サードウェーブのルーツは「喫茶店文化」?|タリーズコーヒージャパン創業者 松田公太 前編

1960年代に始まったインスタントコーヒーの普及、70年代に起きた喫茶店ブームを経て、90年代半ばのカフェブームにより、コーヒーは日本人の生活にすっかり定着しました。

中でも90年代後半に登場した「タリーズ」や「スターバックス」といった米国シアトル発の「スペシャルティコーヒー」は、コーヒーに対する日本人の意識を変えてくれました。

そしてここ数年、「サードウェーブ」「フェアトレード」といった流れが現れ、新たな局面を迎えつつあります。

日本のコーヒーはこれからどこへ向かい、またカフェ文化は、私たちの何を変えていくのか――。

「タリーズコーヒージャパン」を立ち上げ、現在もカフェ、コーヒー業界に深い見識をもつ松田公太氏に、コーヒーの未来をうかがいました。

松田 公太(まつだ・こうた)
前参議院議員 タリーズコーヒージャパン創業者

1968年生まれ。5歳から17歳までの大半を海外で過ごす。
90年筑波大学卒業後、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)を経て、97年にタリーズコーヒー日本1号店を創業。翌年タリーズコーヒージャパン(株)設立。2001年株式上場を果たす(04年MBOにより非上場化)。300店舗超のチェーン店に育て上げ、07年同社社長を退任。同年、世界経済フォーラム(ダボス会議)にて「Young Global Leaders」の1人に選出される。
08年、シンガポールへ拠点を移し、飲食事業を中心に数々のビジネスを手掛ける。09年 Eggs 'n Things (エッグスンシングス)の世界展開権(米国除く)を取得し、EGGS 'N THINGS INTERNATIONAL HOLDINGS PTE. LTDをシンガポールに設立。日本では10年に原宿1号店をOPENさせ、「パンケーキブーム」の火付け役となった。同年、参議院議員選挙で初当選(東京選挙区)。16年の議員任期満了後は、飲食事業の海外展開や自然エネルギーの事業など精力的に活動中。主な著書に「愚か者(講談社)」、「仕事は5年でやめなさい。(サンマーク出版)」、「すべては一杯のコーヒーから(新潮社)」などがある。

朝食文化を根付かせたい

――松田さんがタリーズを立ち上げてから20年以上が経ちます。現在はどんな活動をしていらっしゃいますか?

松田公太氏(以下、松田):
「『Eggs 'n Things International』を経営しています。

『Eggs 'n Things』は、1974年にハワイで誕生したカジュアルレストラン。その米国を除く世界での権利を取得しました。

日本では100%子会社の『Eggs 'n Things Japan』が2010年に原宿で1号店の営業を開始しました。現在21店舗を展開しています。

また、2018年にはシンガポールと台湾に進出しました」

――今、日本の外食業界ではパンケーキがブームです。『Eggs 'n Things』は、その火付け役になりました。なぜパンケーキだったのでしょうか?

松田:
「パンケーキばかりが注目されていますが、実は私が広めたかったのは、パンケーキよりも『朝食文化』なのです。

日本には朝食を外で食べる文化がない。この『朝食を外で食べる』習慣を根付かせたかったんです。」

――たしかに外で朝食というのはあまり馴染みのない光景です。

松田:
「『スターバックス』をはじめとする米国のコーヒーチェーンは、朝の売上が一番高い。

目覚めのコーヒーを飲みに来るわけです。早朝6時には行列ができています。

また朝食の席で『ブレックファスト・ミーティング』を行うことも多い。そして、時間が進むにつれて客足が落ち着く。

ところが日本のコーヒーチェーンは逆です。朝が一番弱い。

昼に向かって増えていき、夕方になってもどこも盛況です」

――朝食といえば、日本でも「コメダ珈琲」など名古屋の喫茶店文化には、「モーニングの文化」が根付いているように思えます。

松田:
「ところが名古屋のモーニングは、店側にとってはあまり健全ではないと感じていました。赤字覚悟で豪華なメニューにしているからです。都心ではむずかしいでしょう」

――「外で朝食の習慣を根付かせたい」というアイデアはいつから?

松田:
「すでに『タリーズ』時代から試行錯誤していました。米国育ちなので外で朝食をとるのが当たり前だったからです」

――朝食だけならまだしも、「ブレックファスト・ミーティング」というのは驚きです。

松田:
「日本のビジネスは夜の文化にひたっています。杯を交わし、打ち解け合ってビジネスの話をする。

それはそれでよい面もあるでしょう。でも、あまり効率的ではありません。

また接待をしたり、されたりすることで、貸し借りの関係が生まれると、ビジネスライクに物事を進められなくなりますからね。

朝食ならそのようなことは起こりません。時間を有効に使える。

たとえば7時半から始めたとしても、終わりがはっきりしている。また数百円のコーヒーでは、貸しをつくったことにはできません」

――「タリーズ」では、何か手を打っていたのですか?

