり事故が大きくなるのと同じように、キャッシュレスでも、不正利用のような事故で被害規模が大きくなる点です。


しかし現金の習慣をキャッシュレスに変えるのは、道路を整備するのと同じで、それほどたいへんではないんです。新しく飛行機を発明する必要があるわけではないからです。

それから、すでに20%近く普及し、中韓では劇的に伸びているわけですから。だからキャッシュレスの動きは今後もスピードを増すでしょう」

日本人の意識を変える方法

――とはいえ、日本の現金主義は根強いものがあります。
たとえば、来年の東京五輪・パラリンピックなどは起爆剤になるでしょうか?

岩田:
「なると思います。イベント効果に加えて、本年(2019年)10月の消費税率アップに合わせて、キャッシュレス決済を行った場合に購入額の5%程度をポイント還元されることになりそうです。

これも効果があるでしょう」

――業界はどんな手を打っていますか?

岩田:
「意識を変えてもらうにはいろいろな方法があります。

一番効果的だと思われるのは、お客さんに体験してもらうという、CX(Customer Experience、顧客体験)でしょう」

――2018年12月に行われた、PayPayのキャンペーンみたいなものですか?

岩田:
「『100億円あげちゃうキャンペーン』ですね。あれはいろいろな意味でとんでもなかった。

おまけが100億円というのも、その原資が10日で底を突いてしまったとかいう話も今までなら考えられない出来事でした。

すばらしいという声もあった。多くの人にキャッシュレス決済を体験してもらおうというCXの目的は達成できたと思います。

一方で、困惑した人たちもいた。あまりにも投機的で、ギャンブル的だったからです」

――困惑した人たちというのは?

岩田:
「カード会社の人たちです。
とはいえ、自分たちも対抗策を考えないといけない。

ところが、ポイント還元率が最大20%なんて、クレジットカードでは経営が成り立たない数字です」

――なぜPayPayだけが、こんなキャンペーンを打てたんですか?

岩田:
「まず資金力です。次に決済システムで商売をしていこうとは考えていない点です。そこから得られるビッグデータの獲得が主な目的なんです。

一方、カード会社はこの決済システムが主戦場です。だから採算を度外視するようなことはできない。


カード会社がポイントにかけることができる率は平均0.5%です。1%のポイントが付けば、みんなが飛びつく。

たとえば楽天カードやnanacoが1%です。20%というのがいかにとんでもない数字かがわかるでしょう」

まずはポイント還元率に注目


――現在、さまざまなキャッシュレスの方法が乱立している印象を受けます。

まだ踏み出していない人たちは、何を目安に進んでいけばいいんでしょう?

岩田:
「今はスタートしたばかりですから、ポイント還元率を参考にすればいいと思います。

PayPayのようなキャンペーンがあれば、それを目安に動くといい。確実に得をしますから。

それを考慮すると、まずはQRコードあたりから始めてみるといいのではないでしょうか。ポイント還元率が高いからです」

――逆に気をつけることは?

岩田:
「矛盾するようですが、気をつけるのもポイント還元率です。

そればかりに気をとられると、必要のない買い物をしてしまうケースが多い。

最初はポイントで選んでもよいと思いますが、最終的には便利さですね。いかに便利かという所で決まっていくと思います。

日本クレジットカード協会がキャッシュレス促進の調査をやっていて、消費者はポイント還元より利便性を取るという結果をだしています」(参考

――ただ実際にQRコード決済を使ってみると、意外に面倒くさいと感じられました。

レジ前でスマートフォンのアプリを立ち上げ、金額を入力する。これだけでも面倒なのに、QRコードの読み取りがスムーズにいかなかったりします。

岩田:
「実はQRコード決済というのは、店側のためだという意味が大きいんです。

手数料をとられないし、高価なコードリーダーを購入する必要もない。
しかしそれでは誰も使ってくれない。

だからポイント還元率を高く設定しているという側面があるのです。

使い勝手がよくないゆえの免罪符みたいなものです」

様々な顧客体験から、ここ日本でも「キャッシュレス化っていいかもな」という恩恵を感じ始めている人が増えてきたようです。

しかし、携帯電話の時と同じく、ここ日本では、技術が進んでいるからこその「ガラパゴス化」がキャッシュレス業界でも起きているようです。

次回はそのあたりを詳しくうかがいます。

(つづく)

中国人「爆買い」を支えたもの |消費生活ジャーナリスト岩田昭男 第1話
「現金主義」からどう抜け出すか?|消費生活ジャーナリスト 岩田昭男 第2話
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