見出し画像

ドラッグストアの未来を語る|日本チェーンドラッグストア協会 今西信幸 後編

ドラッグストアはますます日本人にとって必要不可欠な存在になる。そんなお話をうかがっているこの連載も最終回になりました。

今回は、ドラッグストア業界の今後について、詳しく聞いてみたいと思います。

今西会長(背景グリーン)

今西信幸(いまにし・のぶゆき)
1970年 東京薬科大学薬学部薬学科卒業。1977年にみどり薬品(株)を設立し、代表取締役就任(2007年迄)。その後、1981年には医療法人 秀和会を設立し理事に就任(2004年迄)。1990年、東京医科大学で医学博士号を取得した後、2004年に、医療法人 慶寿会設立し代表理事就任。2011年学校法人 東京薬科大学理事長へ就任した後、2016年に日本ヘルスケア学会会長就任、2017年一般財団法人 日本ヘルスケア協会会長就任、そして2018年に日本チェーンドラッグストア協会事務総長に就任し、現在に至る。

3つの柱をどのように支えていくか


――前回のお話で、ドラッグストアが伸びている理由はよくわかりました。

ただし3つの機能を発揮するには、先ほど挙げていただいた「薬剤師」「登録販売者」「管理栄養士」という3種類の専門職の方々が必要です。

業界としては、これらの育成をどう考えているのですか?

今西:
「たとえば現在、管理栄養士の就職先は主に病院です。

しかし献立を考えるだけなので、それほど大人数は必要ありません。だから資格者も少なかった。

今後はドラッグストアという需要が増えるので有望な資格になるのではないでしょうか。ただし、再教育が必要です」

画像3

――なぜでしょう?

今西:
「治療と予防とでは学ぶことがちがうからです。

また、医師や看護師、薬剤師とちがい、管理栄養士には守秘義務がありません。

これまでは、ドラッグストアが求めるような役割は管理栄養士に求められてなかったからです。これを業界として徹底しなければなりません」

――登録販売者の場合は?

今西:
「登録販売者は、薬剤師とともに一般用医薬品の販売に従事する者を認定する制度として、2009年に設けられた資格です。

薬剤師とは提供できるサービスや医薬品に差がありますが、役割が似ており、それどころか薬剤師に従うという立場に近かった。

そこで、新しいドラッグストアでは『介護』という専門分野を担ってもらおうという考えです」

――その薬剤師はどうでしょう?

今西:
「薬剤師には長い歴史があります。その過程で就職先がおおむね決まっていました。就職希望先の第1位は製薬メーカー、第2位は病院だったんです。

ところが日本の製薬メーカーは世界を相手にした新薬開発競争に後れをとっています。その結果、採用を極端に絞った。

そこで、新卒薬剤師たちの受け皿としてドラッグストアが登場し、逆にドラッグストアはそれまで薬剤師不足でできなかった調剤まで手を広げられるようになりました。

実はこれも、ドラッグストアが3つの柱を担えるようになった一因です」

画像4

――専門家がお店にいるというのは、消費者にとっては、たいへん魅力的です。

今西:
「この十年ほど、小売分野ではコンビニ業界(2018年売上10兆9600億円)とドラッグストア業界(同売上7兆2700億円)が成長してきました。

ところがこの2つは成り立ちがまったく異なります。

コンビニは『オペレーション型』です。コスト削減とクオリティの向上でお客様を惹きつけました。

一方、ドラッグストアは『相談型』です。先に挙げた3つの柱を担う専門家に相談したうえで購入できる。これがお客様を惹きつける要因になったわけです」

――コンビニの店員さんはレジ打ちや品出し等が中心ですものね。

今西:
「一方、ドラッグストアは専門家が担っている業態なんです」

過酷な業界内の競争が良質のサービスを生む


――ということは、ドラッグストアというのは付加価値で勝負できるから価格競争に巻き込まれづらいということですか?

今西:
「ところが実態は、マツモトキヨシホールディングスとスギホールディングスとの争いに象徴されるように、過酷な競争が起きています。

調剤薬局なら病院の近く、あるいは病院内に出店すればまず安泰です。ところがドラッグストアは、既存店の隣に出店しても五分の競争ができるからです。

これが先ほど述べたドラッグストア業界が成長している内的な要因でもあります。

しかしきびしいですよね。仕入量で仕入価格がまるでちがいますから。規模の小さな企業はどんどん淘汰されていってしまう」

画像5

――だから、先ほどおっしゃっていたような合併劇が盛んに行われているわけですね。

今西:
「そうです。大手は軒並み1兆円企業になるでしょう。そうすると先ほど業界全体で10兆円産業を目指していると述べたので、10社しか生き残ることができなくなります。

業界内の状況、業界外の環境を考えると、そうならざるを得ないでしょう。ただし、ドラッグストア業界は伸びていきます」

――10社体制になっても競争は続くというわけですね。

今西:
「競争はさらにきびしくなっていくでしょう。現在、協会の正会員は133社ですが、これが30社程度になった時はデスマッチの様相を呈するでしょう」

――ドラッグストア発祥の地である米国は?