松田:
「朝食セットを提供していました。ところが全然盛り上がらなかったんです。それは『スターバックス』や『マクドナルド』でも同じだったようです。

『マクドナルド』は当時、原田泳幸氏が社長になったばかりでした。就任直後に呼んでいただき、『今後、どこを伸ばしたらいいだろうか』と尋ねられたので、『朝を伸ばしましょう』と進言しました。

『マクドナルド』は1985年から『ブレックファスト・メニュー(朝マック)』を展開していますから、そこに力を入れてほしかったんです。

しかしテコ入れをしても、思ったようには伸びなかったようです」

――原因は何だったと考えていますか?

松田:
「やはり、日本には家族そろって自宅で朝食を食べるという習慣があるからだと思います。

経営者でも、夜はお酒の付き合いが多いけれど、朝は家で家族と食べると決めている人がいる。よい習慣だと思います。

しかし、それがあるから、外に行ってしっかり朝食をとるという発想が生まれないのかもしれません。

そこで考えたのが、『朝食メニュー』を再発見してもらうことです。

ヨーロッパのホテルなどは、朝食メニューを24時間注文できます。米国のダイナーでも、パンケーキとオムレツは終日頼むことができます。

同じような形態の店を開けば、日本でも朝食を外で食べる習慣が根付くのではないか。そう考えて始めたのが、『Eggs 'n Things』なんです」

――味がいいとか、雰囲気がすてきとかいったことがきっかけではなかったんですね?

松田:
「まったく違います。実は『パンケーキ』だけを前面に打ち出されるのも心外なんですよ(笑)。

2010年に原宿に1号店を出店した際は『パンケーキ』だけにフォーカスされてしまい、しかも、それがブームになってしまった。

でも違います。私たちは『パンケーキ屋』ではなく『朝食屋』なんです」

「サードウェーブ」は喫茶店文化のリバイバル

――そろそろコーヒーの話もお伺いしましょう。
基本的なことですが、コーヒー豆というのはどのようなルートで私たちの元まで届けられるのでしょうか?

松田:
「いろいろなパターンがあると思います。

まず生産者がいます。生産者から現地のブローカー、輸出業者、商社、輸入業者といった人たちの手を経て、日本にやってきます。

コーヒー店でもすごくこだわっている人や企業の場合は、現地へ赴き、自分の目で豆をたしかめ、生産者から直接買い付けている場合もあります。

このパターンはほんとうにごく一部で、数店舗しか展開していない場合はそれだけで赤字になってしまうでしょう」

――「タリーズ」にいらっしゃった時は?

松田:
「やはり商社経由で買い付けていましたが、良質な豆を生産しているという話を聞いて、現地へ赴き、カップテイスティングをしたこともあります。ただし『ここぞ』という場合だけです」

――最近のコーヒー業界はどんな流れなのでしょう?

松田:
「『ブルーボトルコーヒー』に代表される『サードウェーブ』の流れがやはり大きい。でも『新しさ』が強調されますが、私は昔から日本にあるコーヒー文化のリバイバルだなと感じました」

――その心は?

松田:
「日本には1970年代から培われた『喫茶店文化』があるのです。

脱サラした若い店主が、コーヒー豆の選択や抽出方法――ネルドリップ方式やサイフォン方式など――を自分で工夫し、その店独特な味わいのコーヒーを提供する。

客もそれを楽しみにしていた。そういう時代が日本にあったんですね。

一方、『サードウェーブ』も『コーヒー一杯一杯をていねいに淹れる』という姿勢です。つまり両者は同じなんです」

――たしかにそうです。

松田:
「ただし、当時の喫茶店文化には、エスプレッソマシンはほとんど登場しませんでした。なぜならいいマシンなら自動車が1台買えるほど値段が高かったからです。

だから、『タリーズ』が米国から持ち込んだスペシャルティコーヒーの味わいが、日本人の鼻腔や舌に新鮮に感じたのでしょう。

しかしまた、先祖返りを始めているというのはおもしろいですね」

昨今流行りの「サードウェーブ」、実は我々日本人には馴染み深い、「サテン(喫茶店)」文化と似ているところがある、という発想には驚きました。

次回も松田さんに、濃くて深いコーヒーのお話についてお話を聞きます。(つづく)

サードウェーブのルーツは「喫茶店文化」?|タリーズコーヒージャパン創業者 松田公太 前編
日本におけるコーヒー文化の進化|タリーズコーヒージャパン創業者 松田公太 中編
コーヒーは人と人をつなぐ|タリーズコーヒージャパン創業者 松田公太 後編

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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