見出し画像

東南アジアの最注目国・インドネシアの“今”を聞く|JETRO・佐藤百合氏インタビュー・前編

約17500の島々で形成された東南アジア国・インドネシアは、人口のおよそ9割がイスラム教徒である「イスラム大国」です。

1945年8月17日に独立を宣言し、現在では総面積約189万km² (日本の約5倍)に約2.55億人(2015年:インドネシア政府統計)が暮らすと言われており、経済的にも成長を遂げてきている国の1つです。

もちろん、日本からも様々な会社が進出をしています。しかし「インドネシア」と聞いても、「バリ島」以外のことを語れる日本人はそう多くはいないのではないでしょうか?

近くて遠い国、実は日本とはゆかりの深い国、インドネシアについて、専門家である佐藤百合さんに話を聞いてみました。

◆ 話を聞いた人

佐藤 百合(さとう・ゆり)氏
1958年、東京都生まれ。上智大学外国語学部卒業。インドネシア大学で外国人初となる博士号(経済学)を取得。1981年にアジア経済研究所に入所しインドネシアを担当。在ジャカルタ海外研究員、インドネシア商工会議所(KADIN)特別アドバイザー、日本貿易振興機構・アジア経済研究所地域センター長などを経て、日本貿易振興機構(JETRO)理事およびJETROアジア経済研究所理事として活躍。

6%の経済成長率がないと厳しい? 

インドネシアの直近の話題としては「大統領選挙」がありました。現職のジョコ・ウィドド大統領と、対立候補の陸軍戦略予備軍元司令官・プラボウォ・スビアント氏の一騎打ちです。正式な結果は2019年5月21日に発表され、ジョコ・ウィドド大統領の勝利となりました。

大統領選挙の行く末もさることながら、インドネシアの選挙そのものが注目に値すると佐藤氏は言います。というのも、インドネシアでは、「約2億人もの有権者が大統領を直接選ぶ世界最大の直接選挙」(佐藤氏)が行われているからです。

米国、中国、インドなどインドネシアよりも人口が多い他の国々では、議会選挙もしくは間接選挙によって国のトップが選ばれるか、選挙自体がありません。

これほど膨大な数の人々が大統領を直接信任する国は、インドネシアを置いて他にありません。同国の政治を理解する上で、とても興味深い一面です。

では経済はどうでしょうか。インドネシアは東南アジアでも高い成長率を誇る国だとされていますが、インドネシア国内の視点で経済をみている佐藤氏の意見は少し違うようです。

佐藤:
近年、インドネシアの経済成長率は5.0%前後にはりついていて、2018年は5.2%という結果でした。

本来であれば5.4%ほどになるはずでしたが、米国の利上げによって、インドネシアなど弱いとみられている国の通貨が売られて成長にブレーキがかかってしまった。

いわば“低空飛行”が続いている状況です。ジョコ・ウィドド大統領はここ5年で7%成長を目標に掲げていましたが、2ポイントほどダウンという残念な結果に。

実際、約2億6000万人の人口を豊かにしていくためには、6%ほどの経済成長率を維持してかないと厳しいと私個人的には考えています」

インドネシアが成長している2つの理由

それでも、世界的に見た際にインドネシアの経済成長が安定しているという点は間違いなさそうです。

すでに経済的に成熟し人口減少局面にある日本など先進国からみると、高い成長性を誇っているようになおさら感じるのではないかと佐藤氏は解釈します。

佐藤:
「たしかに、経済成長という意味では世界各国のなかでは極めて安定したパフォーマンスを発揮していますね

日本とは国の発展段階が違います。例えるなら、明治維新から高度成長期までの発展が、一気に訪れているという感覚でしょうか。

インドネシアの人々も意気揚々としていて、今日より明日、今年より来年はもっとよくなると信じている。それほど確たる根拠があるわけではないのですが、なんだか社会が明るい空気感に溢れています。