今西:
「米国は2社です。独占禁止法があるので1社にはできませんから最小数です。日本も究極はそうなるのではないでしょうか。

先例としてコンビニ業界があります。コンビニ業界も離合集散を繰り返して、結局は3社体制になりました。

私見ですが、この3社は大手銀行の系列を意味するのだと思います。だからドラッグストアも同じような道をたどるのではないでしょうか」

――最近は地方から拡大したドラッグストアチェーンががんばって、都内などに出店しようとしています。これらもいずれ、上位各社に飲み込まれてしまうのですか?

今西:
「それはわかりません。なぜなら地方から出た企業が全国制覇した例が他業種ではたくさんあるからです。

たとえば調剤の場合、薬価は全国一律です。よって、人件費の安い地方のほうが利益率は高いはずです。

同じ客数なら、銀座の店より山の中の店のほうがもうかるんですよ。そう考えると、かならずしも大都市が有利とはいえません」

画像6

eコマースとは競合しない

――ドラッグストアが今後も発展していく理由はわかりました。しかしすべての店舗型小売店のライバルとしてネット通販があります。ドラッグストアはネットとの競争に勝てるでしょうか?

今西:
「さっき述べたようにドラッグストアは相談型です。コンビニのようなオペレーション型ならネット通販と競合するかもしれませんが、相談型のドラッグストアとは機能が異なると思います。

ドラッグストアは医療機関みたいなものですからね。ネットに医療機関の役割を期待するのは無理でしょう?」

――ネットの脅威から無縁だというのはすごいメリットです。相談という強みを生かすには、今後ドラッグストアにも病院のようなカルテが必要になるのでは?

今西:
「もちろんそうですが、相談型ですから人にお客がつく。

通常、医師は医師免許をとって25年ほどは勤務医として働きます。そして開業する。開業する際は勤務医時代の患者さんが付いてくる。医療は信頼が基本になっているからです。

画像7

ドラッグストアの薬剤師や管理栄養士、登録販売者にも同じことが言えるでしょう」

高齢化社会もドラッグストア業界には追い風


――ここまでお話を聞いて、ドラッグストアが日本人の生活を大きく変える可能性があることがよくわかりました。

今西:
「日本は世界より平均寿命が5歳も上の超高齢化社会です。これは歴史上前例がありません。

しかし人口増が終わり、一人っ子政策の影響もあって高齢化が進んできた中国を筆頭に、諸外国も、これから高齢化社会に突入していくところが多い。

だから日本の高齢化社会への対策や年金制度、医療制度をどのように維持・発展させていくかは、世界中が注目しています」

画像8

――そのために年金支給年齢を引き上げたり、高齢者でも働けるような社会を作ろうという動きがあります。

今西:
「精神論としては賛成です。しかし同じ会社内では働けないでしょう。

今まで会社の中堅や幹部だった人が平社員になってしまうわけですから。そうすると、ある年齢で他の組織に移籍できるようなしくみなども必要になるでしょうね」

――ドラッグストアの話題に戻させてください。先ほどの業界再編成のお話はいつごろから始まりそうですか?

今西:
「もう始まっています。そしてスタートしたらあっという間でしょう。

なぜならコンビニ業界も銀行業界もそうでしたから。都市銀行は昔13行もあったんです。東海銀行、大和銀行、三和銀行、富士銀行。これらをおぼえている人はもういないでしょう。

それに業界外の注目度も高まっています。2016年に百貨店業界の売上を超えたからです。

『ココカラファイン』の合併劇は朝日新聞の一面で取り上げられましたが、ドラッグストアの話がそんな扱いをされたことは、今までありませんでした。

だからドラッグストア業界は大きな流れに乗っているんです。

ただし、先ほど述べたように中で競争をしている各企業は大変です」

――飛ぶ鳥を落とす勢いのドラッグストア業界ですが、その布石は20年前の米国視察で見つけた3つの柱にあったわけですね。

いずれ日本社会に欠かすことのできないインフラのような存在になる気がします。

本日は貴重なご意見ありがとうございました。

ドラッグストア業界の今|日本チェーンドラッグストア協会 今西信幸 前編
ドラッグストアに求められる3つの役割|日本チェーンドラッグストア協会 今西信幸 中編
ドラッグストアの未来を語る|日本チェーンドラッグストア協会 今西信幸 後編

取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

画像6

株式会社FOLIO

金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第2983号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会
取引においては価格変動等により損失が生じるおそれがあります。
リスク・手数料の詳細はこちら
・本コンテンツは一般的な情報提供を目的としており、個別の金融商品の推奨又は投資勧誘を意図するものではありません。
・掲載した時点の情報をもとに制作したものであり、閲覧される時点では変更されている可能性があります。
・信頼できると考えられる情報を用いて作成しておりますが、株式会社FOLIOはその内容に関する正確性および真実性を保証するものではありません。
・本メディアコンテンツ上に記載のある社名、製品名、サービスの名称等は、一般的に各社の登録商標または商標です。