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どうなる? これからの男の美意識と、メンズコスメ市場の未来|ビューティーサイエンティスト・岡部美代治 第2回

文・取材/ 楯雅平(ロボティア)、写真/荻原美津雄 、編集・取材/鈴木隆文(FOUND)

男性向け化粧品の開発とマーケティングに長年携わってきた専門家から学ぶインタビュー。前回は、メンズコスメの機能や、利用者である男性の意識の移り変わりについて聞きました。

後編となる今回は、プロ目線でメンズコスメの良し悪しを判断するポイントやマーケットの将来性、日本企業が海外市場に打って出る意味などについて、引き続き岡部さんにお話しをしていただきます。

お客さんの悩みに寄り添うことが大事

岡部さんはコスメ業界で仕事を始めた当初から化粧品の効果メカニズムに関心をを持っていたそうです。化粧品は医薬品ではありませんから、たちどころに効果みえる強力さや速攻性があるわけではありません。

しかし、コスメを使用してケアをしている人たちと接するうちに、その効果を感じたそうです。それは「肌がキレイ」というだけの話ではなく、コスメを通じで自分をケアしていることで醸し出される自信や活力なのではないかと、岡部さんは言います。

では、優れたコスメとは何なのでしょうか?

岡部氏:
安全であることや、書かれた通りの成分が入っていることは当然のこと。
当たり前です。

優れているからというには当たり前以上のことができていなければなりません。メンズコスメにおいて、それを決めるのはコンセプトの選び方とその実現度合いです。

僕がコスメを評価するときは誰のために、どうつくったか? 実際にその通りになっているか? ということを見ます。

料理もそうですが、いくら良い素材を使っていても、誰に美味しく食べてほしいか? そのためにどう調理するか? という作り手の意図があってはじめて立派なものになるわけです。

化粧品も同じで、誰のためにつくったか、よくわからない製品はこれは力が入っていないな、と思ってしまいますね。

流行やお金儲けだけじゃなくて、ちゃんとお客さんを見て、お客さんのためにつくったか?それが大事なのです。」

何かを選ぶときについつい成分やらスペックやらをみて評価しがちな筆者としては、ちょっと耳が痛い話のような気も……。

コンセプトありきで、それを以下に体現できているかで製品のデキを評価するという視点はコスメのブランディングを長年みてきた岡部さんならでは。

では、岡部さん自信が製品の開発に関わるときには、どんな想いをこめているのでしょうか?

岡部氏:
メンズコスメ市場は、拡大しているとは言え、女性用のそれに比べたらまだまだ小規模です。

だから、始めたからといって、すぐにドンと利益ができる市場ではありません。

少し大きな話をすると、商品を売るというよりは文化を創っていくという
大きな挑戦
なのです。

僕が子どものころの50代はおじいちゃん、おばあちゃんでした。でも、今のこの世代は仕事でもプライベートでもバリバリとやっている人が多い。

そうなった理由には栄養状態の改善や医療の進歩があるでしょう。

でも、それだけではありません。文化の変化なのだと僕は思っています。
そして、その一翼を担うのがコスメ、美容なのです。

この数十年の変化を見ればアンチエイジングという言葉が
空言ではないと実感できる
と思います。

そして、僕はその中で化粧品が大きな役割を果たしていると信じています。

歳を重ねても活き活きとしていられるか? これは僕自信の問題、家族の問題として考えければいけないからコスメについてもそのように向き合っています。

メンズコスメ市場のこれから


分子生物学、再生医療などともクロスオーバーしつつある美容の世界。製薬会社のロートが展開する『オジバ』など、化粧品メーカー以外の参入などもあり競争は増々激化しています。

ところが、岡部さんはそのような競争は歓迎すべきことだと言います。食品メーカーやサプリメントメーカーが参入してもいい、日本市場の中で切磋琢磨しあって世界で勝てるブランドが出来上がれば良いというのが、岡部さんの見方。

ただし、化粧品は医薬品と比べて細分化による恩恵はそれほど多くないはずだと見ており、薬が個体ごとに配分を変えることで正しく効果を発揮するのに比べて、化粧品はより汎用的につくられたものでも十分に効果があると言います。

また、美意識という主観的な部分が大きく関わるものでもあるため、フィーリングや感性に基づいた製品作りもメンズコスメには欠かせないそうです。

では、これからのメンズコスメ市場はどのように変化していくのでしょうか?

岡部氏:
「コスメの今後を考えるにあたって、重要なのは技術と文化です。

技術が不足していると、安全性が不足していたり使い勝手が悪かったりして、皆が使いたいと思うものはできません。

それと同時に、美容は文化ですから、技術、テクノロジーだけでは説明できない面もあります。

文化の変化って、誰かが仕掛けているのかな? それとも偶然なのか……
僕にはわからないけど、新しい文化が広まっていくときにコスメの市場も大きく変わります。

僕がこの業界に入った当時、女性用マスカラはとてもマイナーな製品でした。でも、今ではたくさんの女性がマスカラを使っていますよね?

