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我々はどうバイオインダストリーの恩恵を受けているのか?|バイオインダストリー協会 田中雅治/中川智 中編

お酒を作るテクノロジーなどから生まれたバイオインダストリー。

今最先端ではどのようなことが起きているのでしょうか?

今回も、前回に引き続き、一般財団法人バイオインダストリー協会の田中さんと中川さんにお話をうかがいました。

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田中 雅治(たなか・まさはる)[左]
(一財)バイオインダストリー協会(JBA) 先端技術・開発部部長
1962年青森県生まれ。1988年新潟大学大学院農学研究科修士課程修了。1988年4月小野薬品工業㈱入社後直ぐに福井医科大学(当時)にて人体病理学の研修を受け、小野薬品では安全性評価に従事。その後、グラクソ・スミスクラインで薬効病理、田辺製薬㈱、田辺三菱製薬㈱で主に毒性病理評価に従事した。その間、医薬品の承認申請業務も担当。2018 年 4 月より現職。JBAではヘルスケア研究会、バイオインダストリー大賞・奨励賞事務局を担当。趣味はテニス。

中川 智(なかがわ・さとし)[右]
(一財)バイオインダストリー協会(JBA) 広報部長
1961年埼玉県生まれ。1987年東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。1987年協和醗酵工㈱に入社。2000~2007年㈱ザナジェン出向、2008~2010年(社)バイオ産業情報化コンソーシアム(JBIC)出向、2017年月より現職。その間、協和発酵キリン㈱、協和発酵バイオ㈱に所属。専門は、応用微生物学、バイオインフォマティクス、ゲノム生物学、食品機能学など。この間、多くの経済産業省系のライフサイエンス領域の国家プロジェクトに関与。最近の趣味は家庭菜園。

土壌改良も「マッスルマダイ」もバイオの力

――ゲノムの解読という技術革新があって、バイオインダストリーが関わる範囲も広がったというお話を前回お聞きしました。

中川:
「食べ物はもちろん、工業用原料などにも利用できます。

バイオテクノロジーは、科学から発展した『技術』のひとつなので、あらゆる分野に活用されています。

あまりにも範囲が広すぎて、なかなかうまくご説明ができないくらいです」

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田中:
「たとえば、JBAには『バイオインダストリー大賞、奨励賞』という表彰制度があります。この奨励賞受賞者にはさまざまな分野の方がいらっしゃいます。

具体的には、ライフサイエンス、医薬品、農業、林業、水産業、エネルギー、環境などです」

中川:
「意外なところでは土壌改良です。土の中に棲む微生物を利用した土壌汚染浄化などにも、バイオテクノロジーが利用されているのです。」

田中:
「『近大マグロ』で有名な近畿大学水産研究所が量産化に成功した『マッスルマダイ』はご存知でしょうか。

ゲノム編集(ゲノム内のDNAなどを編集すること)によって、筋肉量を1.2倍にしたマダイです。これなどはわかりやすい例だと思います。

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また、米作に不向きと言われていた北海道のコメが、この数十年でおいしくなったり、近年、多くの果物の味が向上したのは、すべてバイオテクノロジーの成果と考えていいでしょう」

――品種改良は昔から取り組まれてきたことだと思います。それが最近、急に目立ちだしたのはなぜですか?

中川:
「昔は生物同士を掛け合わせて品種改良していました。これを『育種』とも言います。

人類が、野生動物を飼いならして家畜やペットにしたのも、古典的な育種の形です。

育種は時間がかかります。たとえば、寒さに強く、かつ、おいしい品種を作ろうとすると、寒さに強いタネとおいしいタネを掛け合わせます。

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しかし1代ではうまく特長が出ません。寒さには強くなったが、おいしくないタネができたりするのです。

その際はもう一度、おいしいタネを掛け合わせる『戻し交配』を行います。これを繰り返し行わないと品種改良ができませんでした。

しかし現在は、『寒さに強い』とか『おいしい』といったことを左右している遺伝子領域を探し、それをピンポイントで操作することが可能になりました。

だから時間が短縮でき、手間が簡略化され、さまざまな野菜や果物をおいしくすることができたというわけです」

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バイオ医薬品分野の激しい競争

――ありとあらゆるところにバイオテクノロジーが使われているのですね。

話は変わりますが、さきほどのお話にあった、本庶先生の研究は何が革新的だったのですか?

田中:
「従来、がんの治療は、患部の切除や放射線治療によりがん細胞を叩く方法などが主流でした。

しかし本庶先生は、がん細胞には免疫細胞の持つ本来の働きを邪魔する仕組みがあることを突き止め、その仕組みを阻害して、免疫細胞ががん細胞をちゃんと攻撃するようにしたのです。『がん免疫治療法』と言います。

これによって、がんの治療方法は大きく変わりました。先生のご研究は、感染症に対するペニシリンの発見になぞらえられるほどの大きなインパクトでした。」

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――産業という面からも有望なのですか?

田中:
「本庶先生の発見も、日本の小野薬品と米国のブリストル・マイヤーズ スクイブ社が医薬品『オプジーボ』の製造販売につなげました。

しかしすぐに、『メガ・ファーマ』と呼ばれる巨大製薬企業のひとつである、米国のメルク社が『キイトルーダ』という、同じ仕組みの薬を開発しました。

現在のグローバルでの売上は『キイトルーダ』のほうが多いようです」

――発見者がかならずしも有利ではないということですか?

田中:
「メガ・ファーマは事業規模がたいへん大きく、研究・開発力も高いので、すぐに追いついてしまうのです」

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――特許で守られないのですか?

田中:
「もちろん『特許保護期間』は後発品を発売できません。しかし医薬品開発は一般の人たちが想像する以上に時間がかかります。

製品化した途端に特許が切れるということも珍しくありません」

――発明・発見しただけで喜べる業界ではないのですね。

マグロから医療まで、様々な分野で使われているバイオテクノロジー。

我々の暮らしを豊かにするために、多くの分野の第一線で研究者たちが日々新しいことにチャレンジしていることを知りました。

次回は、医薬品に絞ったバイオインダストリーのお話をうかがいたいと思います。(つづく)

不老不死をバイオテクノロジーから考える バイオインダストリー協会 田中雅治/中川智 前編
我々はどうバイオインダストリーの恩恵を受けているのか?|バイオインダストリー協会 田中雅治/中川智 中編
不老不死の時代は来るのか?|バイオインダストリー協会 田中雅治/中川智 後編

取材・文/鈴木俊之、写真/荻原美津雄、取材・編集/FOUND編集部

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