佐藤氏は「インドネシア経済の歯車が回っている理由は大きくふたつ」と分析しています。

ひとつは「人口が増えていること」、もうひとつが「政治が安定していること」です。

「政治が安定していることで、社会的に教育などのベースが整ってきます。他方、内戦による飢餓や疫病がないため、国外に人が逃げ出すことがありません。

インドネシアの国勢調査では、2000年代の人口増加率は1.49%、2010年から2017年までは1.34%と推定されています。国連の最新統計によれば2010~15年の世界の人口増加率が1.19%ほどなので、インドネシアがこれを上回っていることが分かります。

ちなみに、ベトナムは1.12%、インドが1.23%、タイは0.4%となっていて、日本にいたっては-0.09%。人口増加率が高すぎると貧困や失業が問題になりますが、インドネシアは適度に高い。平均年齢も20代で、ミレニアル世代と呼ばれる若者が主人公になっている国です。

◆ 人口増加率
インドネシア:1.34%(2010年から2017年)
世界の人口増加率:1.19%(2010~15年)

インドネシアが日本と肩を並べる日

このまま順調にいけば、「2040年代には、インドネシアは日本と経済規模で肩を並べるようになる」と佐藤氏。今後、インドネシアとどうのように付き合っていくかは、日本にとってとても重要だと話します。

佐藤:
タイやベトナムなどは人口増加率が低下してきて、日本や韓国、中国の少子高齢化を追いかけている状況です。これから経済発展段階を迎えるミャンマー、カンボジア、ラオスなどはそもそも人口がそれほど多くありません

人口の増加をひとつの経済成長要因と考えるならば、インドネシア、フィリピン、ベトナムに注目すべきです。特に東南アジアの4割ほどの人口を占めるインドネシアとの付き合い方は、日本の未来を考える上で今後とても重要になってくるでしょう

実はインドネシアでは、「ユニコーン」と呼ばれる、未上場かつ企業価値が1000億円をこえる新興企業も次々と登場しています。

すでに4社が名乗りをあげており、2019年には5社目のユニコーンが誕生するとの見通しもあります。一方、日本では「プリファードネットワークス」という人工知能関連企業が1 社だけです。

佐藤:

「インドネシアなどの新興国では、日本などの先進国がたどってきた技術発展の経路を一気に飛び越えて最新の技術が普及することがあります。

そのため、先進国をはるかに凌ぐスピードで技術が発展しているようにみえます。これは『リープフロッグ型』、つまり蛙飛びの発展とも呼ばれています。

インドネシアでも、スマートフォンさえあればあらゆるサービスが受けられる社会に急激に変化しています。離島に行けば医者も先生もいない。都市では渋滞がすごい。

そのような社会課題が山積しているということは、裏返せばビジネスチャンスがゴロゴロ存在しているということです。

さらにアメリカの一流大学に留学する有能な若い層の数が多く、法規制が緩いので何でも試せる、といった社会状況と相まって、イノベーティブな動きが加速しています。ユニコーン第1号の『GO-JEK』、予備軍『Ruangguru』など、今後も有力な新興企業が続々と現れる可能性があります」

今後の成長が期待されるインドネシアですが、後編では日本との関係について掘り下げて聞いていきたいと思います。

つづく

取材・文/河鐘基(ロボティア)、写真/荻原美津雄、取材・編集/鈴木隆文(FOUND編集部)

株式会社FOLIO
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第2983号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会
取引においては価格変動等により損失が生じるおそれがあります。
リスク・手数料の詳細はこちら
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的としており、個別の金融商品の推奨又は投資勧誘を意図するものではありません。
・掲載した時点の情報をもとに制作したものであり、閲覧される時点では変更されている可能性があります。
・信頼できると考えられる情報を用いて作成しておりますが、株式会社FOLIOはその内容に関する正確性および真実性を保証するものではありません。
・本メディアコンテンツ上に記載のある社名、製品名、サービスの名称等は、一般的に各社の登録商標または商標です。