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日本人が意外と知らない温泉の歴史と未来 温泉専門家・石川理夫氏インタビュー・後編

傷や病気を癒す湯治の場、また人が集まる「宗教的聖地=パワースポット」としての歴史を紡いできた温泉は、同時に周辺に住む人々の生活や藩を支える収入源でもありました。

前編では、日本における温泉の歴史、世界の温泉事情を俯瞰しましたが、後編では「温泉とお金」の関係についてもう少し踏み込んでみましょう。

石川氏は、日本人が温泉を訪れる観光のカタチは、バブルの崩壊ととともに、団体客・企業主導型・男性主導型から女性主導型へ、また団体から個人・家族・グループ型へ変遷を遂げたと説明します。その後、90年代からは秘湯・源泉を巡る人々の流れが増え始めたとも。

石川氏:
「温泉地の宿泊客数と宿泊施設数のピークは1992~1993年頃。その後、ずっと落ち込んでいます。しかし、温泉客数はここ3年ぐらいで少し上向き。その要因のひとつがインバウンドです」

石川氏は「日本の温泉は世界に誇る観光資源」であり「温泉体験は外国人観光客が日本でやってみたい事のベスト3のひとつに」としつつ、内需だけでなく、インバウンドなど外需を積極的に取り込むべきだと指摘。

また、外需を取り込む際には、さまざまなしかけが不可欠だと説きます。

石川氏:
「問題は『受け皿』。例えば、海外の富裕層向けのサービスが日本には少ないと思います。海外の富裕層からすると、温泉地の価格設定は中途半端になりがち。

彼らからすると、値段が低くて自分たちのニーズに合わないと。そう考えると、星野リゾートやかよう亭のように富裕層にはっきりとターゲットを絞る戦略は、ひとつの答えになりえるかもしれません。

まだ実現してはいませんが、星野リゾートは草津と軽井沢の間にプライベートジェット空港を作る計画で、そこから中国を中心に富裕層を誘致していこうとしています。

一方、かよう亭7割以上の外国人セレブがリピーターとして通っています。客室が10室そこらしかないのに、客単価はとても高い。海外のお客さんが喜ぶのは、料理も当然ながら、ご主人が勧める地元加賀の伝統工芸です。

何十万円という品をポンと買って行くそうですよ。そのように、ひとつは今までの日本の温泉地に欠けていた、国内外を含む富裕層のニーズを満たす施設ともてなしをいかに揃えられるかが、温泉地のひとつの課題でしょう」

一方で、「伝統とインバウンド」の融合も重要だと石川氏は言います。

石川氏:
長野県の野沢温泉は、外国人観光客にとても好まれている温泉のひとつです。スキー場が近くにあるからという理由も大きいです。ニセコや白馬の流れですね。ただ理由はそれだけはありません。

外国人からすると、場所といい、スケールといい、白馬やニセコはいわば欧米の延長のような感じがあると。

一方、野沢には日本の歴史・地域が残っているという評価なのです。オーストラリア人の富裕層などは、野沢に物件を買って、温泉を引きたいと打診してくるそうが、野沢の人はダメだと。

ニセコはOKなんですがね。というもの、野沢の人々は、数百年にもわたり自治で温泉を維持してきました。野沢組という、中世から続く伝統的な自治組織があるんです。地域の8~9割の温泉はその野沢組が管理しており、外国人に限らず東京の資本も入れません。

そのように、伝統とインバウンドがうまく融合した場所というのは、非常に価値が高い。伝統を崩して迎合するのではなく、ありのままの姿で滞在メニューともてなしを適応させていくという、いわば温泉の理想形です。そういう形が増えていけば、おのずとインバウンドのキャパも増えていくかと思います」

富裕層向けのサービスにしろ、伝統×インバウンドにしろ、そこにはひとつの共通点があるように思えます。それは、「その場でしか味わえない体験」を提供することです。現在、訪日外国人は日本ならではの体験を求める人たちも増えていると言われています。

その需要をいかに汲み取れるかが、観光資源としての「ONSEN」の潜在力を左右すると言えるのかもしれません。なおインバウンドが増えるにつれ、当初、東京や京都、富士山などに集中していた客足は、次第に地方都市へ向きつつあります。

グループから個人旅行への変化も見逃せません。石川氏は、そのようなインバウンドの質の変化を理解し、温泉地側が柔軟に対応していくべきだと言います。

温泉旅館は古い木造などが多いので、耐震問題もひとつの課題でしょう。また、後継者問題も非常に大きな課題。

現在、老舗の旅館がどんどん廃業しています。大きな理由として、後継者がいないため、銀行がお金を出資することができないのです。所有権と管理運営権を分離して、クラウドファンディングなどの手法で資金を募るというのもひとつのやり方かもしれません。

温泉地の所有は伝統的に受け継ぎつつも、運営は若者たちに任せるという発想ですね。現場の方々の心情的に難しいところではあると思いますが、後継者がいないという状況のなか、運営・経営面を変化させていくというのは早急の課題だと思います」

幼少期、熊本に住んでいたという理由から、黒川、湯布院など温泉地に親しんだ石川氏。サラリーマン勤めから独立後、癒しを求めて地方の温泉場に行くようになってから本格的にその魅力にハマったといいます。そして歴史を調べるうちにさらに虜になり、いまでは日本を代表する専門家として活動しています。

石川氏:
温泉はコモンズ、つまり『みんなの資源』として発展してきた歴史があります。文化や伝統の集積地でもあるし、癒しや平和を求めて人々が訪れた場所でもある。

また、温泉も人間と同じで『十湯十色』です。みんな個性や持ち味が微妙に違います。専門家としては、みなさんに温泉を五感全てで楽しんで欲しいと考えています。普段、都会では閉じている五感を温泉で開放しストレスから逃げることも、人生においてとても大切なことだと思います」

その昔、関所を越えて人々が訪れた温泉は、世界の人々が国境を越えて訪れる「ONSEN」へと進化しようとしています。日本が誇る癒しの場の未来がとても楽しみです。

石川先生、お話をお聞かせいただきありがとうございました!

取材・文/河鐘基(ロボティア)、写真/荻原美津雄、取材・編集/鈴木隆文(FOUND編集部) 

石川理夫氏インタビュー

日本人が意外と知らない温泉の歴史と未来 温泉専門家・前編

日本人が意外と知らない温泉の歴史と未来 温泉専門家・後編

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