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日本交通公社理事・塩谷英生|第2回「東京オリンピック」後のインバウンドって?

日本交通公社理事・塩谷英生インタビュー 目次

第1回 「爆買い」以後の「インバウンド」って?
第2回 「ポスト東京五輪」のインバウンドはどうなるの?

取材・文/河鐘基、写真/荻原美津雄、ロボティア、取材・編集/FOUND編集部

第1回では、インバウンドの変遷や現状について知ることができました。
塩谷さん(公益財団法人・日本交通公社理事)にお話ししていただいたのは次のようなことです。

第1回の復習

・日本のインバウンド産業は2015年にターニングポイントを迎えた
・訪日外国人の8割はアジア勢、そのうち中国・韓国が5割
・インバウンドの恩恵を受けるのは主に6つの産業
・近年はゴールデンルート以外のエリアを選ぶ観光客が増加

第2回では、気になるインバウンド産業の未来。そう、“ポスト東京五輪”、つまり2020年以降のインバウンド産業がどう発展していくかについて探っていきたいと思います。

第2回 目次

・日本ブームが追い風に
・成長のカギを握る5つのポイント
・リピーター満足度を上げる
・いかに消費単価を増やすか?
・コンテンツのパッケージ
・日本文化の“翻訳”
・キーワードは「アルベルゴ・ディフーゾ」

日本ブームが追い風に

ここ数年の訪日外国人観光客の上昇率には、「日本ブーム」とも言うべき現象が根底にあり、将来的には産業がより成熟していくフェーズにあると塩谷さんは指摘します。

さらに、こう続けます。

塩谷氏:
「円安やビザの緩和など
多くの要因をあわせて考えても、
前年比10%から20%増が
経済面からみた現実的な数字だと思います。

しかし実際には、
30~50%というような
破格な増加率を2014年、2015年に記録しています。

本来、
このような急激な変化が市場全体で起きることは
成熟経済となった他の産業ではありえません。
これは、ある意味、世界中で
‟日本ブーム”が起きている
証拠でもあります。

2020年以降は、
この流れをうまくソフトランディング
させて安定成長につなげて
いかなければならないでしょう」

これまでの成長は、背景に日本ブームがあったというわけです。では、これからその成長を持続させていくにはどうしたらよいのでしょう。

この5つのポイントをおさえられるか?

塩谷氏は、“ポスト東京五輪”のインバウンドについて、いくつかの課題を挙げています。
ひとつ目は、「リピーターの満足度を上げていくこと」です。

1:リピーター満足度を上げる

塩谷氏:
「市場が拡大していくなか、
新規の訪問客が多かったのが
2010年代前半です。

そして2015年からは、
リピーター率が上昇しています。

“一見さん”を大事にすることも
もちろん大切ですが、
今後は、
何度も日本を訪れている
リピーターの
満足度を上げていくという視点が、
大事になってくると思います」

リピーター満足度を上げるという視点が重要

2:消費単価を上げる

ふたつ目は、「インバウンドを十把ひとからげにせず、ケースごとに利益を最大化していくモデルを構築する」ことです。

塩谷氏:
「例えば興味深いのは、
沖縄などの場合は、
2泊3日のツアーやFIT(個人旅行)が多く、
旅行客は滞在中に
様々な体験を詰め込みます。

ですから、おのずと
消費単価が高まる傾向があります。

ほかの地域も、必ずしも
4泊5泊と長く滞在してもらう
観光地を目指すのではなく、
稼働率をよくしていく方が
利益を最大化がすることが
できるかもしれません。

それで年間に何度か来てもらえれば
ベストでしょう。

もちろん、
観光地や宿泊施設の規模によって
メリットを最大にするための
シナリオはそれぞれ
違いますし、
旅行客側の満足度の
問題もあるので、
一概には言えません。

