組織工学で新しい心臓と社会をつくる!? 再生医療のスペシャリスト・清水達也氏・第2話

組織工学で人間の組織を再構築する――。

そんな最先端の研究・開発の動きは世界各国で始まっています。清水氏ら研究チームも、いずれ「臓器移植ゼロ」を目標に掲げて日夜、研究に取り組んでいると言います。

ただ新しい再構築技術が開発されたとしても、新たな臓器の品質を保ったままどのように低コストに量産・保存するかなどビジネス的側面、もしくは人間の細胞を活かした新たな臓器が法律的・倫理的に社会に受け入れられるのか、はたまた社会的に研究資金をいかに捻出していくかなどなど、各方面で課題は山積みだと清水氏は言います。

清水氏は、再構築された臓器を生み出す研究を進める一方で、組織工学の新たな可能性を広げるためさまざまなプロジェクトをしかけています。細胞を扱い、組み立てる研究は、医療以外のどのような領域で活かされようとしているのか。引き続きお話を伺っていこうと思います。

ーー 清水氏が組織工学の知見を持って解決しようとしているもののひとつに、「食料問題」があります。例えば、人工肉を培養するというような取り組みがそれにあたります。

清水:
「世界的に食糧問題は深刻になってくると言われていますが、家畜を大量に殺し続けることが果たして正しいのか疑問に思うことがあります。しかも、温室効果ガスの18%は畜産業から排出されているという統計も。

これは、家畜のし尿やゲップのメタンなどが原因とされています。実はそのような食に関する問題に焦点があたるなかで、ベジタリアンや動物愛護団体が人工肉をつくることを後押しする動きも生まれています。

世界ではいくつかベンチャーが立ち上がっていますが、日本のインテグリカルチャーと私ども東京女子医科大学では共同研究をスタートさせています」

ーー なおインテグリカルチャーは、東アジアではまだ例がない、日本を代表する「人工肉スタートアップ」です。その研究や製品開発に清水氏らの研究成果が応用されているというのは非常に興味深い話題です。

清水:
「家畜の動物細胞を培養して人工肉を生み出すというというベンチャー企業は、世界にはいくつかあります。しかしながら、細胞を固めておくだけでは肉としては不十分です。味も美味しくありません。

そこで組織工学の技術を応用して、生体と同じような肉を生み出すと言うのが目標です。さらに広く考えてみると、動物細胞を培養するための栄養分は結局のところ植物由来の物質を含みます

家畜飼育に関する問題だけでなく、植物栽培も環境汚染や放射能汚染により影響を受ける可能性があるので、私としては穀物栽培の替わりに植物細胞の培養にも挑戦していきたいと考えています」

ーー ”人工肉”など食料問題は、清水氏が夢見続けてきた宇宙空間とも繋がりが深い話です。現在、世界では新たな宇宙ビジネスが次々と生まれており、そう遠くない未来に人類が宇宙を舞台にして生きていくという可能性が日々、大きくなり始めています。

しかし宇宙空間で人間が長期間活動するには、食糧確保が不可欠です。そこで、リアルテックファンドやJAXAなどは宇宙時代の食糧問題を解決するため「スペースフードX」というプログラムを、今年3月からスタートさせています。

清水氏はこのプログラムの「食料生産部門」に関与しています。幼き頃の宇宙という夢が、再生医療や組織工学という専門分野と繋がろうとしているのです。

清水:
食料問題を取り扱うことは、再生医療の発展にも大きく影響を与えると個人的には思っています。食糧問題になると、市場では値段を下げる方向にベクトルが働く。

医学の世界は患者さんを救うためにはある程度は"お金がかかっても仕方ない "という感覚があるのですが、それとは異なるビジネスの力学が働くことになるでしょう。当初1枚のステーキを再生医療の技術でつくると2000万円くらいかかってしまうと考えられていました。

ですが、商用化しようと考えたら少なくとも1万円ぐらいにはしなければならない。そのように、再生医療の世界に食品業界のビジネスの力学が入ってくることで、医療技術のコストダウンも実現していくはず。それは、2重3重に世のためになるのではないでしょうか」

ーー 清水氏は「心筋細胞シート」の開発など組織工学のプロフェッショナルですが、広範囲の社会課題を同時に解決すべきだと想定しています。

というのも、いろいろな社会課題が解決してこそ、自分たちが心血を注いだ研究成果が世の中で役立つからです。

清水:
食料問題の他に医療費の問題も解決していきたいと考えています。すでに日本の臨床で使われている「心筋細胞シート」の価格は約1470万円。高額医療養費制度によって保険が適用されるので、実際に患者が負担する額は100万円以下となります。残りは税金で負担していることになります。

海外で臓器移植をした際に1~2億かかると考えるとコストは低いですが、便利な技術や保険制度を使えば使うほど日本の社会保障費が圧迫されるという構造は、医療費、もしくは医療に関する考え方を国民レベルで根本的に考えていかないと解決しない問題なのだと清水氏は見ています。

清水:
私が取り掛かかろうと考えているのは、病院に行かずとも、家庭や自治体である程度の医療を受けられる仕組みづくり。

その為には簡単に扱える医療機器が色々と必要ですが、技術的にはすでに確立されています。ただ法律上、様々な障壁があります。

今後、医療機器メーカーが家庭用の高性能な診断機器を生み出し、それを法律的に使えるようにしていかなければならない。また、みなさんが扱えるように教育も必要になります。理科や社会と同じような『医療教育』です。

これにより、AIの技術の進歩と共に、診断に関しては病院に行かずに可能となることが期待されます。また、投薬などの治療の一部もコンビニや宅配で済ませることができるようになるかもしれません。」

ーー 清水氏は、子供の頃から医療教育を行えば、国民皆が医療の専門家になることも決して不可能ではないと説きます。

むしろ、そうならなければ日本経済全体の負担は減らず、再生医療などさまざまな医療技術の発展も阻害されてしまう恐れがあると。

清水:
2040年には日本の人口は1億人位になり、医療関係や介護の仕事をする人がそのうち4分1。

一方で年を取って病気を患っている方が4分1になるという試算もある。

つまり、日本人の半数以上が医療と関係する時代が来ると。ならば最初から教育をして、日本社会の構成員がみな医療の知識を持てば良いんじゃないかなという発想です。

正直、実現できなければ日本の保険制度は成り立ちません。最近、そのことで多くの方と相談を始めています」

人間の細胞から「心筋細胞シート」つくり、将来的に人工の心臓まで生み出そうとしている清水氏。その再生医療のスペシャリストの挑戦は、時に宇宙空間に“寄り道”しながら、日本社会の医療を変えるべく続いていきそうです。

貴重なお話をありがとうございました!

取材・文/河鐘基(ロボティア)、写真・編集/鈴木隆文(FOUND編集部)


再生医療スペシャリスト・清水達也インタビュー

組織工学で新しい心臓と社会をつくる!?  第1話
組織工学で新しい心臓と社会をつくる!?  第2話

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