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手術支援ロボット「ダヴィンチ」の現在と未来| ロボット手術支援センター長 大野芳正 第1話

取材・文/河鐘基(ロボティア)、写真/荻原美津雄、取材・編集/鈴木隆文(FOUND編集部)

先進国における高齢化、また新興国における医療水準向上への需要の高まりなどを受け、医療機器市場の成長が期待されています。日本の医療機器市場は、約20年の間、2兆円前後を横ばいで推移。

2016年には、過去最高となる2.9兆円を記録しました。同年の日本の医療費は42.1兆円ですが、医療機器市場が占める割合はそのうち約7%とされています。

医療機器には実にさまざまな種類が存在しますが、近年、特に注目が集まっているのが先端医療機器、なかでも「手術支援ロボット」です。

話を聞いた人

大野芳正(おおのよしお)先生/ 東京医科大学病院泌尿器科主任教授。同病院ロボット手術支援センター長。泌尿器悪性腫瘍(ロボット支援手術、内視鏡手術などの低侵襲治療、自然排尿型尿路変向術、分子標的治療、免疫療法など)、泌尿器一般を専門とする医療のスペシャリスト

実用化が進む手術支援ロボット

バンクオブアメリカ・メリルリンチの調査によれば、グローバル市場における手術用ロボットなど医療用ロボット関連の市場規模は、2022年の段階で180億ドル(約2兆円)に達すると予測されています。

日本では、2012年から前立腺がん、2016年から腎臓がん、2018年から、肺がん、食道がん、胃がん、直腸がん、膀胱がんなどの治療を目的としたロボット手術に健康保険が使えることになりました。技術と保険制度が繋がることで、国内の手術支援ロボット市場は着実に広がりつつあります。

 では手術支援ロボットは、実際に日本の医療現場でどのように使われているのでしょうか。今回、世界で最も有名な手術支援ロボット「ダヴィンチ」(da Vinci)を使った手術のエキスパートである、東京医科大学病院の大野芳正先生にお話しを伺ってきました。

米国でダヴィンチが製品化されたのが1999年。その後、学会でその精度や可能性が報告され始めたのが2003年頃となり、東京医科大学病院では2006年から導入を開始したと言います。

大野氏:
「我々、泌尿器科では前立腺や腎臓、膀胱などの手術にダヴィンチを使用しています。婦人科ですと子宮頸がん、また去年の4月から消化器外科で大腸がん、すい臓の手術にも用いています。まだ保険が適用されていませんが、今後は呼吸器外科や耳鼻科でも活用したいと考えています」

小型化と操作性向上が進む手術支援ロボット

発売開始から約20年が経過したダヴィンチですが、大野氏は「年を追うごとに性能が向上してきた」と説明します。主に小型化と操作性の向上が進んでいると言います。

大野氏:
「現在のXIというシリーズは4世代目となります。最初のシリーズはかなり巨大で、ひとつひとつのアームも大掛かりでした。セッティングも大変だったんですよ。それがどんどんコンパクトになってきて、セッティングも非常に楽になった。アームのサイズで比べると半分くらいには小型化している。

一方で、アームの長さは担保されていて比較的遠い位置にも届きくし、可動域も広がっています。また、最近のシリーズは医師の手元でカメラの倍率や細かな動きも調整も出来るようになった。これまでは、看護師などに指示を出して調整していたのですが、それら操作性も向上してきています」

低侵襲が最も大きなメリット

ダヴィンチを使う最も大きなメリットは「低侵襲」にあると大野氏は言います。検査、投薬、手術など医療行為は、人間の身体に負担をかける場合があります。身体に麻酔を打ったり、メスを入れたりすることがその代表例ですが、その負担を専門用語で「侵襲」と言います。

すなわち、「低侵襲」は「侵襲が少ない」ことを意味します。ダヴィンチで手術を行った場合、普通の手術より傷を小さく、また出血の量を抑えることができますし、早期に普段の生活に戻れます。

大野氏:
「日本は海外に比べると保険システムがかなり充実しているので、あまり早く退院する方はいらっしゃいませんが(笑)。

米国など海外ですと入院期間が短いほうが好まれますので、より手術支援ロボットが発達してきたという経緯があります。ダヴィンチで手術を行うと翌日から歩いてもらって、翌々日からは食事も始まります。早期の退院が可能となるのです」

一方、通常の開腹手術よりも、圧倒的に「よく見える」というのもダヴィンチのメリットのひとつ。ダヴィンチには高性能なカメラ、また体内の様子を映すモニタリングシステムなどが搭載されています。

また低侵襲なため出血が少なく、患部を拡大して良く見ることができると言います。その見えやすさは、「開腹手術の10倍ほど」というのが、大野氏の印象です。

大野氏:
「ダヴィンチの場合、開腹手術だけの時代と違って、術例が必ずビデオで録画されるという特徴もあります。新たに手術を覚える医師は、それらデータや情報を使って学習することができる。

ダヴィンチを使った手術は、見えやすさや前例データの豊富さなどのおかげで、開腹手術を覚えるよりも早く技術習得が可能だと考えています」

そう聞いていると、手術支援ロボットを導入することは良いことだらけに聞こえます。しかし、手術支援ロボットには解決が待たれている大きな課題があります。それはずばり、「価格」の問題です。

さて、この価格についての課題は、今後どのように取り組まれていくことなのでしょうか?

つづく

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