しかし、
泊数や消費単価という切り口でセグメントを分け、
インバウンド需要を見直すことは
ひとつの有効な視点になりえます」

塩谷さんによれば、現在、外国人1泊あたりの消費単価は、日本人の消費単価よりも少し低くなっているそうです。

しかし、言い換えれば、今後、「訪日外国人観光客にいかにお金を使ってもらうか」を掘り下げ、ビジネスを細かく組み立てていかなければならないということになりそうです。

利益の最大化をはかるには、宿泊日数や消費単価という視点での見直しも有効

3:コンテンツをパッケージ化する

2020年以降は、ICT技術やテクノロジーもさらに発展しているはずです。

塩谷さんは、「コンテンツ(観光資源)を探しあてるプラットフォームや、コンテンツに辿りつくためのモビリティー技術は間違いなく充実していくはず」と予測します。

そのうえで、「それでも、最後に重要になるのはコンテンツそのもの」と指摘します。

塩谷氏:
「観光の本質は
ローカリズムです。
最終的に地域を守り
活性化させるためには、
土地に根付いた観光資源を
活かしていくしかありません。

ただ、観光資源単体では、
訪問客は満足しない
場合も多くあります。

ですから、
観光資源の見せ方、伝え方を
工夫していく必要があるでしょう。

つまり、
いかに観光コンテンツを
パッケージするかですね。

歴史資源で例を挙げると、
高野山などでは
英語でのコミュニケーション能力
のある住職さんがいらっしゃいます。

こうしたインタープリターを介して文化への理解が深まることで、結果的に観光客の活動が広がり、消費単価にも好影響が出ていきます」

大事なのはコンテンツそのもの、そして、そのコンテンツをいかにパッケージするかがカギになるというわけです。

観光資源をどうパッケージしていくかを考える

4:日本文化を「翻訳」する

外国人は日本人とは違う視点を持っています。日本人では気づかない意外な観光資源に価値を感じる場合があります。

そのため、Iターン・Jターン経験者や、日本に移住した外国人など、文化や価値を“翻訳”(インタプリット)できる人たちの声に耳を傾けることも重要だと塩谷さんは言います。

そして、日本の多くの地域の観光資源である温泉についても塩谷さんは次のように指摘しています。

塩谷氏:
「温泉資源の有効活用も、
インバウンド産業発展の
可能性として重要です。

日本は、
入湯税が200億円以上もあり、
観光地の基幹財源もなっていますが、
このこと自体、
海外では見られません。

言い換えれば、いかに
我が国が温泉資源に
恵まれた国かと言うことです。

しかし温泉文化は、
外国人にとっては
接しにくいバリアがあるのです。

まず外国には多くの場合、
裸で共同浴場に入るという文化が
ありません。

また、浴場でのマナーや
習慣も日本とは異なります」

さらに塩谷さんは、こう続けます。

塩谷氏:
「細かいところで言えば、
タトゥーがあると
入浴できないなどの
問題もあります。

リピーターになれば、
そんな日本の温泉文化を理解し、
適応していってくれるのですが、
はじめての外国人旅行客でも
利用しやすいように、
日本の温泉文化というものを
“翻訳”して伝える
という努力は、
観光地側にも必要だと
言えるでしょう」

このほかにも、日本の旅館では1泊2食が基本ですが、海外では泊食分離が一般的です。

また外国人には、産地を訪れて旬の食材を楽しむ「地産地消」など、日本ならではの地域の楽しみ方にもあまり馴染みがないと塩谷さんは言います。

このような日本独特の文化をどう“翻訳”し、伝えていくかはこれからの大きな課題と言えそうです。

日本ならではの文化を“翻訳”し、発信していく努力も必要

塩谷さんは、リピーターが増え、産業が成熟しているいま、日本という国のより深い楽しみ方をいかに訪日外国人観光客向けに加工・伝達できるかがインバウンドを成長させるのに必要なことだと言います。

そして、これからのあり方について塩谷さんはこうも話します。

キーワードは「アルベルゴ・ディフーゾ」

塩谷氏:
「民泊もひとつのテーマに
なりますが、地方の観光地では、
アルベルゴ・ディフーゾという
コンセプトが注目されていくと
思います。

これは『分散型ホテル』の意です。

民泊という単体で
客を呼ぶのではなく、
共用のレセプションやレストランを用意して、
地域ぐるみでエリア全体の
観光資源や温泉、
食事などを楽しんでもらう
というものです。

今年の6月には、国内で初めて
岡山県の矢掛町が、
分散型ホテルの認定を受けました」

アルベルゴ・ディフーゾは、イタリア発祥の取り組みで、分散型の宿泊施設です。

2018年6月、矢掛町(岡山県)は日本で初めてアルベルゴ・ディフーゾ協会の認定を受けました。(出展:岡山県矢掛町公式HPより)

同協会は、イタリアやクロアチアなどで150以上のエリアに認定を行っています。日本でもこの取り組みが注目されていくのではないかというのです。

では、こういった取り組みは、全くいままで日本になかったのかといえば、そうではありません。

アルベルゴ・ディフーゾ=分散型ホテル

塩谷氏:
「分散型ホテルの考え方は、
もともと日本にもあったものです。

たとえば、城崎温泉などです。

街全体を大きな宿泊施設と捉え、
共同で源泉を管理し、お風呂は外湯、
駅は玄関、旅館は客間、並木
道は廊下というような考え方です」

地域がひとつになって、訪日外国人観光客を集客し、その地域のもつ魅力を存分に味わってもらい、「また来たい」とリピーターになってもらうことが、地方観光地が投資のリスクを抑えながらこれからのインバウンドを成長させていくために重要なのですね。

まち全体で訪日外国人観光客を集客し、もてなすという考え方

2003年から爆発的な成長を遂げてきた日本のインバウンド産業ですが、リピーターに満足してもらい、より深く日本の文化を楽しんでもらえる「翻訳」作業や仕組みづくりを行っていければ、この先、さらなる発展・成熟を迎えることができるかもしれません。

塩谷さん、貴重なお話をお聞かせいただき、どうもありがとうございました!!


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