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シェアリングエコノミー起業家・雲林院 奈央子 「お寺ステイ」でインバウンド観光市場に挑む・前編

■ 話を聞いた人
雲林院 奈央子(うんりんいん なおこ)


岩手県盛岡市に生まれ、中東の国サウジアラビアで育つ。上智大学卒業後、アンダーウェアメーカーのワコールで新製品や新規事業の企画に取り組み、26歳の時に株式会社シルキースタイルを創業。ボディケアやアンダーウェアの企画やマーケティングを行う傍ら、メディアを通じた情報発信を行い、話題を集める。

自身が女性起業家であることから、働く女性をエンパワーメントする事業やコミュニティへの取り組みも積極的に行い、各国の大使館と日本で活躍する女性ビジネスパーソンをマッチングする事業も手がける。

2児の母として、子育てをしつつお寺の休眠施設を活用して、インバウンド観光向け宿泊施設やイベント施設として再活用する「お寺ステイ」事業を行う株式会社シェアウィングを学生時代の友人と共同で創業し、事業開拓を行っている。


オフィスビルや商業施設が立ち並ぶ東京都は港区にある松流山正傳寺。

都会の喧騒の中にふと現れた静ひつな空間に足を踏み入れると、日々の煩わしい出来事が頭から離れていくように思えるから不思議です。

その境内の一画で完全無人、リモートによるおもてなしを行う宿泊施設を運営しているのが株式会社シェアウィングです。

同社は、他にも産官学連携によるお寺でのイベント実施や岐阜県高山市での境内宿泊施設の運営を通して、お寺の休眠設備活用を目指しています。

今回のインタビューでは同社の代表、雲林院奈央子さんに「お寺&シェアリングエコノミー」というユニークな領域での挑戦について、詳しくお話をうかがいました。

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雲林院さんはシリアルアントレプレナーとして活躍する女性経営者です。

「雲林院」という珍しい名字はいかにもお寺か神社などに縁がありそうに思えますが、本人いわく「京都に雲林院というお寺があり、遠い親戚のお寺はあります。

でも実際には、結婚してこの姓になっただけなのです。現在は、旦那や親戚にお寺関係の人が居るというわけでもありません(笑)」とのこと。

それでは、なぜ、お寺の休眠施設を活用するシェアリングビジネスというユニークな領域で事業を始めたのでしょうか? まずは、そこから教えてください。

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お寺という場所は特別な存在?

雲林院氏:
「私はもうひとつ別の会社を経営していて、そこでは大使館とお仕事をすることがあって、海外からのお客様に日本文化をご紹介する機会も多くあります。

そうした際にお寺さんにお連れすると、皆さん本当に喜ぶのです。

日本人にとってもですが、特に海外の方にとってはお寺という場所が持つ歴史や伝統の重み、そして雰囲気が本当に特別に思えるようですね。

お寺という場所が持つ文化をいたく気にいられる方々に、たくさんお会いしました。

こうした経験から、ここまで人の心を動かすお寺さんの文化を、ビジネスを通じてより広げていけないか?と思うようになったのです」

雲林院さんがお寺に宿泊する仕組みをビジネスにすることを始めようと思ったもう1つのきっかけは、子供の出産だったそうです。

未来の世代にとって「本当に必要なことは心の豊かさだ」と考えるきっかけになったエピソードについて、聞いていきましょう。

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お寺の本当の価値とは何か?

雲林院氏:
「私の子供たちの世代、これからは寿命130年とも言われています。それは素晴らしいことですけど、物質だけでなく心が豊かでなければ、寂しい人生を送ることにもなりかねません。

無為に長く過ごしてもつらいですよね。だからこそ、自分の子供世代に本当に豊かな生き方をしてほしいと願っています。

それで、これからの世代の人たちが本当に豊かに生きるために必要な事や体験ってなんだろう?と真剣に考えるようになったのです。

その時に思い浮かんだのがお寺や神社でした。

私たちの祖先が、数百年、時には千年と守り、育んできたお寺という場所を通じて学べること、体験できることはこれからの時代にも必ず重要な価値を持ち続けると思います。

それを多くの人に体験してほしいと思い、そのために自分が経験してきたビジネスの知恵や手法が生かせるだろうと思いました。

そういう思いがあって、また、他にもいくつかのご縁や偶然も重なって生まれたのが、シェアウィングという会社です」

日本のお寺のリアル

雲林院さんは吉方位旅行という、縁起の良いとされる方角を目指して行く旅行を趣味として10年以上続けているそうです。

最初から観光地などを目的にして行くのではなく、方角を決めて旅に出ることで、意外な出会いや予期せぬ発見があるのが吉方位旅行の醍醐味なのだとか。

そうした旅行が数多くのお寺や神社を訪れる機会にもつながったそうです。それでは、今の日本のお寺の状況はどうなっているのか? 実際に、雲林院さんが見てきた事例を教えてもらいました。

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雲林院氏:
「地方のお寺さんを訪れる中で、多く見てきたのは……これはとても残念なことですが、空寺や廃寺になりそうな所、既にそうなってしまった所がたくさんあるという状況です。

昔のお寺さんというのは、地域コミュニティのハブとしての役割を担っていました。人々が集まる中で、自然と檀家というシステムができ、お寺さんが事業として継続していける仕組みが、かつては存在していました。

一説には、300の檀家さんがあれば、お寺は修繕などの費用をまかないつつ、運営を続けていけると言われています。

けれども、今の日本では多くの地方のお寺さんが、それより小さい規模になってしまっており事業を継続できない状況に置かれています。
その結果、兼業をするか、お寺をやめてしまう、というケースが後をたちません。

何とかお寺を続けられている所でも後継者が居なくて『自分の代でお寺を閉じなければいけない』後継者が居なく『自分の代でお寺を閉じなければいけない』と嘆いている住職がたくさんいらっしゃいます」

各地のお寺さんを訪れる中で、その厳しい状況を目の当たりにした雲林院さん。

いま地方のお寺が直面しているのは、人口減少とも密接に関わる深刻な問題ですが、同時に休眠施設が増えているとうことは、シェアリングエコノミーに活用できるチャンスでもあります。

でも、自転車や車、オフィスなどとちがって特殊な場所であるお寺の施設をシェアして、さらにビジネスとして成り立たせることなんて、できるのでしょうか?

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シェアリングエコノミーの発想をお寺に

雲林院氏:
「シェアリングエコノミーとは、使っていない物や場所を共有してビジネスに活かすことです。

その発想を持って見てみると、地方のお寺さんには活用できる休眠スペースがたくさんあって、それはある種のチャンスであることがわかります。同時に伝統文化を体験できる宿泊施設を求める旅行者もいます。この需要と供給をマッチできれば、十分ビジネスとして成り立たせられます。

お寺さんの後継問題は、檀家さんが減って収入が足りないから、ちがう仕事に進むという背景があります。これは都内でも起こっている現象です。

シェアリングエコノミーの仕組みを活かして、お寺さんが新しい柱を得られれば、後を継ごうという若い人も増えるでしょう」

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お寺という場所に受け継がれてきた伝統がついえてしまうのは、文化的な損失です。そうした課題を解決するために、シェアリングエコノミーでアプローチをする雲林院さん。

社会の役に立ち、しっかりとお金を稼ぐことができる隙のない事業のように思えますが、実際に動き始めると一筋縄ではいかない部分も多かったそうです。

次回の後編記事では「お寺ステイ」のビジネスを進める上での苦労や、今後の展望についてお話をうかがっていきましょう。(つづく

取材・文/河鐘基(ロボティア)、写真・編集/ 鈴木隆文(FOUND編集部)

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