付きが良いウォーターベースのマスカラができて、普及を後押ししたことはあるかもしれませんが、同時にカルチャーやトレンドの変化したからというのが大きな理由です。

たとえば、男性はアクティブで汗をかきやすい人が多いから、
ファンデーションは向きません。

顔をこすっちゃうしね。でも、それを解決できる技術が確立されて、 普及させるための文化の変化が起これば男がファンデーションを塗る。そんな時代が来るかもしれません。

1割くらいの人の考えが変わると世の中に影響を与え始めるといわれています。昔はその1割が学生だったけど、今はその勢いはないのかも……。

忌野清志郎さんみたいなスタイルとビジュアル系バンドのようなラディカルな文化がステージの上だけでなく日常のシーンにも現れたらおもしろいと思いますけどね。

現実的なところですと、いまのメンズコスメ文化は「@コスメ」などのウェブサイトが大きな約割を果たしています。

女性のコスメほどソーシャルメディアの影響は大きくなく、雑誌の影響は根強いようです。

では、ズバリ教えてください!これから波が来そうなメンズコスメのトレンドって、何なのでしょうか?

岡部氏:
ホリスティックという概念をベースにした製品が重要になります。

ホリスティックというは全体的なという意味で、コスメにおいては洗顔料や化粧水などを超えて、食事、サプリメント、運動などより全体的なアプローチで健康で美しい状態になることを目指すという考え方です。

より広義に捉えるならメンズ向けメイクも含み、コンシーラーやアイブロー、髪や髭のレタッチ用の製品などが関連してきます。

メンズコスメの良し悪しはコンセプトとその実現度合いだとお話ししましたが、それを実現するためにより包括的にアプローチしていくというのがこれからの大きな流れになるでしょう。

手前味噌ですけれど、私はスキンケアやヘアケア用品を使いますがそれだけではなく毎日1万歩歩く、という習慣を長年続けています。

これもひとつのホリスティックアプローチと言えるかもしれませんね。

海外市場に活路


日本ブランドの女性用コスメは中国をはじめとした海外市場で高い評価を受けています。一例として、資生堂は海外での売上が日本国内の売上を超えるなど、コスメブランドの成長にはグローバル市場での成功が欠かせない状況です。(参照:ひと目でわかる資生堂 | 会社案内 | 資生堂グループ企業情報サイト

しかし、海外のメンズコスメはフレグランス系が中心で、男性が洗顔料や化粧水、乳液を使うという習慣はありません。かろうじて日焼け止めや乾燥肌をケアする製品は使われていますが、一歩進んだスキンケアは根付いていいません。そのため、海外で日本式のメンズコスメを売るためには意識変容や文化変容が前提になければならず、並大抵のことではありません。

けれども、岡部さんはあえて海外市場を目指すことに価値を見出していると語ります。

岡部氏:
今の日本市場は、団塊世代、ポスト団塊世代の男性が懐に余裕があって、
粋で活力のある生き方をするためにメンズコスメにお金を使ってくださる
重要なお客さんたちが支えています。

ですが、この先10〜20年を見据えた時に成長が見込める市場ではありません。

私も来年70歳ですが、90歳の自分を想像するといまと同じだけ美容に
お金や時間をかけているとは思いません。

いまの団塊の世代の皆さんも同じでしょう。

だから、この市場頼みでは長期的な成長は実現できません。

そういった意味で、僕はアジアが日本を救うと思っています」

アジアが日本を救う――。非常に端的な指摘ですが、それが意味するところは一体なんなのでしょうか?

岡部氏:
アジア人の肌は似ているので、ほぼそのままの技術でいける。

メンズコスメの要素技術は日本で十分に確立していますから、あとは情報の発信者が現れて、各地の文化が変化していけば大きな市場が生まれます。

当然、韓国のコスメブランドなども同じ市場を狙っていますよ。

アジアとひと口に言っても、中身は多様ですが、ビジネスの横展開は可能です。

でもね、僕がインドネシアのジャカルタに行って感じたことがあるのです。

商社に勤める日本人が何かこう……インドネシア人を下に見ている。これは良くないよね。本当は一緒にやらないといけない。

一方で、マンダムなんかは現地にオフィスも工場もあって地元の人と一緒にやっているから良いと思う。

文化を押しつけたり、価値観を侵したりするのではなく、一緒につくりに行くという考え方が大事です。

大きく言うと、化粧品を通じた世界平和くらいの理想があって良い。

洗顔の文化が普及すれば、アジアにいっぱいいるニキビの若者を減らしてあげるのに、と思いますし、現地の人の悩みに寄り添いながら物売りをしていけば、ビジネスも成長するし世界はもっと平和になります」

肌や頭皮の悩みは人類共通。だから、それを解決するコスメは全世界で必要とされるようになるのかもしれません。

所得の水準や文化や考え方などの理由で、まだメンズのコスメを買わなかったり興味がなかったりする人たちも多いかもしれませんが、これから先のことを長期的に考えるのであれば、世界、特にアジアへの進出は日本企業が避けては通れない選択肢となりそう。

岡部さんにはいろいろと深いお話をしていただきましたが、最後にもうひとつ。メンズコスメ初心者の代表である私が清潔感ある男になるための、最も大事なアドバスを贈るとしたら、何でしょう?

岡部氏:
継続は力なり、と言います。コスメも同じ。使い続けることが効果を生みます。

まずは、洗顔、保水、乳液。この3つを最低でも1ヶ月続けてみてくださいきっと、変化を実感できますよ」

美は一日してならず! しっかりとしたケアを続ければ、清潔感のある男になれそうな気がしてきました。

岡部さん、今回は「メンズコスメ」について、たくさん教えていただき、ありがとうございました!

 おわり


目次

メンズコスメの歴史と男たちの美意識の変化|ビューティーサイエンティスト・岡部美代治 第1回

どうなる? これからの男の美意識と、メンズコスメ市場の未来|ビューティーサイエンティスト・岡部美代治 第2回

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